第34話 輔弼近衛は量られる(諸卿視点)① ~五卿、意を表す~
俺が固まってる裏で、偉い人たちが“秤って何者だ”会議を開いてたらしい……俺が悪いのか?
――控えの間では、若者が王族の横で固まっておる頃合いだろう。こちらではその歩が迷うことなきよう、進むべき道の枠を定めねばならぬ。
王城政庁の奥、円卓の間――政の舵を定める場だ。冬陽は浅く、燭火が石壁を淡く染めている。儂は席に着き、しばし沈黙ののち、内務・外務・財務・法務・軍務の五卿を見渡した。
「宰相殿、まず聞かせてもらおう」
内務卿エストリウスが口火を切った。
「輔弼近衛とは何者か。名だけが先走っているが、正体が見えぬ」
「よかろう。定義を置こう」
儂は指で卓を一度叩き、言葉を整える。
「その源は、第十五代アウレリオン・ヴァルディス陛下の『輔弼近衛創設之詔』にある」
儂は落ち着いた声で続けた。
「王族の傍らに立ち、その歩を支え、護る。王族の言行を秤にかけ、誤ればその場で諫め、なお止まらぬなら剣の鈍で押し留める。――それが輔弼近衛だ」
「そのような埃をかぶった詔を今さら持ち出すか」
内務卿が鼻を鳴らし、吐き捨てるように言った。
「王族の傍に仕える者なら既におる。近侍で足りるではないか」
外務卿ダヴィアスが眉を跳ね上げる。
「儀礼の場で臣が前に出る姿など見せれば、“王より臣が強い国”と侮られよう」
「その費えを、いかなる財源で賄うつもりだ」
財務卿コルネリウスは指で卓を淡々と叩く。
「結局は費えが何倍にも膨れあがる――その負担を、誰が担うのだ」
「王権は神秘を鎧とする」
法務卿ヴェルネリウスは燭の先を見つめたまま低く言う。
「王冠はただ一人の頭上にこそふさわしい。臣の手を差し込むなど、重みを軽くする所業に他ならぬ」
四つの矢。どれもよく研がれている。だが腹の底では皆わかっておる――結局のところ、自分たちの権勢が削がれるのを恐れておるだけだ。
「まず、近侍で足りると申す声がある――内務卿よ、おぬしの言い分はそうであろう?」
儂はゆっくりと詔を開き、一枚目の札を切った。
「詔に曰く――『此の三徳を備へ、言・志・行を以て道を量る者、是を『秤』と曰ふ。今、其の『秤』に官名を賜ひて『輔弼近衛』と名づき、其の制を定む。』」
内務卿が眉をひそめる。儂は続けた。
「近侍は世話を整える者だ。だが、『秤』はその域にはとどまらぬ。王族の言・志・行を量り、誤れば諫め、なお止まらねば剣の鈍で遮る。その責を官として負う。近侍の延長ではない。王の傍で、王のために、王の歩を留める。それが『秤』だ。」
「……指揮系統はどうする。誰が命ずる」
外務卿が低く問う。
「誰の命にも従わぬ」儂は即答した。
「王室直属だ。指揮命令は王族ですら持たぬ。諸卿――いかなる大臣の権限も及ばぬ」
五つの視線が一度にこちらを射た。儂は続ける。
「そしてもう一つ。政に関する権限は一切持たぬ。財務・内務・外務・法務・軍務――いずれの車輪にも触れぬ。政務の会議にも列さぬ。諸卿の上には立たず、諸卿の外に立つ。やるのはただ、王族の傍でその歩を留めることのみ」
「儀礼の場では誰の合図を待つ」
外務卿の刺はなお残る。
「合図は待たぬ」
儂は刃の威が伝わるよう、言葉を置く。
「独断専行を許す。現場で“待て”と構えては火が回る。その場の判断で袖を引き、腕を取り、道をふさぐ。誤りがあれば、王室が受ける」
内務卿が皮肉に口角を上げる。「線を踏めば――王宮がその責を負うと?」
「ああ、責は王室にある。政庁には及ばん」
財務卿の指が止まる。「費えは」
「箱は増やさぬ。王室歳費でまかなう。それで足らぬなら、この官は要らぬ。」
法務卿が燭火から目を外した。「法は王威と並び立つ柱だ。その柱に刃を向けるな」
「向かうのは正面からだ。――刃を抜かずとも、ただ在るだけで歩を止める道がある。王威に触れることはせぬ」
軍務卿ラグナが大きく頷いた。「止める手があるなら、それで足りる。戦場でも、政の場でも理は変わらん」
それでもなお、外務卿が食い下がった。
「臣が王を止めるなど、政の根を揺るがす話だ。王権を削ぐと受け取られぬ保証があるか」
予想通りの反応だ。
お読みいただきありがとうございます。
【次話予告】
宰相閣下、さらに一段ギアを上げて説得の刃を抜く模様。
“王権を守るための手”って説明、理屈は分かるけど実務担当は俺ですか?
次回の投稿は明日21時頃の予定です。
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