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男装令嬢の恋と受胎 ~国一番の顔面偏差値を持つ隠れ天敵な超絶美形銃騎士に溺愛されて幸せです~  作者: 鈴田在可
受胎編

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31 向こう側 ~処刑場の眠れる美形~

・前半部にやや下方向の内容があります

・説明の一文だけですが両刀使いが出ます

・後半部に残酷表現があります

「俺の妻のロゼは獣人なんだ。ジュリアスも含めて、俺の息子たち全員が獣人だ」


 アークからそれを聞いた瞬間、すべての点と点が繋がった。


 知り合った直後、「誰とも結婚はしない」と言っていたジュリアス。


 交際後は結婚について保留にされ、結婚願望が本当にないのだろうと思っていたら、初めて身体を繋げた直後にプロポーズされた。

 当時はただ嬉しいという思いしかなかったが、その急な方向転換は、身体を繋げたことで獣人の番――ジュリアスにとって唯一無二の存在――になった影響なのだろう。


 初めて結ばれてから、ジュリアスの「フィオナ好き好き度」はかなり上がった。行為は頻回だし、ジュリアスはフィオナに他の男が近付くことをよしとしなかった。

 普段は男装しているので「フィオナ」として男性とお近づきになる機会もあまりないが、仕事上でやり取りの多い二番隊副隊長マーカス・エニスが両刀使いらしく、絶対に二人きりになるなと散々注意はされていた。


 それから、養成学校の視察で仲良くなった当時訓練生のゼウス・エヴァンズ美少年に対して、ジュリアスは訓練中の模擬戦にて一撃で叩き潰した際に、「フィーと馴れ馴れしくするな」と脅していたらしいのである。


 品行方正で聖人君主然としていたジュリアスが、年下の少年に脅しをかけるとは信じられなかったが、意気投合した直後にゼウスが急によそよそしくなり、おまけにジュリアスに対して畏怖の表情――フィオナがアークに向けるような――をするようになったのは事実だった。

 フィオナはゼウスの態度がおかしいなと思っていたところに、ひょっこりやってきたセシルに真相を教えられた。


 フィオナはゼウスには得意の射撃の術などを教えたりしていて、今でもフィリップとして仲良くしているつもりだが、ゼウスと会う時は、短時間であっても絶対にジュリアスがどこからか湧いてきて、必ず一緒にいる。どんな時でも。


 万が一にでも番であるフィオナをゼウスに取られることを恐れていたのかもしれない。


 ジュリアスは酒や紅茶などよりも牛乳が大好きで、それはブラッドレイ兄弟たちも同じだった。

 ジュリアスは、「獣人は食べられない者が多い」という野菜も、普通に食べていたが、魔法で成分はいくらでも変えられるし、健康診断で抜かれた血も、魔法を使えば人間だと偽装できる。


 何よりあの美貌。そして強さ。本人は否定しているが、ジュリアスは銃騎士隊歴代最強との呼び声が高いし、フィオナもその通りだと思っている。

 獣人であれば圧倒的な美しさも身体的な強さも――絶倫含めて――理解できるし、「フェロモンだけで女がイく」という謎な体質も、正体が獣人であればなんとなく理解はできる。


 ジュリアスの正体に衝撃はあったが、それでフィオナのジュリアスへの愛が消えることはない。

 むしろ真相を知ってしまえば、「ジュリアスの正体がバレないように私も動こう」という思いが先に来て、ジュリアスを獣人として捕まえたり処罰しなければ、なんて考えは一切芽生えなかった。


 獣人を敵と認識していたフィオナはこの時、自分が「人間を裏切っても構わない」という「向こう側」へ渡ったことを感じた。




「たとえジュリアスの正体が獣人であっても、私はジュリアスを愛しています。この思いは、どんなことが起こっても、絶対に変わりません」











 数日間眠らされていたフィオナは、シドが捕獲されたことや本日予定されていた処刑の際にシドが暴れ出したことも何も知らなかったが、アークに状況を簡潔に説明された後、アークの転移魔法で処刑場に移った。


 フィオナたちが現れたのは処刑場広場をぐるりと囲む観客席の一部で、目の前の広場には闇色を思わせる大きな黒い空間ができていた。


(あの中にジュリアスが!)


 闇の中、ジュリアスはシドと一対一で戦っていて、瀕死の重傷を負っているらしい。


「――――ジュリアス!!」


 フィオナはありったけの声で彼の名を叫んだ。


 フィオナはアークが羽織らせてくれた隊服の上着を片手で押さえながら、少しでもジュリアスの近くへ行こうと走り出した。

 アークからは「とにかく時間がない」と言われていたのと慌てていたので、フィオナは長い髪を結わえもせず寝衣のままだったし、男装するための魔法の指輪も別荘に置いたままだった。


 広場へ下りられる階段を見つけたので一旦建物内部に入って進んでいくと、抜けた先では、銃騎士隊員たちが等間隔で闇の空間を囲んでいるのが見えた。

 フィオナが一番近くにいた隊員に状況を尋ねようとした矢先、「あれは!」と隊員のうちの誰かが叫んだ。

 隊員の視線の先を追えば、闇の影の所々が薄れて穴が開いていて、闇の空間が崩壊を始めたのがわかった。


「――――シド!!」


 中から少女の声がした。ジュリアスとシドの戦闘空間に別の者が入り込んでいたのは初耳だった。闇の向こう側が一体どうなっているのか、フィオナが状況把握に努めようとする中、広場にいた銃騎士の中で真っ先に動いたのが、銃騎士隊三番隊長マクドナルド・オーキットだった。


 マクドナルドは闇の壁が充分に消え去っていない中、闇の中に唯一人突っ込んで行き、得物の大剣を振るった。


 状況は未だよくわからない。だが、斬られた首が一つ、闇の消えかける空間から飛び出してきたのが見えた。


 周囲から歓声が上がる。鮮血のような赤髪を持った首は、間違いなく獣人王シドのものだった。


 理解したフィオナも声を上げ、涙を流しながら、ただ一心不乱に、闇が晴れた場所の地面に倒れているジュリアスの元へと駆けた。


「ジュリアス! ジュリアス!」


 ジュリアスの近くには、首のない、シドの死体と思われる身体も横たわっていたが、シドの死体の胸にはジュリアスの剣が深々と突き刺さり、貫通していた。


(討った! シドを討った!)


 フィオナの、そして祖母や伯爵家の者たちの悲願が叶った瞬間だった。


「ジュリアス!」


 フィオナは倒れるジュリアスを胸に抱き起こした。呼びかけても意識はないままだが、息はちゃんとしているし、身体や隊服に傷や汚れは見当たらず、怪我もしていないようだった。

 シドとの戦いで全く負傷なしというのも考えられないので、ジュリアス自身がどこかの時点で魔法を使い、自らを回復させたのだろうと思った。


「ジュリアス、生きてて良かった……」


 号泣しながら安堵したフィオナは、魔力切れを起こして気絶したらしいジュリアスに魔力補充を施すため、周囲の喧騒には構わずに、彼の唇にキスをした。


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