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第26話 幕間 ~王朝秘史①

幕間に王朝秘史として歴史書をおかせていただきます。

今回の王朝秘史は、「輔弼近衛」という役職が、どのような危機と議論を経て設けられたのかを、後世の史家の視点から整理する章です。


ちょっと堅苦しい話になってしまって申し訳ありません。


※本幕間は、「輔弼近衛(秤)」が何を備ふべき職かを、王朝の失敗史より逆算して記す。

影守・律師・衡吏はいづれも「秤」以前の侍史の名にして、職の欠を異にす。

南原・夢宮・飢歲の三事をもって「口・意・身」の三德を立て、末に創設の詔へ至る。


     ◇◇◇◇◇


《王朝秘史》卷六 南原之亂なんげんのらん

王曆二百七十六年、國に大亂たいらんあり。王弟オルダヌス、王統の正を唱へて兵をおこし、京畿けいきせまる。

是の時、「影守えいしゅ」とごうする者あり。左右に侍して行跡をたすけ、あやまちただし、言をいさむるを以て職とす。然れどもけんかるくして言は用ゐられず。


影守セリオン・ヴァルハウス、王弟の志を察すといへども、つひに上に諫むるを得ず。曰く、「我が務めは徒らに理を映す鏡なり」と。

是に於いてこえ宮闕きゅうけつに達せず、忠は大道に通ぜず。政は空轉くうてんし、租は滯り、民は惑ふ。三月ならずして五州王命をかず。

らん平ぎて王統は保たるといへども、威は地に墜ち、十年じゅうねん租賦そふたず。


史臣曰く、「帆をけば、風に折らる」と。


     ◇


《王朝秘史》卷七 夢宮之衰むきゅうのすい

王曆三百四十九年、王族、理をたっとびて情を退け、法を積みて志を語らず。

政は律令に從ひて壹絲亂いっしみだれず、然れども夢を語る者は笑はれ、詩を唱ふる者は退けらる。


律師りっしネモリウス・サビヌス、才あり忠信深く、法を知りて民を憐れむ。しかれども曰く、「器は余事なり。我が務めは徒らに王命を秤にすに在り」と。

是に於いて志は枯れ、學宮がっきゅうすたれ、文は絕え、商は外へ流る。

十年にして兵は集まらず、五境の地、鄰邦りんぽうに從ふ者すら出づ。

君、老いて悔ゆるに及び曰く、「余は國を守りて魂を失へり」と。

サビヌスも記して曰く、「王心をけて器をらずんば、國終くについに虚に沈淪ちんりんす」と。


史臣曰く、「器を失へば、夢に沈む」と。


     ◇


《王朝秘史》卷八 飢歲之禍きさいのか

王曆四百十一年、北境ほっきょう旱魃かんばつ三年に及ぶ。民飢ゑて道に餓す。然るに王族の中、宴を張り、穀を秘し、民の苦を顧みざる者あり。


衡吏こうりリュシアン・アクトン、是を知るといへども曰く、「こうは劍をぶべからず。我が務めは徒らに事を秤に載すのみ」と。

群臣、ただすを勧むれども、「王族に刃を向くは臣の道にあらず」として聽かず。


是に於いて暴は止まず、飢はひろがり、十七邑は各自に政を行ひ、三年にして死者数萬をかぞふ。

アクトン、職を辞して曰く、「刃を抜かざる衡、ついに火に呑まれたり」と。


史臣曰く、「を備へずんば、火に呑まる」と。


     ◇


《王朝秘史》卷九 秤三德論ひょうさんとくろん

王曆四百五十四年、史家コルネリウス・レンティヌス、國史・家記・舊記きゅうき群書ぐんしょ涉獵しょうりょうして稽覈けいかくし、南原之亂・夢宮之衰・飢歲之禍の三事を鉤考こうこうして論をべ、「秤三德論」と名づく。


三事はいずれも時と由を異にすといへども、皆侍史の德を欠きたるがゆゑに敗るるなり。

南原は帆をきて風をつかまず、言は宮闕きゅうけつに屆かず。

夢宮は器を失ひて志をらず、象は虚に沈む。

飢歲はを備へずして火を制せず、斷ずべきを斷たず。


是のゆゑに、およそこれを總じて曰く、「秤の三德」と。

曰く、帆を擧げて風を導くはの德、是非をべ、王族の過をただし、道の方を指す。

器を抱きて志をくるはの德、王心をけて象をて、志を形にへんず。

を構へて火を制するはしんの德、情に囚はれず、斷ずべきを斷ち、止むべきを止む。


後賢曰く、三德倶に備はれば、侍史は道を量り、國の均を支ふ。

いちを欠けば、その職空しくして名を受くるに足らず。

故に「ひょう」としょうす。


     ◇


《王朝秘史》卷九 附錄 輔弼近衛創設之詔ほひつこのえそうせつのしょう


ちんおもふに、國の大計は治道に在り。治道は君臣ともに其の任をつくしてはじめて成る。

然るに古來三たび侍史その任を失ひ、道もまた是に由りてすたれたり。


是を省みるに、天下の政を治むるの道は、君の力のみにあらず。三德備はる侍史を得てこそ、その本とす。侍史正しければ道自ら定まり、道定まれば社稷しゃしょくまた安んず。


然れども帆をけば風に折られ、器を失へば夢に沈み、を備へずんば火に呑まる。朕、是を省みて、むるがごとし。


其の職に在る者は、帆をげて風を導き、言をはつして是非をべ、道の方を指すべし。是れ口の德なり。

また器を抱きて志をけ、王心をけて象をて、時に應じてその形をへんずべし。是れ意の德なり。

さらにを構へて炎を制し、情に囚はれず、だんずべきをち、止むべきを止むべし。是れ身の德なり。


此の三德を備へ、口・意・身を以て道を量る者、是を「ひょう」と曰ふ。今、その「秤」に官名を賜ひて「輔弼近衛ほひつこのえ」と名づけ、其の制を定む。


秤は法の内にはあらず。ゆゑにけんの手はこれをしばることあたはず。然れども秤は理の内に在り。ゆゑに道はこれを量ることを止めず。


王族に直言して其の過をただし、また志を容れて形をあたへ、時に刃をきてその暴を止むべし。

そは常に王族の側に在りて影のごとく仕へ、語る所は天を畏れず地を顧みず、る所は正を本とし偏を退け、受くる所は志を器として虛を滿たす。


朕、ここに命ず。嗚呼、その志をたがふこと無かれ、その務を怠ること無かれ。此のしょう竹簡ちっかんに記し、宗廟そうびょうに納めて萬世の戒と爲す。


王曆四百五十四年三月

第十五代 國王 アウレリオン・ヴァルディス


     ◇◇◇◇◇


史臣按ずるに、秤は諫め・象を與へ・斷を下す三德を一身に兼ね、道を量りて社稷の均を支ふ。


これにて第一部終了です。



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