13 彼の弟 ―セシル―
「……――おねーえさん、フィーおねーさん? 気が付いた?」
目を覚ました時、フィオナはソファの上に横になっていて、ジュリアスを幼くしたようなショタ美少年の柔らかい膝の上で膝枕されていた。
(……美しい)
少年は幼いが、ジュリアスによく似た整いすぎた顔面をしていた。髪色はジュリアスと同じ白金色で、瞳の色も同じ澄んだ青色をしている。
「フィーおねえさん、初めまして。ジュリ兄の弟で、ブラッドレイ家四男のセシルでーす」
フィオナは一瞬、ジュリアスが魔法でセクシー全裸姿からショタ姿へと変貌したのかと思ったが、違った。
「ジュリ兄は今来られる状況じゃないみたいだったから、代わりに俺がおねーさんのピンチを救うために来ました」
至近距離でニコッと笑いかけてくる顔が可愛すぎて、意味不明な状況なのに胸がときめいてしまう。
「お風呂場で色々なモノ見ちゃって衝撃受けてて可哀想だったから、俺が魔法でジュリ兄の綺麗なカ・ラ・ダを見せて心を浄化させようと思ったんだけど、びっくりさせちゃったみたいで、ゴメンね」
セシルの口調に若干、この状況を面白がってるような様子が窺えたこともあり、フィオナは彼が先に会ったノエルのような品行方正なショタ美少年ではなく、いたずらっ子属性持ちショタ美少年だと思った。
おまけに、セシルがこちらを見下ろしながら、少し人を食ったようにも見える微笑みを浮かべていたので、『この子は一筋縄ではいかない』とフィオナは直感した。
フィオナが冷静だったならばジュリアスがしそうにもない行動や発言だと気付いたかもしれないが、つまり、先ほどのセクシージュリアスの姿や声は、セシルが魔法で作り出した幻だったようだ。
「ちなみに、さっきのジュリ兄の身体は本物と全く同じやつだからね」
言われたフィオナは、網膜に焼き付いて一生離れなそうなジュリアスの美しすぎる裸身を思い出してしまい、顔を真っ赤にさせてまた鼻がモゾモゾしてきたが、セシルのペースに呑まれてはいけないと、膝枕状態から身体を起こして距離を取った。
「いくら兄弟とはいえ、人の裸を勝手に見せちゃ駄目でしょう」
「だけどフィーおねーさんだって、女なのに男風呂に入って、色んな男の人のハダカを勝手に見ようとしてたじゃない?」
フィオナはいたずら好きらしいセシルに説教をかまそうと思ったが、痛い所を突かれてしまって、ぐうの音も出なかった。
「ジュリ兄はね、あんな女殺しみたいな魅力的な人だから、初夜の時に絶対に相手の人がぶっ倒れちゃって、初夜遂行できないと思うんだよね。本番の時に失敗しないためにも、今のうちからジュリ兄の裸に見慣れておいた方がいいと思うよ」
「……私とジュリアスは偽装婚約よ。初夜をすることになんてならないわ」
セシルはフィオナよりも五歳くらい年下に見えて、子供が一体何を言っているのだと突っ込み所はあったが、とりあえず一番気になった部分を口にした。
「でも、フィーおねえさんはジュリ兄が好きなんだよね?」
「好きです」
「だったら、何が起こるかわからないじゃない? 備えあれば憂いなしってやつだよ」
フィオナは、『そうかなぁ』と思いつつ、丸め込まれた感も否めなかったが、セシルのことは変な子だけど悪い子じゃないと思ったので、叱るのはやめておいた。
フィオナはセシルにジュリアスへの気持ちを即答してから、『ジュリアスを好きでいることは秘密だったのに知られた』と青くなり、口止めを願い出た。
いたずら好きなセシルは渋るのではないかと思ったが、「言わないから大丈夫だよ」とすんなり了承してくれたので、かなりホッとした。
セシルはジュリアスの代わりに、入浴しなくても大丈夫なようにフィオナに浄化魔法をかけて、朝まで部屋に誰も侵入できないような魔法もかけてくれた。
「もしもジュリ兄に振られちゃったら、自暴自棄にならずに俺を頼ってね。抱きしめて慰めてあげるから」
最後にセシルは、パチン☆と可愛らしくウインクをすると共に、人を狂わす魔性美少年みたいなことを言ってから、瞬間移動の魔法で一瞬で姿を消し、帰っていった。




