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第48話 輔弼近衛は試される ~護衛の剣~

なぜだか第一王子と剣の仕合をすることになりました・・・護衛の剣を見せてやります。

ドン引きされました。


 冬の光は容赦がない。演武場の砂が白く乾いて、踏むたびにさら、と音を立てる。上段には陛下と王妃様、そして宰相閣下。下段には王子女様方が勢揃いしている。


第一王子レオン殿下が立ち上がる。

(……俺より二回りくらい大きいなぁ)


剣の収まり方、歩幅、視線――まさしく由緒正しき「王国剣法」。教本の余白から抜け出してきたみたいな人である。


「貴様が“輔弼近衛”とやらか。騎士学校首席と聞くが、その細い体で首席とは、騎士学校も堕したか?」

(……さっきも言ってたって)


「アレン・アルフォードでございます」

俺は跪いて頭を垂れ、臣下の礼を取りながら言った。


「“輔弼近衛”は護衛も任と聞く。ならば問う。我より弱くて、何を護る」


(……剣狂いとは聞いていたけど、ここまでとは。でもまあ、俺の体が細いのは本当だし)


確かに、騎士学校でも俺は細い方だったのだが、剣技では負け知らずだった。理由は簡単。

こちとらガキの頃から領軍に混ざって魔物退治に駆り出されていたのである。中央貴族のお坊ちゃまとは年季が違う。


(……問題は俺が王族の面前で第一王子に勝ってもいいのかってことなんだよなぁ)


 視線を横に滑らせると、柵の陰に警護として立っているラースさんが、顎で「行け」と言っている。


(……勝っていいんです?)

(……護衛対象より弱い護衛はいらん、って顔だ)

(……ですよね)


近衛ともなると目線だけでこれだけ語れるのである、嘘だけど。


俺は立ち上がって木剣を受け取り、握り直す。木剣は軽いが、意味は重い。ポケットには跪いた時にすくった砂を入れる。


        ◇


侍従の声が澄む。

「御前試合――始め」


殿下の踏み込みは最短。予想していたとおりに豪剣を力いっぱい振り下ろしてきた。まさに教科書通りの攻め手。俺は足を半歩開いて剣を受け流す。軸そのものが動かない、まさに王族の剣。だが、直線的な剣は横からの払いに弱い。三合、四合――正統、正統、これでもかと正統。だからこそ、こちらも何度でも払う。

五合目に払うと同時に距離を詰め、切っ先の影を喉元に置く――触れてはいない。

(……木剣だけど当てちゃったら怒られそうだもんね)


「一本、アルフォード」

近侍の宣言が響き、静かな空気が戻る。


「汚い剣だ。近衛の剣ではない」


(……ええ、負け惜しみですか?)


「では――僭越ながら、護衛の剣をお目にかけましょう」


王妃様の扇がわずかに止まり、宰相閣下の指が膝の上で止まり、陛下の目が興味深かげに輝いている、「見せよ」と。声に出さなくても伝わるのが、この方々の怖さである。

(……これが「汲む」ってことか?)


        ◇


「二の試合――始め」

近侍の合図と同時に殿下が突きを入れてきた。最も堅く安全な定石。俺は左手のポケットから砂を掴みだすと、殿下の顔めがけて投げつけた。


「うわっ」と叫んで顔を覆う殿下に近寄り、首筋に剣を当てる。


「……いっ、一本?」


王子女様方の間に、目配せとも息の乱れともつかぬ波が走った。

王妃様の扇が一瞬だけ開きかけて止まり、宰相閣下の指が膝の上で二度、静かに鳴る。

(……うわ、みんなドン引きしてるよ)


予想以上の反応にちょっとだけ怯んだ。

殿下は砂を払うと、顔を真っ赤にして俺を怒鳴りつけた。


「卑怯者め。近衛、いや騎士とすら思えん。正々堂々とせよ」


ちょっとだけ胸に刺さるが、ここでこそ言葉を使う。剣の後に来るのは、説明ではなく理。


「決闘ならば、いくらでも正々堂々とやりましょう。それで私が死んでも騎士の誉です」

「ではなぜ、砂など投げた」


ここで一押し。


「私は護衛の剣をお見せすると申しました――護衛としての私の背中には“高き御方々”を背負っております。負けることは決して許されぬのです」


さらに畳み掛ける。


「たとえ“卑怯者”の汚名を着ようとも、高き御方々のお命を護ること――私はそれこそ“護衛の本懐”と存じております」


…………………………沈黙


王妃様がほんの一拍、目を細めた。陛下の視線がわずかに沈み、底の方で何かを測っている気配がする。

(……えっ、今俺いいこと言わなかった?……言ったよね?)


宰相閣下の指が膝の上で二度、軽く鳴り、王妃様の扇が小さく返り、陛下の視線がさらに深くなる。三者三様の合意の気配。


「……護衛の剣、か。よい。ならばもう一度。今度は“決闘の剣”で来い」


……どうやら無かったことにされたようだ。


    ◇


三本目。予定はしていた。ラースさんを見ると、親指がほんの少しだけ上がっていた。


「三の試合――始め」


踏み込み、受け、払い、打ち、流し。――速い。殿下はさっきの砂への警戒も含め、構えに柔らかさを足してきた。剣の握りにはわずかな遊びがあり、打ち込みは読みづらくなっている。学ぶ速度が、すでに武器だ。五合、十合。砂が舞い、息が絡む。

十五合目、殿下の刃の気配がふっと消えた。肩越しからの返し――来る。俺は腰を沈め、上段を空けて風だけ通し、柄で押し返す。肩をぶつけて重心の線をずらし、喉元に切っ先を据える。


「一本。勝者、アルフォード」


審判の声が仕合上に響いた――


お読みいただきありがとうございます。


【次話予告】

たぶん2日目にしてクビが決定。

だったら言いたいことを言ってやる。

……とは思ったものの少しくらい良いこと言った風にして、

できれば穏便に済ませて欲しいです。


次回の投稿は明日21時頃の予定です。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★

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