表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/107

第40話 輔弼近衛は信任される(王妃視点)② ~王子女は正しく誤解する~

立ち位置からして揉める仕事らしい……ラースさんは「近衛の返事は「はい」と「すぐに」しかない」って。

「お待ちください、陛下」

レオンが口を開く。


「“秤”として量る者なら、どこに立つのです? 軍にも属さず、法にも属さず、王権の外に……この若造が、か?」


“若造”と、あえて言っている。怒らせたいのではない。王権の外に立つというのなら、その存在は――王族すら量り得る“刃”でなければならないからだ。


「立ち位置のことなら」

セレナが柔らかく笑みを浮かべる。その奥に、いつもの冷たい意志。


「外は外ですわ、お兄さま。剣でも盾でもなく、どちらにも踏み込まない境に在るものとして」


「外にある者は、戦場では邪魔者だ」

レオンが即答する。剣の理から見れば、確かにそうだ。


「邪魔は、時に救いになる。詩もそうだ。流れの途中に、ひとつ“間”を置く。沈黙が言葉を立ち上がらせる」

フェリクスが言う。戦を知らぬ比喩――だが、だからこそ見える理もある。


「史家コルネリウス・レンティヌスは『秤三徳論』に記す。――『三事はいずれも時を異にし、由を異にすと雖も、皆侍史の徳を欠きたるがゆゑに敗るるなり』」


陛下の声が場を締める。


「またこうもある。『口・意・身を以て道を量る者、是を「秤」と曰ふ』と」


秤とは、ただの観測者ではない。“量る”とは、刃と同じ重さを持つ行為だ。


「難しく考えなくていいのです。あなたは王子女たちのそばに在りなさい。そばに立ち、そばで見る。必要なときに、そっと手を出す――それでよいのです」


わたくしは、なだめるように、だが逃がさぬ温度で告げる。


「そばに立つ者は、時に嫌われる」

レオンがなおも言葉を重ねる。嫌われても、踏みとどまらねばならぬのが“秤”の務め。


「でも、必要なら、嫌われる価値があるわ」

セレナが涼しく続ける。


「でも嫌われるのは、悲しいわ」

アリシアが小さな声で言う。幼い彼女には、まだ遠い話。


エリアスはふたたび菓子皿を押し出す。場の重さを、あえて和らげるように。


「王命である。アレン・アルフォード。汝を輔弼近衛に任ずる。王子女の傍らに在り、重さを量り、線を引け」


一拍おいて、若者は立ち上がり、膝をつき、額を床へつける。


「……臣アレン・アルフォード、浅学菲才ながら『輔弼近衛』の任、拝命いたします」


その声は震えていなかった。


「よろしい」


陛下が微笑む。安堵と、わずかな誇り。


「初務は明朝。まずは王子女と行動を共にして知れ――王子女が何を考え、何を企もう…為そうとしているのか。それを知ることから始めよ」

私は余計なことを言いかけた陛下の言葉を継いで言った。


「それより先に整えることがあります」


わたくしは気になっていたことを告げる。真新しい近衛の礼服――だが、彼に必要なのは“輔弼近衛”の装いだ。


「あなたの服は近衛の礼服ですね。輔弼近衛の服を仕立てましょう。寸法を取らせます」


彼の瞳がかすかに揺れた。


「まずは食え!」

エリアスが菓子をひとつ、彼の手に乗せる。


控えの間を辞す直前、陛下がもう一度、声をかける。


「そうだ、もう一つ。コルネリウス・レンティヌスはこうも書いている。“三徳倶に備はれば、侍史は道を量り、國の均を支ふ。故に『秤』と称す”。忘れるな」


――こうして、“空席”はついに埋まった。

その名は『輔弼近衛』。そして彼は、王族の傍らに立つ。


この日、わたくしたちの歩みは変わった。いいえ――変えられたのだ。


お読みいただきありがとうございます。


【次話予告】

次は歴史サイドの“採点タイム”。竹簡に五百年寝かされた空席が、起き上がるらしい。

器と人が噛み合うとか、魂がどうとか――なんて感動的な話なんだ、俺に関係なければだけど。


次回の投稿は明日21時頃の予定です。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★

【皆様へのお願い】


面白い/続きが気になると思っていただけたら、ブックマーク、☆☆☆☆☆、感想をいただけると大変励みになります。


皆さまの声援だけが心の支えです。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ