第41話 幕間 王朝秘史②
幕間として《王朝秘史》を挟みます。
今回の王朝秘史は、設置から五百年を経て初めて「輔弼近衛」が任じられた理由と、その役目の意味を、後世の史家の視点から整理する章です。
やや文章は固めですが、ここで一度歴史を押さえておくと、この先の章で王族と「輔弼近衛」の動き方がぐっと読みやすくなります。「そういう回か」と肩の力を抜いて眺めていただければ嬉しいです。]
※本幕間は、「輔弼近衛」が五百年空位たりし所以と、アルフォード出現により器(制度)が血肉を得たる次第を記す。
“秤は法の内にあらず、理の内に在り”――その一句の意味を、列伝と衡論とを以て示す。
《王朝秘史》卷二十八 輔弼近衛列傳
史臣曰く、
「秤の詔、竹簡に記されて五百有余年、ただ墨の痕のみ存す。人のいまだ現れざるは、端より人に非ざればなり」と。
然れども、其の德を體する者未だ現れず、其の位久しく空し。
歴代の高位の貴族これを遠ざけ、王族の側に在りてその過を糺し、時に刃を執りて抑止の任にあたることを、家門の名にそぐわずとして之を退けたり。
また卑位の貴族はその責の重きを畏れ、位を越えて王族に諫むるを恐れて近づかざりき。
是のゆゑに、その職は久しく空虚に在り、つひに五百年の歳月を経る。
君主の代、二十四を数ふ。制度は朽ちずと雖も形骸と化し、
「輔弼近衛」の名は書に在れども、人は未だ現れざりき。
史臣曰く、
『器の先に人あり。人なければ、器は虚し』
◇
初代輔弼近衛 アレン・アルフォード
王曆九百五十四年、レオニード三世の御代に至り、竹簡、五百年の夢はつひに醒む。
是の時、「輔弼近衛」の職、はじめて人を得たり。名をアレン・アルフォードと曰ふ。
其の人、邊境の貧子爵家に生る。
第三子として家を繼ぐ位になく、權を執る任にも與らざりき。
然れども、その器量卑位に屈せず、志は境遇に拘はらず、
道は位に由らずして、つひに道たりき。
その在り方、道を量る秤のごとく、
偏に倚らず、剛に走らず、靜に沈まず、
ただ王子女の側に在りて均を保つ。
言は風を捉へて方を指し、志は象を抱きて虛を滿たし、行は斷を下して亂を鎮む。
王命により、東宮の左、柱間に「影」と號する席を賜ひ、秤印を授けて佩せしむ。
秤は法の内には在らねど、理の内に在り。
史臣曰く、
『器は人を得てはじめて用を成し、人は器を得てはじめて道を量る。
空位五百年、アルフォードに至りてはじめて充たされ、
秤ここに人と合して其の名實を全うせり』
◇
《衡論集》卷三曰く
制度は器なり、人は其の魂なり。
器のみ在りて魂なければ空しく、魂のみ燃えて器なければ散ず。
「輔弼近衛」の詔、竹簡に五百年眠り、つひに人を得て起つ。
アレン・アルフォード、卑位に生ると雖も志挫けず、
道は位に由らずして道たりき。
是に於いて、「秤」ははじめて人と合し、制度は血肉を得て動き出す。
この時より、均は保たれ、道は量られ、社稷は息を吹き返す。
天の時熟し、人の器応じて現はれ、
空位は虚にあらずして機を待つものなり。
人は器を動かし、器は人を支ふ。
是れ治の本にして、また歴の理なり。
五百有余年の空位を経、君主二十四代を重ね、秤ここに人と合す。
史臣按ずるに、「器の先に人あり」――人を得ざる制度は空しく、人を得てはじめて道を量る。
ゆっくりめの立ち上がりにもかかわらず、ここまで読んでくださって本当にありがとうございます。
世界観や歴史の話が続きましたが、その分、次回からは「輔弼近衛」の役目や立場が分かりやすい形で物語に反映されていきます。
よろしければ、もう少しだけお付き合いいただけると嬉しいです。
【次回予告】
……食堂で一息つけると思った? 無理。
ラースさんに大笑いされた挙げ句、逃げやがった。
次回は明日21時頃の予定です。
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