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第3話 辺境三男は入学する ~騎士学校はぬるま湯でした~

「入学初日から、会話も空気も読めずに浮いてる。期待されてないはずなのに、なぜ全力で空回ってるんだろう。」


入学初日。


掲示に従って教室へ入ると、ざわめきが波のように寄せて引いた。

「辺境の三男だって」「侯爵の推薦?」「剣、得意らしいぜ」

「そういうのって大体“荒っぽい”で片づくよな」

(……初日で噂になってるとか、俺なにかした?)


「辺境の子爵家の三男? よく入学できたな」――声は明るいが、距離は遠い。礼だけ返して間を取った。


「君子、危うきに近寄らず」とは言うが、田舎貴族だって危険は避けるのだ。


       ◇


初日の講義は「王国史」だった。

受付をしていた背の曲がった老教師が黒板に白い粉で名を書いた。


「儂はラウレンス・マルヴェイン。王国史編纂室の室長にして、この学び舎の歴史教師だ」

歳のわりには朗々とした声で自己紹介をした。


「歴史とは竹簡の中に眠る記憶ではない。

 それを生きたものにする――それが歴史学であり、儂の務めでもある」

 教師はチョークを持ち替え、続けた。

「王国は既に千年近くの歴史を持っておる。色々な出来事で彩られているが、特筆すべき三つの事件があった」


ここで教師は言葉を切った。

「南原の乱、夢宮の衰、飢歳の禍――いずれも八百年以上前に起きた王国を滅ぼしかねん事件であった」

(……ロクでもないことしか起きてないな、この国)


その名を聞いた瞬間、懐かしい響きだと思った。

子どもの頃、炉端で祖父が語ってくれた昔話に出てきた名前だ。

悪い王と飢えた民、正義の剣と泣く姫。そんな、半ばおとぎ話のような。


「三つの乱に共通するのは、“止める者”がいなかったことだ。

いや、職はあった。ただ、そのいずれもが能く働かなかったために国家存亡の危機におちいったのだ」


(……この国って、そんなに危なかったの?)


「貴兄らにとっては過去かもしれん。だが、学ばぬ貴族に未来はない」 


(……だけど眠いんだよなあ)

俺は内心でそう呟いた。


     ◇


次は剣術の授業。俺達は訓練場に整列していた。

木剣を握る手に汗は滲むが怖くはない。果たして、俺の剣が王都でも通じるのか。踏み込みすぎず、退きすぎず――いつもどおりにやるしかない。


やがて、組分けされ模擬戦が始まる。

俺の相手は大柄な、いかにも武家の出の男だった。


「開始」の合図と共に、相手の肩越しに影の流れを見る。

二合で刃を滑らせ、三合で柄を絡め、四合で重心を崩す――型どおりの剣筋だ。勝てると分かった。


教官は「強い。だが、王国の剣ではないな」と言い、同級生は「余裕だな」と笑う。どちらも違う。

俺はただ、間を測ってしまう癖があるだけだ。


座学は……正直、並。古い遠征の記録も、法の条文も、最初は眠くなるだけだった。

でも、翌日の実技で――地図上のルートを一つ間違えただけで、部隊全体が遅れるのを見て、考えを改めた。それ以来、写して、線を引いて、覚えた。 

首席を取れたのは努力の量より、目盛りの狂いだ。――この学び舎の「基準」が甘い。

周りが、ほとんど勉強していなかっただけだ。夜会、舞踏、乗馬、賭け事――講義中に舟を漕ぐやつまでいた。

成績発表で、掲示板のいちばん上に自分の名を見つけたとき、胸に浮かんだのは誇りじゃなかった。


(……この国、本気でこれでいいのか?)


嬉しいというより、この国の“目盛り”のずれを見つけた気分だった。

真面目にやれば、教官受けはいいが雑務は増える。

武器庫の棚卸し、夜警の穴埋め、馬の世話。

(……褒められるたびに仕事が増えるのって、王都の風習か?)


とはいえ、順番をつけて片づければ、落とさずに運べる。

狩りで覚えた段取りは、王都でも有効だった。

……辺境も、捨てたもんじゃない。



お読みいただきありがとうございます。


次回は一気に外へ。二年末の実戦演習で、くじ引き部隊が火花を散らします。派手に行けば減点、守れば遅延――そんな課題の中で、私は「守るために外す」を選び、橋から“半歩”ずらして突っ込みます。勝つことと守ること。


次回の投稿は明日21時頃の予定です。


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