26 ずっと一緒にいるから
R15
フィオナとジュリアスの二人はキャンベル伯爵家の海辺にほど近い別荘にやって来ていた。
魔法陣を使った転移魔法で別荘に着くなり、フィオナは彼女の部屋として割り当てられている部屋まで姫抱きで連れて来られた。使用人もいない時期なので掃除の必要があったと思うが、ジュリアスは浄化魔法一発で部屋を綺麗にすると、フィオナをベッドに下ろして覆いかぶさり、口付けを落としてきた。
キスをされつつ服の上から身体を触られるが、ジュリアスの手つきは何だか性急で余裕がなかった。
「あの、お風呂は?」
「魔法で綺麗にする。早く抱きたい」
なんでいきなりこんな展開になっているのか、フィオナもよくわかっていない。いつものように男装してキャンベル家の馬車に乗り、銃騎士隊の本部建物内のジュリアスの執務室に入ったところで、いつもよりも色気のダダ漏れ具合がひどくて、「獣人狩りじゃなくて女百人狩りでも行くのか?」みたいな淫靡すぎる雰囲気をまとったジュリアスが、自分を待ち構えるようにして佇んでいる様子が目に入った。
フィオナは彼を見るなり全身にビリビリとした衝撃が走り、今までにない圧倒的な「女殺し」感を覚えてひどく慌てた。
色気に腰が抜けて尻もちをつきそうになったところで、「瞬間移動でもしたのか?」くらいの速さでそばに来たジュリアスに身体を支えられ、反転して壁ドンされて、闇の気配がするジュリアスの青い瞳に射抜かれながら、「結婚はできないけど俺に抱かれて一生一緒にいるか、別れて二度と会わないかを選べ(意訳)」と迫られた。
「結婚しない」ということはもしかしたら他にも同じような女を何人も作るつもりなのかもしれないと、こと女性関係に関しては厳格なジュリアスに似つかわしくないことを一瞬だけ想像して、でも可能性として無くはないのだろうと理解した上で「抱いて」と返事をした。
次の瞬間には足元に魔法陣が出現していて、あっという間に別荘に転移していた。
「あの、ねえ…… 仕事は?」
「今日は休暇扱いにしてある。何かあったらセシに変わりに対応するように頼んであるから、大丈夫だ」
「セシル君に⁉」
「セシ」とはブラッドレイ一家が呼ぶセシルの愛称だが、彼はまだ十歳だ。人の生死にも関係する銃騎士隊の仕事を投げて大丈夫だろうかと思いつつも、現在「とある問題」が界隈のみで秘密裏に話題になっていて、渦中の人の名前を聞いたことによる驚きもあった。
実はほんの少し前に、「次期宗主ジュリナリーゼ家出事件」があった。
現宗主ミカエラの娘であり次期宗主に内定しているジュリナリーゼが、「宗主にはなりたくない」と置手紙だけを残して、男と出奔した事件だ。
捜索の応援要請を受けた時、ジュリアスは真っ青になってすぐに転移魔法で消えた。慌てていたのかフィオナは執務室に置いて行かれてしまったが、ジュリアスの魔法の力により、ジュリナリーゼは海外へ渡る直前で見つかり保護された。
しかし、事件解決になるどころか、同時にとんでもないことが発覚した。
ジュリナリーゼと一緒にいた彼女の駆け落ち相手が、セシルだったのである。
あまりな内容に事件は公にされなかったが、国家の中枢と、ブラッドレイ家にも激震が走っている最中だという。
「あいつはもう一人前だ。たった一日程度の銃騎士隊で巻き起こる問題くらい捌けなければ、『宗主配』になんてなれない」
ジュリナリーゼとセシルは、互いに結婚を望んでいるらしい。
「ジュリアスは、大事な『妹』と『弟』が結婚しちゃうのが、寂しいの?」
フィオナの中では、ジュリアスとジュリナリーゼは兄妹だ。
しかしジュリナリーゼとセシルに血の繋がりはないので、セシルが成人さえすれば婚姻も可能なはずだ。
「……そうだな」
「大丈夫、私がずっと一緒にいるから、寂しくないよ」
告げると、ジュリアスが泣き笑いみたいな顔になって、また口付けてきた。
本当は、初体験の時に着ようと思っていたお気に入りの夜着があったが、それは次回で良いかと思い、フィオナはジュリアスにすべてを委ねることにした。




