表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。  作者: 東野あさひ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/41

第4話 #二人きりの掃除当番

月曜の朝。

 黒板の端に貼られた当番表を見て、俺は一瞬で悟った。

 神は俺を試している。


 掃除当番:真嶋・七瀬。


「お前、見た?」「うわぁ……」「#運命のローテーション」

 クラスメイトの視線が一斉にこっちへ向く。

 おい、ただの当番表だぞ。何でそんなに恋愛リアリティショーみたいな空気になるんだ。


「真嶋くん、どうしました?」

「いや……当番。見た。」

「一緒ですね」

「うん、知ってる」

「……嬉しいです」

「その“嬉しい”が火種なんだよ」

「え?」

「いや、なんでもない」


 その日の放課後、教室に残ったのは俺とひよりの二人だけ。

 窓の外は茜色。廊下のざわめきが遠くで溶けていく。

 静かな教室で、黒板消しをパンパンと叩く音だけが響いた。


「窓、開けますね」

 ひよりが背伸びをして窓を開けた。

 春の風が一気に流れ込む。

 カーテンがふわりと浮き、ひよりの髪が少しだけ揺れる。

 その瞬間を見て、なぜか俺は目を逸らした。

 意味なんか分からない。ただ、何となく。


「手伝うよ」

「ありがとうございます。黒板、お願いします」

「はいよ」


 黒板を消しながら、俺は口を開く。

「なあ、七瀬」

「なんですか?」

「“誤解”って、どう思ってる?」

「……難しい質問ですね」

「そう?」

「でも、誤解って、きっと“知られたくない自分”を見せるきっかけになる気がします」

「……哲学的だな」

「誤解って、ちょっとだけ鏡みたいです」

「鏡?」

「うん。少し歪んでるけど、本当の顔が見えることもあります」


 なるほど。

 そんなふうに考えたこと、一度もなかった。

 誤解ってただのトラブルだと思ってたけど――。

 この人の言葉は、どうしてこんなに温度があるんだろう。


 そのとき、教室のドアの隙間から「カシャッ」と音がした。

 振り返ると、誰かがスマホを構えたまま逃げていく。


「……また撮られたな」

「ですね」ひよりが小さく笑う。

「なんで笑うんだよ」

「だって、怒っても仕方ないです。

 だったら、きれいに撮れてるといいなって思って」

「ポジティブの方向、狂ってない?」

「誤解されるなら、絵になる方がいいです」

「名言っぽいけど、炎上フラグだぞそれ」


 掃除を続けながら、沈黙が少しだけ心地よくなる。

 雑巾を絞る音、チョークの粉の匂い。

 そして、窓の向こうの光。


「真嶋くん」

「ん?」

「ここ、届かないのでお願いできますか」

「はいはい」


 背伸びしていたひよりの手から雑巾を受け取る。

 指が少し触れた。

 心臓が、微妙にリズムを狂わせる。


「……冷たい」

「お前の手が温いんだろ」

「じゃあ、半分こですね」

「だからその“半分こ”の使い方おかしい」


 ひよりは口を押えて笑った。

 その笑い声が、教室の光に溶けていく。

 そのまま何事もなく終わればよかったのに――。


 翌朝。

 俺は机の上にスマホを叩きつけたくなった。


───────────────────────

StarChat #二人きりの掃除当番

【校内ウォッチ】

「放課後の教室で二人きり。“窓際の誤解”再び」

コメント:

・「#密会確定」

・「#掃除という名の恋」

・「#チョークより白い恋」

───────────────────────


「誰が詩的に仕上げろって言った!?」

 悠真が大爆笑しながら言う。

「お前ら、もう校内恋愛ドラマだな!」

「どこまで誤解進化させる気だ」


 そのとき、教室の後ろでざわめきが起きた。

 桜井先生がスマホを掲げて入ってくる。

「……真嶋、七瀬。君たちの掃除風景、芸術点が高いな」

「先生まで見るなぁ!」

「いや、これは“誤解の教育教材”として――」

「教材化すんな!」


 クラスの笑い声が響く中、ひよりはそっと俺の袖をつまんだ。

「……怒ってますか?」

「いや。もう、慣れた」

「でも、ちょっと悲しいですね。

 “ちゃんと掃除してた”って誰も信じてくれない」

「それはまあ、絵になりすぎた俺たちの罪だな」

「じゃあ、芸術的誤解です」

「そんなジャンルないから」


 放課後。

 ひよりが美術室の前で立ち止まる。

 俺は一歩後ろで声をかけた。

「今日も描くのか?」

「はい。今日のテーマは“誤解の形”です」

「また難しい題材を」

「でも、誤解って、きっと柔らかい形ですよ」

「柔らかい?」

「うん。叩いたら壊れるけど、撫でたら形が変わる。

 だから、優しく扱えば、きっと綺麗になる」


 ひよりはスケッチブックを抱え、静かに微笑んだ。

 その笑顔を見て、何も言えなくなる。

 誤解だらけの日々なのに、どうしてこの瞬間だけは、

 まっすぐに綺麗だと思ってしまうんだろう。


───────────────────────

StarChat #二人きりの掃除当番

【桜井先生@担任】

「青春とは、教室のチョークより白い誤解である。」

コメント:

・「先生また名言w」

・「#白い誤解」

───────────────────────


 俺は投稿を見てため息をつく。

「先生、もうポエマーの域だな」

「素敵ですよ」ひよりが笑う。

「いや、褒めるな」

「でも、白い誤解って、少し憧れます」

「黒歴史の方が近いけどな」


 窓の外の空が、だんだん夜の色に変わる。

 チョークの粉が残る机を見て、俺はふと思う。


 もしかしたら、誤解って――

 好きの練習みたいなものなのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ