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第22話 輔弼近衛は混乱する ~俺が背負うの?~

初日から王宮ぐちゃぐちゃ――俺になにをしろと?

そのとき、白髪の恰幅のいい男性が進み出て深く一礼した。


「陛下、僭越ながら……」

「宰相、申せ」

「「『輔弼近衛』という役、その前例は王国の歴史にございません。王族と政のはざまに立つなど、若き一人の肩に委ねるのはあまりにも重責。判断を誤れば、王家も政も揺らぎかねません。再考なされるならば、まだ遅くはございませぬ。」


(……もしかして、俺を助けようとしてくれてる?本気で止めようとしてくれてるのか?)


俺が押し潰されずに済むよう、なんとか止めようと本気で考えてくれてる。


「ふむ、一理ある。それで人材に心当たりはあるのか、宰相」


その言葉に宰相閣下は押し黙った。他の高官たちは俯いている。


(……宰相閣下、もっと頑張ってください。宰相府に優秀な人材はいくらでもいるでしょう)


「そうであろう。輔弼はずっと必要とされていたのに、誰も任につけなかった。それほどまでに、この『輔弼』という任は難しく、重いのだ」


(……いや、そんな話を聞かされると、なおさら俺なんかじゃ無理に決まってるじゃないですか)


「前例なき時代には、前例なき人材こそが要る。血筋でも地位でもなく、ただ心のままに民を見つめる者。枠にとらわれぬ者こそが、真に新たな秤足りえるのだ。ゆえに――余はこの男を選んだのだ」


玉座の間が、嘘みたいにしんと静まり返った。

誰も口を開かない中、陛下はさらに言葉を続けられた。


(……誰もツッコまないの?……俺、昨日近衛騎士団に入ったばっかりだぞ?陛下が俺のこと知ってるわけないって。ていうか、名前間違えてるし。“選んだ”って言っているけど、絶対違うよな)


「アラン・アルフォード。汝の務めは、ただ王命を遂行することではない。王族の目となり、耳となり、口となることだ。民の声を拾い、王族の理を諫め、時に盾となり、時に刃を抜け。――「輔弼」とは、王族を支え、王族を諫め、王族の傍に立つ者にこそ与えられる称号なのだ」


……うん、やっぱり俺には無理じゃない?いや、無理だって。絶対。

ただの辺境貴族の三男坊がやっていい仕事じゃないって、これ。


「この任は孤独である。支える者も、頼る者もいない。それでも――」


――バァン!


陛下の言葉を遮るように、玉座の間の扉が盛大な音を立てて開いた。


「父上、よい鍛造炉が手に入りました!王都の鍛冶師どもを集めて実験を――っと、お?御前謁の最中でしたか」

「お父様、ちょっと聞いてくださいな!昨日の晩餐で出た料理、犬のエサみたいだったんですのよ!あら、新入りさん?」

「父王、詩が降りてきたのです。「風は語る、星は歌う」……いや、これは世界の法則を書き換える一節だ……。続きを書く紙を――おや、儀式の最中でしたか」

「陛下!新作の『三層焦がし蜂蜜パイ』が完成したんだ!一緒に味見してくれ!」

「お父さま。お兄さま、お姉さまたちずるーい!わたしも混ぜて!」


……な、なんだこれ。

若い男女五人が一斉になだれ込んできたのだ。


誰も止める暇もなく――重厚な玉座の間は、一瞬で日常の居間みたいな喧騒に包まれてしまった。


陛下は額に手を当ててため息をつかれ、王妃陛下は楽しげに微笑んでいるが、その目は笑っていない。

重鎮たちは慣れきったように肩をすくめ、侍従長だけが無言でこめかみを押さえている。


……俺はといえば、膝をついたまま、ただ呆然とするしかなかった。


ついさっきまで「王と民をつなぐ重責」だの「新たな秤」だの言われていたのに、この混沌、なんなんだよ……。


こうして俺、『アレン』・アルフォードの輔弼近衛としての本当の一日目は、予想の何倍も混沌とした幕開けとなった。

(……せめて、名前くらいは正しく覚えてほしい)


本日もお読みいただきありがとうございます。

次回は21時頃投稿の予定です。


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