14 メイドノ冥土事情
数え音は地獄・冥府の機器の開発およびメンテナンスを司る部署である技術局の局長を務める。
現閻羅王の末の娘である。
冥府の役人であり、本来現世にいる身ではない。
そして今、本人は預かり知らぬが天誅屋小町などと世間を騒がせている当人である。
発端は、転生を最終的に承認・管轄する神仏たちの下天部を通して冥府にクレームがかかったことである。
死者は冥府で生前の罪を裁かれ、罪障に応じて地獄で刧罰が下され罪を償い、次の場所に行く。
が、罪が拭われていないし魂格からも到底ふさわしくない亡者が地獄から上がって来たと転生の世話をする神仏衆から報告があったのだ。
当然、冥府のミスであるとされた。
書類の遡りなども行われ、さらに数え音が管轄する罪を測定する機器の誤作動による計量ミスも疑われた。
冥府では生前の行為を映し出す浄玻璃の鏡など客観的検証をする機器の開発によって官吏の書類に埋もれる膨大な負担を減らし裁きが円滑に行われている。
緊急のメンテナンスで、機器の異常は見当たらなかった。にも関わらず、書類との突き合わせで、本来よりも少なく罪を計上していることが判明した。
さらに既に地獄にいた亡者の直近の裁きの洗いだしをしたところ、計量差のあるものが数名。
事故か、意図的なものか。
冥府内の者による内部犯行か、亡者側の画策による外部犯行か。
内部犯行の可能性については、監査班が動いている。
計器類の責任者である数え音は、機器の正確さに絶対の自信があり、素人に細工されるような代物でもないことを主張し、現世での計量測定を訴えた。
外部犯行説である。
突如現れた現世とつながる門は地獄にとっても想定外で警戒されていた。
理由はまだわかっておらず、繋がった先である現世側の策動ではないかと不審が蔓延している。
そうでなくても、現世の印象は悪い。
当然である。現世とは地獄に罪人ばかり寄越してくる邪悪な場所であるからして。
そもそも、人を作り出した神々は人間の死後の扱いについてはあまり考えておらず、冥土の地にとりあえず押し付けその後を考えるという形態が今日まで続いているのが、地獄と冥府の有り様である。
この地は、現世の物質世界と違い、より微細で精神的な世界となっており、罪を抱えたそのまま亡者がやってくるのは冥土の住人にとっては疫病を振り撒かれるようなものである。
それゆえ亡者の罪をすすぐための地獄巡りの制度が整えられた。
厄介を押し付けられた形の冥土の民は現世の亡者たちも神々もあまりよく思ってはいない。
父親には渋い顔をされたが数え音の主張は取り上げられた。
しかし技術局員自身も事態がはっきりしない以上、内部犯行の疑いのかかる身であり、第三者的立場の者を随行しての出張調査を許可された。
地獄で罪人を救う修行を勤める集団から地蔵坊が同行した。
彼らは閻魔王預かりだが、実際の身元引き受けは天の神仏たちである。
彼らは名を捨てるので、所属する全員が地蔵坊と呼ばれる。
冥土の住人からは、善人でなく罪人をまず救おうとする酔狂集団として、やはり冷ややかに見られている。
今回同行した地蔵坊は顔なじみだが、もともと馴染んでいたのは、袖に噛みついてくっついている中年の男の顔の方である。
彼らは地獄でもとりわけ厄介な亡者を救おうとして散々な目に遭っているのが常なので、数え音も敢えて尋ねない。
色々あるのだろうし、必要がなければわざわざ答えることもしないだろう。
亡者たちも救われれば転生するのに記憶は捨てていく。誰かが覚えている必要などない。
更にもう一人、というかメンテナンス局預かりになっている《証拠品》が同行している。
追っ手がかかっている亡者の身代わりをしていた人形、である。
罪の計量ミスが発覚する前に、亡者が地獄から逃げおおせた重大事件があったのである。
このことで、外部犯行説を支持するものも多かった。
現世からやって来た亡者が地獄からの抜け道を見つけている。由々しき事態である。
身代わりをしていた人形はなぜか現世と地獄の両側で固く閉じられている門を開ける。
この人形は、境界が機能しない。
本来罪を償うべき本人との入れ替わりが可能だったという深刻な重要案件の証拠物件だが、持ち出しが許された。
閉じ込めることができない以上、保管できない。
謎に数え音に懐いているので、同行させた方が逃亡の危険が少ない。
さらに、この調査は現世側に話を通さないまま行うので、この人形の機能があれば現世側の許可がなくても行き来が可能である。
万が一、元の持ち主と現世で接触するならついでに捕らえて来いとも言われている。
見込みは薄そうだが。
そんなこんなで、彼らは現在進行形で記録されている冥府の罪咎の台帳を参考に、現世でそれが合っているか計り、更に地獄に仮送りして数字に変化がないか確かめ、念のため徳によって罪を減じる神仏管理の極楽帳簿も確認怠りなく、帳尻がどこで狂っているのか調査しているのである。




