15 地蔵ノ聞クコト見張ルコト
「寺社をまわって情報を集めていたところ、怯えた小坊主がおりまして。話を聞くと凄まじい陰の気の女人が参詣に訪れるというのです」
地蔵坊は人によく気がつきお節介である。
まず情報収集から調査に当たる任務に適役だったが、早速その能力を発揮したらしい。
「それで張り込みましたところ、折良く当の女が現れまして、一目でわかりました。凄まじい陰の気を身内に溜めておるようで、坊主が怯えるのも無理からぬ有り様」
「相当の量を体に取り込めるとは、なまじの人じゃねえな。女……、参詣に来ているということは神仏を介しての呪いの類いか?」
「いや、」
地蔵坊が顎を撫でる。
途端に自分の今の顔が変わっていたことに気がついたのか、情け無さそうに袖口の元の自分の顔を見やって吐息をついてから、気を取り直したように続けた。
「あれは──冥府への意図があってやっているようには見受けられませぬ。冥官である嬢やが検分すればはっきりするだろうが、あの女人はただ自らに罪障を取り込んでおるだけのように思えます。死ねば、地獄のお百度どころでは済みますまい。恐らく今までの不足分の罪障全てそのままではないかと。人ではありませぬ」
「だけたぁ、冥府を大騒ぎさせておいてどんな料簡の遊びだ」
目元に険がこもる。
「それについては、実はその女人に探偵がついておりまして」
「探偵?」
数え音が首を傾げる。
冥土生まれで、そもそもこの世のことには疎い。
ただ、技術局では江戸の大火で亡くなった職人たちを丸抱えした。
そこに入り浸っていたので江戸っ子文化と伝法口調は身についている。
父親には嘆かれているが。
「本邦に最近できた職業ですな。なにやら怪しい人間を調べる民間の職業らしい」
「岡っ引きってことか?」
「説明してもらったところ密偵や隠密に近いようですな。ご公儀が無くなりましたからね。民間の商いや不義密通に対象を変えて生計をたてているのではないでしょうか」
「嘆かわしいな」
「ですが、おあつらえむきです。女人の素性と、どんな事情に取り巻かれているか調べあげるのが商売ですから。探偵は寺と懇意にしているので居場所も確かです。赴けば、すぐに事情を聞けるでしょう。ですから、女人を追わず報告に参った次第」
「そうか。よくやった、助かる。手当たり次第の計量調査じゃ埒が空くかわからなかったからな」
「すぐお出掛けに?」
「いや、こっちでの仕事もあるからな。そっちの体が空くなら白鴉を呼び戻して長屋に待機させてくれ。あいつで持って帰れるかどうか、女の居場所がわかったらすぐ検分させたい。探偵のところには今夜行く」
「承知つかまつった」
言葉と共に黒霧が消える。
数え音は少し名残惜しげに部屋を見渡した。
現世ライフも目新しくて楽しかったのだが。
まあ、片はつけねばならない。




