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好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。  作者: 東野あさひ


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第16話 #笑顔の裏側

 文化祭の朝。

 校門の前には、もう人の波。

 飾り付けられたアーチの下で、写真を撮る生徒や保護者の笑い声が響く。


「いよいよ開幕だな!」悠真が声を上げる。

「なあ真嶋、“喫茶スターチャット”って名前、じわじわ来ね?」

「いっそ炎上覚悟で名物にしてもいいんじゃねぇの」

「ハッシュタグ営業か。時代だな」


 くだらない会話の裏で、俺の目はずっと七瀬――ひよりを探していた。

 教室の奥、接客用の白いエプロン姿。

 ポニーテールにまとめた髪が、窓の光を反射して揺れている。


 その笑顔を見た瞬間、息が止まった。

 昨日の夜、

 「明日、ちゃんと見ててくださいね」

 ――その言葉を思い出した。


 昼頃。

 “喫茶スターチャット”は大盛況だった。

 SNS映えを狙った黒板アート、

 撮影コーナー、そして“推しペア撮影券”とかいう悪ノリ企画まで登場している。


「真嶋くん、こっちお願いします!」

「え、俺!?」

「“看板男子”だから!」

「誰が決めたんだよ!」

「女子全員!」


 笑いが起こる中、カメラのシャッター音が鳴った。

 隣には、ひより。

 笑ってる。完璧な笑顔。

 ――でも、その笑顔は、どこか空っぽだった。


 午後、混雑が落ち着いたころ。

 ひよりは少し離れた廊下の窓際に立っていた。

 外の空を見ながら、小さく息を吐く。


「……七瀬」

「真嶋くん」

「疲れたろ」

「少しだけ。でも楽しいです」

「そっか」


 そのとき、通りすがった女子が話しているのが聞こえた。

「ねえ、“柏木くんと七瀬さん”って付き合ってるのかな?」

「いや、昨日の放課後、一緒に帰ってたって!」

「え、マジ!?」


 心臓が一瞬、止まった気がした。


「……昨日、柏木と一緒に帰ったのか?」

「うん。荷物が重かったから、手伝ってくれて」

「……そうか」

「変ですか?」

「別に」


 声が少し硬くなるのが、自分でも分かった。

 ひよりの表情が、一瞬だけ曇った。

「やっぱり、“誤解”ですね」

「いや、別に誤解とかじゃ――」

「いいんです。慣れてますから」


 その笑顔が、痛いくらいに眩しかった。


───────────────────────

StarChat #笑顔の裏側

【校内ウォッチ】

「七瀬の笑顔、今日も完璧。

 でも真嶋の目、少し寂しそうだった」

コメント:

・「#片想いカメラ」

・「#笑顔が切ない」

───────────────────────


 放課後。

 文化祭の喧騒が過ぎ、教室に夕陽が差し込む。

 ひよりは黒板の前でスケッチブックを開いていた。

 描かれているのは、文化祭の教室。

 笑っているみんな――そしてその端に、俺。


「……見せてくれるのか」

「はい。今日の記録です」

「俺、変な顔してない?」

「真嶋くん、ずっと見てました」

「……え?」

「お客さんよりも、周りよりも、ずっと。

 でも、笑ってほしいと思って、ずっと笑ってました」


 ひよりの声が、ほんの少し震えていた。


「だって、真嶋くんが私の笑顔、好きって言ったから」


 その瞬間、胸の奥がきつく締めつけられた。

 “届かないメッセージ”の意味が、ようやく分かった気がした。


「……ごめん。俺、勝手だった」

「違います」

 ひよりが首を振る。

「私こそ、笑って誤魔化してました。

 本当は――ちゃんと、見てほしかったのに」


 沈黙。

 窓の外では、祭りの片づけの音が響いている。

 でも、この教室だけ、時間が止まったみたいだった。


───────────────────────

StarChat #笑顔の裏側

【桜井先生@担任】

「笑顔の裏側には、涙より深い想いが隠れている。

 それを見抜けた者だけが、恋を知る。」

コメント:

・「#先生また泣かせにきた」

・「#笑顔の奥の恋」

───────────────────────


「七瀬」

「はい」

「……明日、話がしたい」

「うん」


 彼女の目が、少しだけ潤んでいた。

 でもその笑顔は、

 これまででいちばん“本当の笑顔”に見えた。

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