第21話 #秘密の放課後
放課後のチャイムが鳴ると、クラスの半分が勢いよく立ち上がった。
StarChatではいまだに#恋がバレた日がトレンド3位をキープ中。
校内の人間関係ニュースとして、俺とひよりは完全に「話題の二人」になっていた。
「……にしても、冷めねぇな」
「人気者ですね」ひよりが微笑む。
「悪い意味でな」
「悪くないですよ。“恋の連載中”って感じです」
「勝手に続編にすんな」
笑いながら、誰もいなくなった教室で二人だけ残った。
窓際に傾く光が、ひよりの髪を少し透かしている。
その光景があまりに自然で、
“秘密の放課後”って言葉が、頭の中に浮かんだ。
「七瀬、……いや、ひより」
「はい」
「その、“秘密の放課後”って言葉、知ってる?」
「ドラマのタイトルみたいですね」
「たぶん、今の俺らの状況だ」
「どういう意味ですか?」
「周りが勝手に盛り上がってる中で、
俺たちだけ静かに現実にいる、って感じ」
「……なるほど。
誤解の中に、静かな“本当”がある時間ですね」
「お前、ほんとそういうまとめ方うまいよな」
「職業、感情編集者です」
「そんな職業あったか」
笑い合うその距離が、だんだん近づいているのを自覚していた。
でも、不思議と居心地が悪くない。
それがたぶん、“恋が始まっている”ってことなんだろう。
黒板の前。
ひよりがチョークを手に取って、さらさらと文字を書き始めた。
「誤解の教室」
「おい、そのタイトル不穏だぞ」
「いいえ、授業のテーマです」
「誰の授業だよ」
「桜井先生の授業を見てたら、書きたくなって」
「まさかの先生インスパイア」
「だって、先生の投稿、詩的で素敵です」
「お前まで信者か……」
ひよりが黒板に落書きを続ける。
小さなハート、星、チョークの白い線。
それを見ているだけで、何となく笑えた。
「……俺も書いていい?」
「もちろん」
チョークを受け取り、黒板の端に小さく書いた。
「#秘密の放課後」
ひよりが目を丸くして、それからふわっと笑った。
「タグまで付けたんですね」
「癖になってきた」
「私も、同じの書いていいですか?」
「おう」
二人で並んで書いた“#秘密の放課後”が、
やけに輝いて見えた。
その夜、StarChatを開くと――
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StarChat #秘密の放課後
【校内ウォッチ】
「2-B教室の黒板にタグ発見。
手書きの#秘密の放課後が尊い件」
コメント:
・「#黒板アートの恋」
・「#放課後の共犯者」
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「……誰だよ、あれ撮ったの」
「もしかして桜井先生かも」
「いや先生まで潜入!?」
「証拠、あります」
ひよりがスマホを見せる。
画面には例のアイコン。
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StarChat #秘密の放課後
【桜井先生@担任】
「青春とは、黒板に残る“消せないチョークの誤解”である。」
コメント:
・「#先生また詩」
・「#消したくない恋」
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「……先生、ほんとに狙ってるな」
「でも、いい言葉です」
「お前、ほんとにそう思ってる?」
「はい。だって、“消したくない誤解”って、
それもう“恋”じゃないですか」
ひよりの声は柔らかく、
けれど確かに響いた。
その夜。
俺はStarChatを開き、ひよりの投稿を見つけた。
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StarChat #秘密の放課後
【七瀬ひより@2-B】
「今日の放課後は、ちゃんと“誤解”でした。
でも、誤解の中で見えた笑顔は、本当でした。」
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胸の奥が、少し熱くなった。
“誤解”という言葉が、
俺たちの間ではもう“告白”みたいに聞こえていた。




