表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/115

第4話 辺境三男は選べない  ~あるようでなかった選択肢~

「重大な選択、やっぱり失敗。自分の決断力にため息しか出ない。どうして僕だけこんなにハズレしか引けないんだ。」



二年の終わりには実戦演習があった。


学生は二隊に分かれ、互いの拠点を奪い合う。 演習場には民家風の小屋がいくつも建てられ、それを壊さず保つのも得点になる。 勝敗は相手拠点の制圧で決まるが、評価の半分は小屋の損壊率だ。

(……つまり、派手にやると減点ってやつだ)


指揮はくじで決まった。俺は副将。主将は家格も腕も華のある男だ。――眩しいくらいに。

序盤、相手の前衛を押して敵を散らし、勢いに乗る。

(……まあ、こういうときはだいたい調子に乗ると転ぶもんだが)


拠点の脇道に差しかかったとき、主将が声を張る。


「ここから一直線に突っ込む! 早い者勝ちだ!」

脇道は、小屋が並ぶ地域を斜めに貫いている。

そこを通れば敵と正面でぶつかる。早いが、戦いになれば小屋がもたない。


「川沿いを回って、橋から――」

「遅い」

「けど、小屋は守れます」

短いやり取りのあいだにも隊列が揺れ、敵の援軍が前に出てくる。

(……説得する時間はない。判断の遅れが命取りになる)


「橋へ。俺が先行する」

俺はまっさきに動いた。泥を蹴って、橋の手前で隊を二つに分ける。

正面には牽制を残し、俺は側面の橋から突入した。拠点は落ち、小屋は最小の傷で済んだ。息が白く消えるころ、ようやく静けさが戻る。


          ◇


報告会で教官が言う。

「副将の判断は評価する。だが、命令違反だ」

俺は頷いた。――“守るために外す”なら、次も同じ道を選ぶ。

勝つことと守ること、どうしても両方を見比べてしまう。

辺境で染み付いた、“間”を測る癖だ。

(……しかたないんだ。母上から逃げ切るには)


     ◇


俺が騎士学校に入学してから三年が過ぎた。

卒業の前に卒業試験がある。卒業試験の結果は首席。正直、嬉しさはない。


面談で、古参教官に進路を訊かれた。

「国軍に。辺境勤務でも構いません」


教官は面の筋肉をほとんど動かさず、目だけで笑った。

「そう来るか。――だが貴様には近衛騎士団から指名が来ている」

(……冗談じゃない。近衛騎士団って、お偉い貴族様のたまり場じゃないか)

「辞退します」

自分でも驚くほど、即答だった。


「俺は辺境の子爵家の三男です。王城の近衛なんて、場違いでしょう。やっていけるわけがありません」

 

沈黙。机の端で教官の指が一度だけ鳴った。


「首席が近衛を志願しない前例は崩せない」

「……規則ですか」

「規則ではない。伝統だ。王族の盾は、代々、学舎の頂から選ばれてきた者が務めてきた」

(……王族どころか、寄り親の侯爵様にすら会ったことないんですけど)

「俺の意思は関係ない、と……」

「関係はあるが、優先順位は低い」


(……まずい。なんとか逃げ道を探さないと)


「それなら、近衛が高位貴族の子弟から選ばれるのも、伝統のはずでは?」

「一理ある。だが、伝統と伝統がぶつかったとき――最後に立つのは理だ」

「……理?」

「理とは、正しさの根拠だ。お前には、近衛を務める力がある。位の差を覆すだけの理――正当性がそこにある」

辞退の理屈は、順番を崩された。

「……了解いたしました」

俺はそう答えるしかなかった。


教官は立ち上がり、手を差し出す。兄たちの掌によく似た、固くて真っ直ぐな手だ。

「武勲を祈る」


握手の感触が、まだ手に残っていた。

(……理ってやつは、思ったより痛いんだな)


     ◇


推薦状は翌日には召状になった。封蝋を割ると、王城の紋章が白い余白を広く取り、行は短い。

――近衛騎士団見習いとして、近衛騎士団兵舎へ参集せよ。

――期日は新月。


望んだ未来ではない。けれど、“望まれた未来”というのは、望むよりも重い。

荷をまとめる。剣を拭き、鞘に戻す。借りた本を返し、鍵を返し、棚卸し表を束のいちばん上に置く。


校門を出ると、王城の白が遠くに見えた。

一歩、踏み出す。踏み込みすぎず、退きすぎず。足音が石に吸われていく。


俺が近衛になる――。

(……本当に大丈夫か、この国)


胸の底で静かに息をする問いは、ぼやきではない。

凡人の足取りでも、均衡を探す歩幅は保てる。そう、自分に言い聞かせた。


……理の痛みはまだ手に残っていたが。


挿絵(By みてみん)

次は母上視点らしい――鍬で育った家の“正解”は、まず逃げて生きて帰ること。

あの日の泥だらけの俺に、最初の剣は“足”だって教えられた。

(……逃げが恥じゃないのは、家風です)



次回の投稿は明日21時頃の予定です。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★

【皆様へのお願い】


面白い/続きが気になると思っていただけたら、ブックマーク、☆☆☆☆☆、感想をいただけると大変励みになります。


皆さまの声援だけが心の支えです。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ