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好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。  作者: 東野あさひ


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13/41

第13話 #すれ違いの方程式

 今朝の教室は、やけに明るかった。

 黒板には「文化祭準備スタート!」の文字。

 クラス全員が浮き足立っていて、

 笑い声と紙の音が入り混じっていた。


 ――ただ、俺は少しだけ、置いていかれた気分だった。


「ねえ七瀬、看板描ける?」

「はい、任せてください」

「やった、七瀬の絵好き!」

 女子たちが彼女のまわりを囲んで笑っていた。

 あの輪の中に、俺の居場所はない。


「真嶋、どうした?」悠真が肩を叩く。

「いや、なんでもねぇ」

「にしても、七瀬人気あるな。

 “絵がうまい子はモテる”って法則、あると思うわ」

「モテとかそういう話じゃねぇだろ」

「お、トーンが低い。これは嫉妬だね」

「……うるせぇ」


 確かに、あの輪の中のひよりは、いつもより明るかった。

 笑顔がまぶしくて、少し見ていられない。

 それだけなのに、胸の奥が妙にざわつく。


 放課後、準備で残るメンバーが発表された。

 黒板に書かれたメンバー表の中、

 “七瀬・柏木・真嶋”の文字が並んでいた。


「うわ、柏木と一緒かよ……」

「何それ、苦手なの?」悠真がニヤニヤしながら聞く。

「いや、あいつ前から七瀬に妙に絡むんだよ」

「おっと、火花出てる」

「出てねぇ!」


───────────────────────

StarChat #すれ違いの方程式

【2-Bクラスまとめ】

「文化祭準備メンバー決定!七瀬×柏木×真嶋=三角方程式?」

コメント:

・「#解けない三角形」

・「#恋と誤解の連立方程式」

───────────────────────


「……頼むから、放っておいてくれ」

 心の中でそうつぶやいた。


 放課後の教室。

 カーテンの向こうの夕陽が、机をオレンジに染めていた。

 柏木が材料を切りながら、七瀬に話しかける。

「七瀬さん、筆こっち貸して」

「はい、どうぞ」

「ありがと。……やっぱ、真嶋よりセンスあるよな」

「え?」

「ほら、前の掃除当番の黒板アートも。

 あれ、“真嶋が消し方雑”って話だったんだぜ」


「……それ、俺の前で言う?」

 思わず口を挟んでしまった。

 柏木が笑う。

「冗談だって。そんなムキになるなよ」

「ムキになってねぇ」

「なってる」


 ひよりが慌てて間に入る。

「や、やめてください。二人とも」

「七瀬、別にケンカじゃねぇよ」

「でも、真嶋くん、ちょっと怖い顔してます」

「……ごめん」


 沈黙が落ちた。

 ひよりは筆を置いて、窓の方を見た。

「私、少し外の空気、吸ってきます」

 そう言って出ていく背中を、

 俺は引き止められなかった。


 10分後、校舎裏。

 ひよりはベンチに座っていた。

 手のひらには、白いペンキが少し付いている。


「……怒ってる?」

「怒ってねぇ」

「でも、顔が怒ってます」

「元からこういう顔なんだよ」

「ふふ、そうでした」


 ひよりが笑って、少し空を見上げる。

「真嶋くん。

 私、今日すこしだけ嬉しかったんです」

「え?」

「真嶋くんが、私のことでムキになってくれたから」

「……」

「でも、同時に、少し悲しかったです」

「なんで」

「私、誰かを困らせるの、やっぱり苦手で」


 言葉が出なかった。

 優しいのに、俺の胸の中を刺してくる。


───────────────────────

StarChat #すれ違いの方程式

【桜井先生@担任】

「誤解とは、優しさが衝突した結果である。

 どちらも悪くない。ただ、痛いだけだ。」

コメント:

・「#名言連発」

・「#痛いだけの優しさ」

───────────────────────


「七瀬」

「はい」

「俺さ、なんか……よくわかんなくなってきた」

「え?」

「お前が笑うと嬉しいけど、

 誰かと笑ってるの見ると、ちょっと苦しい」

「……」

「それって、“誤解”じゃないんだろうな」


 ひよりは目を伏せた。

 沈黙の中、風が木の葉を揺らす音だけが響いた。

「真嶋くん」

「うん」

「“好き”って、誤解されるためにあるのかもしれませんね」

「は?」

「だって、“好き”って言葉、使うたびに形が変わるじゃないですか」

「……そうだな」

「だから、今のこれは、“好き”の途中だと思います」


 “好きの途中”。

 その言葉が、胸の奥でずっと残った。


 ――誤解の方程式。

 解くたびに、答えがひとつ増える気がする。

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