第17話 #告白の練習
文化祭の翌朝。
教室には、昨日の余韻が少しだけ残っていた。
黒板の端に貼られたポスター、
床にこぼれた紙吹雪。
誰もいないのに、まだ笑い声が残っている気がする。
机に座ってぼんやりしていると、
教室のドアが静かに開いた。
七瀬――ひよりだった。
「おはようございます」
「おう。早いな」
「昨日、描きかけだった絵、仕上げたくて」
「例のスケッチブックか」
「はい。もう少しだけ描きたくなって」
ひよりが机にスケッチブックを広げる。
描かれていたのは、文化祭の教室――
でも、昨日とは違っていた。
全員が笑っている中で、真ん中にいる俺の顔が、少しだけ柔らかい。
「……優しい顔してるな」
「描いてるうちに、そう見えました」
「そんな顔、してたかね」
「はい。
“笑顔をちゃんと見てた顔”でした」
胸の奥が、少し熱くなる。
昨日までの重さが、ほんの少しだけ溶けていく気がした。
昼休み。
中庭のベンチ。
昼の陽射しがまぶしくて、影が二つ、地面に重なっている。
「ねえ、真嶋くん」
「ん?」
「“告白の練習”って、したことありますか?」
「……急だな」
「ほら、ちゃんと言葉にするって難しいから。
練習した方がいいのかなって」
「そりゃまあ……俺には一生できそうにねぇけど」
「じゃあ、今してみましょう」
「は?」
「練習です。誰にも聞かれませんし」
「そういう問題か!?」
「はい、3秒前!」
「ちょ、カウント早っ……!」
ひよりが笑って、目を閉じる。
その仕草が、やけに綺麗で。
俺の喉が勝手に動いた。
「……その、俺は――」
「うん」
「お前が、誰かと話してるとき、ちょっとだけムカつく」
「え?」
「でも、そのあと笑ってるの見ると、ホッとする」
「うん」
「たぶんそれが、“好き”ってやつなんだと思う」
言ってから、息を止めた。
風の音だけが、妙に大きく聞こえる。
ひよりは目を開けて、ゆっくり微笑んだ。
「……100点です」
「採点すんな」
「でも、素敵でした」
「練習だって言ったろ」
「うん。練習なのに、ちゃんと伝わりました」
その笑顔が、もう練習じゃなかった。
本番みたいに、心に響いた。
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StarChat #告白の練習
【校内ウォッチ】
「中庭で練習してる2人。
何を“練習”してるのかは聞かない方がいいかも」
コメント:
・「#練習でも本気っぽい」
・「#青春のリハーサル」
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「……おい、誰だ撮ったやつ」
「たぶん悠真くんです」
「お前、情報早ぇな」
「観察眼があるんです」
「探偵か」
「でも、ちょっと感謝してます」
「なんで」
「だって、“練習”が残ったから」
ひよりが、スケッチブックを開いた。
ページの端に、今日の二人が描かれていた。
ベンチに座る二人。笑っている。
距離は――もう、ほとんどなかった。
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StarChat #告白の練習
【桜井先生@担任】
「本番を恐れない者だけが、練習を楽しめる。
恋もまた、そうあるべきだ。」
コメント:
・「#先生、恋愛講師化してる」
・「#リハでも泣ける」
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「先生、ほんとなんでも名言にすんな……」
「でも、いい言葉です」
「お前はすぐ肯定するな」
「だって、今の私たちみたいです」
「どこが」
「“練習”を楽しんでるところ」
笑い合いながら、
どちらからともなく目が合った。
その瞬間、言葉が全部いらなくなった。




