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10 探偵、美女ヲ調査スル



「奥方は美女の病ですな」


目があるべきところがつるりとした頭のでかい福助頭の探偵があっさり言った。


冬密は探偵を締め上げる。

岡惚れを心配して目のない探偵を選んだというのに、何てことだ!!


ただでさえ、あの後凶が帰ってからも一人で過ごしたいと部屋にこもってしまい、ろくに妻を眺めることさえできていないのだ。

呪詛屋は留守でまた足を運ぶ必要がある。

それなのに増殖するしっぽに囲まれて散々だった。


「おごっ、おちっ、落ち着いてください旦那ッ」

「何が落ち着けだ、この(かた)り屋が。どこに目玉を隠してる、この皮膚の奥か、耳の穴か!?」

凶が他の男の目にさらされただけで腹が立つ。

教団の男たちの存在だって普段渋々我慢しているのだ。


「お忘れですか、あっしは探偵です。旦那は優秀な探偵をお頼みになったんでしょう!? 推理したんですよ!!」

道理のようなことを喚いてる気がしたので渋々手を離す。

「よし、その優秀な探偵としての言い分を述べてみよ。虚偽を嗅ぎ付けたら、その頭かち割ってくれる」

「ご勘弁願います。こりゃ大事な商売道具なんで」

コツコツと福助頭を探偵が叩いて見せる。


「美女の病とはなんだ。確かに凶はこの上ない美女だが、」

例え目がなくてもあらゆる美女の痕跡が残ろう。

見ずともわかることだったと考えが及んで一応反省する。

締め上げるのは少し早計だったか。


気鬱(きうつ)ですナ。過ぎたるは及ばざるが如しってヤツです。五体満足の方が人生に絶望したり退屈したり気忙しい。恵まれてそれがさらに擦りきれたようになったんでしょう。あたしゃ、この目を無くしてから生きるのが面白くって仕方がないが」


それは特殊事例のような気もするが。

「生来のものではないのか」

「あたしが目を無くした翌日でしたよ。目玉売りが全国一斉摘発を受けたのは」

貧しかったのだろう。

政府と反政府軍が睨みあっていた一時には目なしの国も成立しており、目玉が高額商品として流通していたのが普通の時もあった。



目玉売りは、そこら辺の薬だの飴だのの行商と同じくうろついていた。

時代は移ろうものである。

目なしの行商人による目玉の買取りは傷が残らないとは聞いたものの、こんな風になるのか。



凶が鬱というのは、まあそうであろう。

禍津神(まがつかみ)として崇められ、不幸を食すのである。

それで朗らかな性向であれば、いっそ不気味だ。

逆に食あたりでも起こしているのかと思う。


「それであれはどこに行ってなにを?」

「寺に参詣なさってますな」


……参詣?

本人が神として崇められているのに?


「大丈夫なのか?」

何しろ、信者付きの凶神(きょうしん)である。他の神仏との折り合いはどうなっているのだ。

「観音様は心が広おございますからな。信者の区別はしやしません」


それは豪気なことである。

余程、隔たりを保った安全圏にいるとしか思えない。

人間は皆、たった一人ですら手に余る地獄を抱え得る存在であるというのに。


「そんなもので気が晴らせるものなのか」

外国の学問を学ぶ環境にあった冬密は疑わしげに言う。

「いえ、願掛けしてらっしゃいますな」

「なにをだ!?」

探偵が黙って首をさする。


胸元から取り出した財布から札を抜き出して投げてやった。

目のない探偵はすかさず取り上げて枚数を確かめる。

本当に見えないものか。

しかし、本物の目無しは非常に優秀だという話だ。

だからこそ一時王国を立ち上げ、そしてだからこそ疎まれ警戒され分散を迫られた。


「奥方は人になりたいと願をかけておられるようです。それは熱心に祈っておりましてな。普通の人間の女になりたいと」


冬密は目を見開く。

──なんと頓狂(とんきょう)な!!

普通? 普通の女など凶ではないではないか!?


「極めて熱心にしつこく祈っておいでで、生なかの執念とは思われませんな。今のところ浮気の陰はありませんし、可能性もありませんな。──調査を続行しますか」


「無論だ」

即答する。

探偵がコツコツと大きな頭を叩く。

「なにか出てきますかねえ」

今ないからといって、これから無いとは限らない。

凶の食欲を刺激する不幸な男は、いつでも潜在的に存在するのだ。

油断大敵である。


「とにかくどこにいようと見失わず行動と近づく男を逐一調べてくれ」

「まあ、ご希望には出来るだけ限り添いますが」

今まで何の対策もしていなかった己の未明を悔やむ。


己は腕力には自信がないので、さっさと呪い殺す準備をしよう。

古くから続く家柄の役得というものだ。

また花街まで足を運ばねば。


ぽふり。探偵の肩に尾のしっぽが現れてぎょっとする。


家からついてきたのか。

今まで外にまで付きまとわれたことはない。進化したのか。


一般的猫が百年で猫又になるなら、こいつは百年後なんになっているのだろう。

やはり広大なすすき野か。

もしやこの国のすすきの原っぱは、すべて猫の成れの果てなのでは、という疑惑すら湧いてくる。


ええい、と苛立たしげに頭を振る。

こんな馬鹿な思考が湧くものにかかずらっていては、ろくなことにならない。



呪殺準備ついでに、こいつの相談もしておこう。



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