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好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。  作者: 東野あさひ


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22/41

第22話 #手を伸ばした距離

 放課後。

 美術室の窓から射し込む光が、

 細いチョークの粉をきらきら浮かせていた。


 七瀬――ひよりはキャンバスに向かっていた。

 今日は“課題作品”の仕上げ。

 タイトルは「光の中の誤解」。


「お前、どんなタイトル付けても誤解入れてくるよな」

「だって、私たちのテーマですから」

「勝手に共同テーマ化すんな」


 軽口を叩きながらも、

 ひよりの筆先を見ていると、

 やけに胸の奥が落ち着かなくなる。


「蒼汰くん、こっち持ってもらえますか?」

「おう」

 キャンバスの端を支える。

 絵の具の香りと、

 ひよりの髪の香りが混ざって、

 空気が少し甘くなった。


「もう少し右です」

「こう?」

「はい。完璧です」


 距離、二十センチ。

 手を伸ばせば届く距離。

 でも、届かせたら何かが変わってしまう気がして、

 動けなかった。


「なあ」

「はい?」

「お前、手……冷たくね?」

「さっきまで水で筆洗ってたので」

「……ほら」

 思わず、自分の手を差し出した。

 ひよりが少しだけ驚いた顔をして――

 おそるおそる手を重ねた。


「……あったかいです」

「だろ」

「蒼汰くんって、優しいですね」

「違う。

 単に冷たい手が気になっただけだ」

「それを優しいって言うんです」


 ひよりの手は、指先が少し震えてた。

 でも、離そうとしなかった。


 その瞬間、ドアが開いた。

「おー、ラブラブかよ!」

 悠真だった。

「お前、空気読め!」

「いや、空気が甘すぎてむしろ糖分過多だわ」

「殺すぞ」

「はいはい、邪魔者は去ります~」


 悠真が笑いながら去っていく。

 代わりに静寂が戻る。

 ひよりは俯いて、頬を真っ赤にしていた。


「……ごめんなさい」

「なんで謝んだよ」

「誤解、また増えちゃいましたね」

「いいよ。もう慣れた」

「でも――慣れちゃうの、少し寂しいです」


 その言葉が、胸に刺さった。

 “慣れる”って便利だけど、

 本気を鈍らせる言葉でもある。


───────────────────────

StarChat #手を伸ばした距離

【校内ウォッチ】

「美術室で二人の影が重なってた件」

コメント:

・「#美術室ロマン」

・「#指先の恋」

───────────────────────


「……誰が撮ってんだよマジで」

「たぶん、反対側のクラスの子ですね」

「監視網か」

「人気者の宿命です」

「そんな宿命いらねぇ」


 でも、画面を閉じられなかった。

 “影が重なってた”ってコメント。

 それが妙に正確だったから。


 夕陽が沈むころ、

 ひよりがキャンバスに最後の一筆を入れた。

 描かれていたのは、教室の窓辺に並ぶ二つの影。

 少しだけ重なって、でも完全には一つにならない。


「完成しました」

「……これ、俺たち?」

「どう見えますか?」

「そうだな……重なりそうで、届かない距離」

「正解です」

「絵に“正解”あんのかよ」

「私たちの“今”にはあります」


 ひよりが微笑んだ。

 その笑顔の奥に、少しの切なさがあった。


───────────────────────

StarChat #手を伸ばした距離

【桜井先生@担任】

「距離とは、心が伸びる余白のこと。

 すぐに触れられる恋より、

 少しだけ届かない想いのほうが、長く残る。」

コメント:

・「#先生エモ過ぎ問題」

・「#距離が恋を育てる」

───────────────────────


「先生、もう恋愛詩人になってるな」

「いいと思います」ひよりが笑う。

「……お前、ほんと何でも“いい”って言うな」

「だって、今日の距離は“悪くなかった”です」


 窓の外の光が、ゆっくり消えていく。

 そのとき確かに感じた――

 “誤解”の先にある、静かな確信を。

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