第10話 近衛騎士の決意(団長カシウス視点)① ~ 選ぶ者の苦悩~
若さは国にとって都合のいい強度らしい
――「輔弼近衛」を置け。
それが陛下からの下命だった。
王家の血脈を束ねる影として、剣でも盾でもない第三の近衛を置け、と。
俺は、しばしその場で沈黙した。
「影」とは何かを、誰より知っているのは俺自身だ。
王族の歩みを受け止め、泥を引き受け、光の外に立ち続ける者。
それは栄誉ではある。だが、同時にこの国で最も孤独な職でもある。
“輔弼近衛”という肩書は歴史書には記されていたが任命された者はこれまでいなかった。かつて“影”を名乗った者、王の歩みを量ろうとした者は確かにいた。だが彼らはいずれも、語るべきを語らず、断つべきを断たず、志を形にできぬまま――国は揺れた。
それでも陛下は言った。
「この国が変わろうとするなら、光と影のあいだを渡る者が要る。剣でも盾でもなく、“秤”となる者が」
――わかっている。正しい。
だが、それを担う者は誰もいなかった。血筋ある者は身を汚すのを恐れ、功績ある者は地位を手放すのを嫌った。
ゆえに俺は「任に耐えうる者なし」という理由で断り続けてきたのだが、これ以上は忠義が疑われる。
ならば、残る道は一つしかない。理想をまだ信じている若者を、差し出すことだ。
俺は候補の名簿を一枚ずつめくった。
その中で、ただ一人だけ、書類の端まで“戦う理由”を染み込ませている者がいた。
――アレン・アルフォード。
辺境貴族の三男坊。剣技、座学、実技全て最優の成績で首席となり、宮廷政治とも縁がない。
だからこそ、まだ「信じている」。剣で王を護り、理想を叶える未来を。
無垢は愚かではない。時にそれだけが人を動かし、王族の放埒が国を揺らす前に打つ楔にもなる。
(……すまんな。貴様を贄とする)
選んだ瞬間から、俺はそう決めていた。
この任務は誉れであり、同時に罰でもある。王家の泥をすべて背負わせるための影だ。
――“選ばれた者”ではなく、“選ばれてしまった者”が、この国の均衡を支えるのだ。
◇
冬の名残をわずかに残した空の下、中庭に十の若者が並んでいた。
近衛騎士団――王国の根幹を護る剣であり、王族の最前に立つ盾。
この場に立つ者は、いずれも中央の有力貴族の子弟ばかり。血筋も名誉も申し分ない。
その列の中に、一人だけ異質な影が混じっている。
アレン・アルフォード。
よい。違和感は、秩序の揺らぎだ。その揺らぎに気づく者でなければ、王族の歩みを止めることはできぬ。
「静粛に」
俺の声に、中庭が凍る。
呼吸の数が揃い、視線が一斉に俺を射抜く。
近衛において式典はただの儀ではない。骨であり、秩序の礎だ。
「――近衛は“醜の御盾”である。王家の身を護るだけでなく、その誉れも汚名も、光も影も、すべて己が身に引き受けてこそ、王国を支える盾となるのだ!」
その言葉に、中庭の空気がさらに張り詰めた。
若者たちは剣を掲げ、五誓を唱和する。声は鋼のように重く、澄んでいた。
そして、そのうちの一人――アレンは、誰よりもまっすぐ剣を掲げていた。
(……やはり、こいつだ)
――秤は、また一人の影を得た。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
【次話予告】
団長の独白、続く――“任せる”じゃなく“背負わせる”のほうだって、言葉の重さで分かる。
誉れと罰を同じ箱に詰めて鍵をかける理由、もう少し具体的に突きつけられる予感。
(……本当か?)
次回は21:00更新予定です。
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