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17 凶



いつも、うっすらとした飢餓感に苛まれている。

(まがみ)は帯の上から腹を撫でた。


恐らく、この飢餓は門の出現に居合わせてしまったせいだった。

東北の骨河原に現れた黄ばみがかった白い門。

現在でも周辺地域は封鎖されている。

人間たちは、未だ門の向こうにある世界の性質を見極められていない。



門の出現は唐突だった。

不意に濃い霧が降りたと思ったら、もうそこに門があったのだ。

自分のなにかが吸い込まれた気がした。

そして彼女の性質を変えてしまった。


それでも、彼女は幸運だった。

草木は灰になった。

動物と人は、完全に骨になったものと 部分的に肉になったものがいたが、死ぬことはなく手近のものを襲いはじめた。


自分は生き延びた。

多分、幸運だった。

そっと手を止めて、見下ろす。


今、彼女は自分が分裂しているように感じる。

いつも感じている飢餓と、それを満たすことに疑惑と抗いを感じる別の本能だ。


彼女は小さな動物たちを拾う。

哭く声が憐れを誘い、庇護したくなるから。

けれど、それらのほとんどは彼女を怖がっていたし、近づくことは許してくれたが触れられることには殊に怯えていた。


腹から手を離して自分の手をしげしげと見つめる。

この手は、害を与えるものなのだろうか。

自分を崇める人間たちも、彼女に近寄ることや見つめられることを怖がっている。


はっと、顔をあげる。


誰かに、つけ回されている。

彼女は後ろからの視線にも敏感である。

今までも、人につけ回されるのは珍しくなかったが(特に夫、結婚前も結婚後も)、今回は害意を感じるものも混じっている。

彼女の別の本能が警戒を増した。

身を、守らねば。



守る。

その意識に凶はますます、 憂慮を深くしながら、足早にその場を去る。

わたし自身からも、守らねばならぬ必要があるのではなかろうか。


守りたいと思うものを、無事でいさせるために。


神仏に願ってきたが、応答はない。

ふと人の中に紛れる妖を手助けしているという存在の噂を思い出す。

彼女は他の妖と接触することは極力避けていた。

人より性質が読めないし、露見の可能性も上がる。危険だからだ。


しかし。

自分を覆う飢餓を感じながら、同時にそれに抗う自分の中心を感じる。

──必要が、あるのではなかろうか?


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