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好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。  作者: 東野あさひ


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第2話 #噂の止め方を誰か教えて

 昼休みのチャイムが鳴っても、俺のスマホは止まらなかった。

 通知の嵐。StarChatのアイコンが光りっぱなしだ。

 もはや携帯というより爆弾。


 俺――真嶋蒼汰。昨日、「パンの告白事件」という誤解の渦に巻き込まれた男子。

 今の俺のタグは「#誤解体質男子」。

 ……知らん間にそんな属性、追加されてた。


「真嶋、どうすんだよコレ!」

 教室の後ろから、悪友・悠真がスマホを振ってくる。

「“#好きって言ってないのに”トレンド一位だぞ! 芸能ニュースより上!」

「俺はニュースに出た覚えねぇ」

「やっぱ告白系は伸びるんだな〜」

「分析すんな」


 ふと、視線を感じた。

 クラスの何人かが、こっちをちらちら見て笑ってる。

 ……まるで見世物。


 机の上に突っ伏すと、悠真が小声で言う。

「なあ、鎮火する方法、考えようぜ」

「俺、消火器でも足りる気がしねぇ」

「いや、逆転の発想。“火事は笑って通り過ぎる”」

「何だその精神論」

「つまり、“ネタにする”」

「……嫌な予感しかしない」


 放課後、俺と悠真は校門の近くで作戦会議をしていた。

 近くの自販機の前に立つと、

「とりあえず、ライブだな」

「ライブ?」

「StarChatで“弁解じゃなく雑談”」

「……お前、燃料投下の天才か」

「でも、沈黙よりマシだろ。笑いは誤解を中和する」


 悠真の軽口に反論しかけたとき。

 後ろから、柔らかい声がした。


「……私も、出たほうがいいですか?」


 振り向けば、七瀬ひより。

 いつものようにスケッチブックを抱え、申し訳なさそうに立っている。


「昨日から、いろんな人に“おめでとう”って言われて……」

「……すまん。完全に俺のせいだ」

「いいえ。半分こです」

「いや、そこ分けるな」


 ひよりは小さく笑った。

 どうやら、俺よりずっと冷静だ。


「じゃあ、出ましょう。ライブ」

「え?」

「火は、風通しがよいほうが早く消えます」

「……お前の理屈、たまに物理学ぶな」


 その日の夕方。

 悠真が勝手にStarChatを立ち上げた。

 タイトル:「#噂の止め方を誰か教えて」。


───────────────────────

StarChat #噂の止め方を誰か教えて

【悠真@2-B】

「17時より“真嶋&七瀬ライブ”! 弁解しません、笑います!」

コメント:

・「え、ガチでやるの!?」

・「#リアル配信」

・「先生も見ます」

───────────────────────


 ライブ開始五分前、俺の手汗が限界突破していた。

「真嶋くん、顔、緊張してます」

「当然だ。お前平常運転かよ」

「いつもより心拍数、八拍早いです」

「心拍数計るな」


 カウントダウンがゼロになる。

 コメント欄が一斉に流れた。

「始まった!」「#誤解カップル」……もう何でもアリだ。


「えー……皆さん、こんにちは」

 俺は深呼吸して口を開いた。

「まず言わせてくれ。“パンの告白事件”は誤解です」

「パンの話、でした」ひよりが隣で補足。

「そう。パンが好きだって言っただけで、人が恋に落ちるんだから世の中おかしい」

「でも、誤解って、少しあたたかいですね」

「どの角度から見てもお前の方が危険だ」


 コメントが一気に弾ける。

 笑いと♡が並んで流れていく。


「じゃあ、改めて。

 “誤解を止める方法”――それは“誤解を笑うこと”だ」

「笑う、ですか?」

「そう。怒るよりマシだろ」


 しばし沈黙。

 ひよりが、画面のコメントを見ながらぽつりと言った。

「でも、全部が笑えるわけじゃないですよね」

「……そうだな」

「だから、笑えるところは一緒に笑って、笑えないところは私が笑っておきます」


 俺は言葉を失った。

 代わりに、コメント欄が“尊い”の嵐。


───────────────────────

StarChat #噂の止め方を誰か教えて

【桜井先生@担任】

「反省会は職員室で。ただし今は“よくやった”」

コメント:

・「先生も見てるw」

・「#青春は誤解から始まる」

───────────────────────


 配信終了後。

 校門前、夕焼けの下でひよりが言った。


「止まりましたかね?」

「いや、むしろ火力上がった」

「ふふ、じゃあ次は“笑い方”を教えますね」

「俺の感情コントロールAIか」

「まだβ版です」


 彼女の笑顔に、少しだけ救われた気がした。

 誤解の嵐は止まらない。

 でも、“止め方”なら、少しだけ分かってきた。


 ――それは、一緒に笑ってくれる誰かがいること。

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