第40話 輔弼近衛は信任される(王妃視点)② ~王子女は正しく誤解する~
立ち位置からして揉める仕事らしい……ラースさんは「近衛の返事は「はい」と「すぐに」しかない」って。
「お待ちください、陛下」
レオンが口を開く。
「“秤”として量る者なら、どこに立つのです? 軍にも属さず、法にも属さず、王権の外に……この若造が、か?」
“若造”と、あえて言っている。怒らせたいのではない。王権の外に立つというのなら、その存在は――王族すら量り得る“刃”でなければならないからだ。
「立ち位置のことなら」
セレナが柔らかく笑みを浮かべる。その奥に、いつもの冷たい意志。
「外は外ですわ、お兄さま。剣でも盾でもなく、どちらにも踏み込まない境に在るものとして」
「外にある者は、戦場では邪魔者だ」
レオンが即答する。剣の理から見れば、確かにそうだ。
「邪魔は、時に救いになる。詩もそうだ。流れの途中に、ひとつ“間”を置く。沈黙が言葉を立ち上がらせる」
フェリクスが言う。戦を知らぬ比喩――だが、だからこそ見える理もある。
「史家コルネリウス・レンティヌスは『秤三徳論』に記す。――『三事はいずれも時を異にし、由を異にすと雖も、皆侍史の徳を欠きたるがゆゑに敗るるなり』」
陛下の声が場を締める。
「またこうもある。『口・意・身を以て道を量る者、是を「秤」と曰ふ』と」
秤とは、ただの観測者ではない。“量る”とは、刃と同じ重さを持つ行為だ。
「難しく考えなくていいのです。あなたは王子女たちのそばに在りなさい。そばに立ち、そばで見る。必要なときに、そっと手を出す――それでよいのです」
わたくしは、なだめるように、だが逃がさぬ温度で告げる。
「そばに立つ者は、時に嫌われる」
レオンがなおも言葉を重ねる。嫌われても、踏みとどまらねばならぬのが“秤”の務め。
「でも、必要なら、嫌われる価値があるわ」
セレナが涼しく続ける。
「でも嫌われるのは、悲しいわ」
アリシアが小さな声で言う。幼い彼女には、まだ遠い話。
エリアスはふたたび菓子皿を押し出す。場の重さを、あえて和らげるように。
「王命である。アレン・アルフォード。汝を輔弼近衛に任ずる。王子女の傍らに在り、重さを量り、線を引け」
一拍おいて、若者は立ち上がり、膝をつき、額を床へつける。
「……臣アレン・アルフォード、浅学菲才ながら『輔弼近衛』の任、拝命いたします」
その声は震えていなかった。
「よろしい」
陛下が微笑む。安堵と、わずかな誇り。
「初務は明朝。まずは王子女と行動を共にして知れ――王子女が何を考え、何を企もう…為そうとしているのか。それを知ることから始めよ」
私は余計なことを言いかけた陛下の言葉を継いで言った。
「それより先に整えることがあります」
わたくしは気になっていたことを告げる。真新しい近衛の礼服――だが、彼に必要なのは“輔弼近衛”の装いだ。
「あなたの服は近衛の礼服ですね。輔弼近衛の服を仕立てましょう。寸法を取らせます」
彼の瞳がかすかに揺れた。
「まずは食え!」
エリアスが菓子をひとつ、彼の手に乗せる。
控えの間を辞す直前、陛下がもう一度、声をかける。
「そうだ、もう一つ。コルネリウス・レンティヌスはこうも書いている。“三徳倶に備はれば、侍史は道を量り、國の均を支ふ。故に『秤』と称す”。忘れるな」
――こうして、“空席”はついに埋まった。
その名は『輔弼近衛』。そして彼は、王族の傍らに立つ。
この日、わたくしたちの歩みは変わった。いいえ――変えられたのだ。
お読みいただきありがとうございます。
【次話予告】
次は歴史サイドの“採点タイム”。竹簡に五百年寝かされた空席が、起き上がるらしい。
器と人が噛み合うとか、魂がどうとか――なんて感動的な話なんだ、俺に関係なければだけど。
次回の投稿は明日21時頃の予定です。
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