強制エモート
ボイチャを使わず他プレイヤーと意思疎通を図る手段の一つ、エモート。
本来ならば友好的な目的でつかわれるソレを悪用し、相手の行動を禁止させる凶悪なチート。
今日も今日とてチーターを求め、チートスレイヤー氏は広大なマップ中を歩き回る。
いつもの巡回ルートを通り、チーターの出現する可能性のあるフィールドを隈無く探索していると、
「?」
遠くから足音が聞こえて来た。
素早くそれに気付いたスレイヤーはすぐに振り返る。だが、接近する何者かの動きは遅く、高レベルの人物とは思えない。であるならば、PVPが目的ではないか・・・・・レベルの低いチーターか?
このゲーム内において碌に友人のいないスレイヤーは、後者の可能性が高いと判断し身構える。
相手は米粒ほどのサイズに見える距離から数分掛けて走り、ようやくスレイヤーと会話ができる距離にまで寄ってきた。
「はぁッやっと追い付いたッ! 気付いたならただ待つんじゃなくてこっち来てくださいよッ!!」
「いや、敵の可能性もあるしな」
「敵じゃないですよ僕はッ! ほら、覚えてない?」
「・・・・・・ふむ」
スレイヤーは自身の記憶を探り、ここ最近であった人物達を思い出す。
・・・・・殺したチーター。殺したチーター。チーター疑惑のあったサラ。殺したチーター。チーターの噂を教えてくれた女プレイヤー。チーター。チーター・・・・・。
「残念ながら、覚えていないな」
「ぇえッ!? 僕にゲームのあり方を説いてくれたじゃないですかッ!」
「俺が他人にそんな面倒な事をするだろうか・・・」
「しましたよッ! ほら2週間ぐらい前ッ バフを重ね掛けするチーターと街中で殺り合ってた時ですよッ! 100本ぐらいナイフ投げて倒したあのチーターの時ッ!!」
そこまで言われて、ようやく脳内にボンヤリとした当時の情景が浮かんで来た・・・・・確かに、彼のような青年の声したプレイヤーがいたような?
「う〜む・・・まぁ、いた気がする」
「思い出してくれましたッ!? よかった〜!」
「で、何の用だ?」
「あ! そうでしたッ 貴方、チートスレイヤーって呼ばれてますよねッ!? 卑怯なチーター達を、素の力だけで葬る凄腕プレイヤーだって噂聞きましたッ! というか僕は実際この目で見ましたしッ!」
「まぁ・・・凄腕かと言われれば小首を傾げるが、対チーターに関しては、並ぶ者はいないという自負はあるな」
「それは十分凄腕ですよッ! でも、そんな人が高いランクにいたらもっと話題になってると思って色々調べたんです! それで気付きました・・・チートスレイヤーさんって、ランクシルバーですよね?」
「まぁそうだな。チーター狩りしかしてないと、ランクはあまり上がらないからな」
「僕はそこに感銘を受けたんですッ! 貴方が教えてくれた、ランクが全てじゃないって考え方ッ! ただ慰めの口先発言じゃなかったんだと実感できて! とても嬉しかった!!」
「はぁ・・・・・どうも」
「そこで! 僕ももうランクを気にせずやりたいようにやろうと思うんですッ!」
「それは自由だが・・・マナーは守れよ?」
「勿論ですッ!ですから! 弟子にしてくださいッ!」
「・・・・・・・は?」
思わずスレイヤーの口から素っ頓狂な声が漏れる。
「弟子?」
「そうですッ! 僕にもチーター狩りを手伝わせてくださいッ!!」
「ふむ・・・・・」
確かに、ここ最近チーターの質が上がり苦戦することも多くなって来た。勿論今までも簡単に倒せたチーターなどいないが、それでも最近のチーターは、スレイヤーがチーター狩りを始めた頃よりも強くなっている。
このままのペースで奴等が成長するのならば、近い未来自分はやられ、レベル1からの再スタートを余儀なくされるだろう。そうなれば、スレイヤーがレベル上げをしている間、チーターを止める者はいなくなってしまう。今の所チーターと正面切って戦闘する変態なんて、チートスレイヤー氏ぐらいだから。
ならば、後継もしくは仲間を作ることも大事だろう。スレイヤーほどチーター狩りに熱中せずとも、チーターの倒し方を教えておけば、スレイヤーが殺られた時もしばらくチーターの悪行を食い止めてくれるだろう。
が、目の前の青年に、圧倒的格上の能力を持つチーターを狩れる程の才があるとは思えない。
「・・・お前、ゲーム始めてどのくらい?」
「半月ぐらいです」
「レベルは?」
「50っす!」
「・・・・・・」(ちゃんとレベル上げをしたならとっくに99になってるはずだが・・・)
「どの程度ゲームをする?」
「んー・・・1日2〜3時間くらい?」
(少ないな。ゲーマーとは呼べない・・・そのペースではレベルが上がるより先に殺られて1から再スタートになる可能性の方が高そうだ・・・)
低レベルで長時間プレイするほど、死んでしまうリスクは高くなる。このゲームで長生きするには素早いレベル上げが必須だ。それ故、あまりゲームに熱を込めないタイプのプレイヤーにこのゲームは向いていない。
そんなプレイヤーがチーターと戦う事など、出来るはずもない。
「・・・残念だが、足手纏いを連れられるほど俺の気は長くないんだ」
「足手纏いだなんてッ!大丈夫ですよ、死んでもまたレベル上げして付き添いますッ!」
「そういう問題じゃない。俺が相手するチーターってのは未知数なんだ。仲間同士を攻撃させたりするようなチートだってあるかもそれない。そんなの相手に戦うには、お前じゃ弱過ぎる。メリットよりデメリットの方が圧倒的に大きい」
「そんなぁッ!ようやくやりたい事見つけたのに!」
「まあ、お前が個人でやるには文句付けたりしないさ。ただ、俺と一緒に行動するには力不足だと『ありがとう』
スレイヤー氏、突如お辞儀。
「・・・・・はい?」
青年は思わず困惑。
「・・・なんだ今の『感謝する』エモート?『どうも』・・・鬱陶し『ありがとう』
何度も何度も、壊れた玩具が如くお辞儀を繰り返すスレイヤー。不気味な黒鎧を着た男が何度も頭を下げる様は、何とも言い難い不気味さがある。
「ど、どうしたんすかスレイ『すまん』ヤーさん『悪かった』あれ?勝手にエモ『すまない』ートがっ」
青年の方も奇怪な謝罪をし始めた。
方やお辞儀、方や平謝り。はたからみたらカオスな状況だ。
「『感謝する』『どうも』『ありがとう』『感謝する』『どうも』『ありがとう』」(バグ?2人して突然?・・・いや・・・この感じは・・・)
スレイヤーはお辞儀を繰り返しつつ、以前ネットニュースで見た記事の内容を思い出した。
「こ、これ『悪かった』なんです?『すまない』永遠に謝っちゃう『すまん』ですけどw『悪かった』バグ?」
「『ありがとう』いや『感謝する』チート『どうも』かもな『ありがとう』」
「『すまない』チート?『すまん』」
「ああ『感謝する』以前、別のゲー『どうも』ムで、周囲の『ありがとう』プレイヤーに強『感謝する』制的にリロー『どうも』ドをさせ続け『ありがとう』るというチート『感謝する』を使う奴が『どうも』現れて話題に『ありがとう』ッ鬱陶しいなッ!!『どうも』」
どうにか出来ないモノかと、スレイヤーは色々試してみる。
エモート中は攻撃や回避といった行動は不可能らしい。エモートが終了してから再発生するまでの間に少し動いたりは出来るが、攻撃速度最速の素で攻撃すら出せない。この状況下で相手を攻撃することら不可能だろう。
「『感謝する』『どうも』『ありがとう』『感謝する』」(俺と彼で発生しているエモートが違う・・・何の差だ?)
こういうのは、取り敢えず色々ためすのが大事。スレイヤーは他のアクションも確認してみる。
すると、
「おっ」
エモートは本来、無数にあるエモートの中から好きな物を選び、それをセットしてから発生ボタンを押すことでエモートを行う。
今スレイヤーは『感謝』のエモートがセットされていた。それを『一回転』のエモートに変えてみると、不気味にお礼を繰り返していたスレイヤーの行動は一転、オシャレした女子がそれを相手に見せびらかすよに、クルンっと優しく一回転した。
そして一回転。また一回転。さらに一回転。お礼の次は一回転が続く。
「なるほど・・・強制発動させられるエモートは変えれるようだな」クルックルックルックルッ
「えッ!?『すまない』ホントっすか!?『すまん』俺も変えたいッ『悪かった』」
青年がエモートを変えようと試みている間に、スレイヤーは別のことへと思考を回す。
(ここにいるのは俺とコイツだけ・・・だがコイツより先に俺が影響を受けた。これがチートだと仮定して、チートの影響範囲が絞られているのだとしたらチーターがいる方向は・・・)
スレイヤー氏の背後方向ということになる。
クルクルと回り続けながらも、スレイヤーは目線を後方へ向け警戒する。
すると、後方数十メートル先にある丘を何かが越えて現れた。獣皮の装備を纏った男性だ。
その装い、出で立ち。どうみてもプレイヤーでありながら、奴はスレイヤー達のようにエモートを繰り返していない。
「・・・・・・」
「お、ようやく黙った・・・でも今度は踊りだしちゃった!?」
スレイヤーがプレイヤーを睨む。
青年は呑気にステップを刻む。
プレイヤーはこちらを一瞥し、ニヤリと笑った。
「獲物み〜けッ!」
その発言を聞き、奴がこの無限エモートの元凶でありチーターであると、スレイヤーは確信するッ!
「動くなよぉ?」
チーターは背中に装備していた弓矢を取り出し引き絞るッ!
あれは鋼鉄製の強弓だッ! 物理遠距離武器の中でも、狙撃魔導銃と同列で最大級のダメージを誇る武器種ッ!
もし頭に喰らえば、体力防御力の高くないスレイヤー達は一発でお陀仏だッ!!
しかも、チーターが番えた矢の先にはダイナマイトのような円柱型の爆薬が括り付けられているッ!
着弾地点で爆発を引き起こす特殊矢『爆弾矢』だ! 通常時のスレイヤーからすれば、弾速は遅く効果範囲は魔法以下の、低レベル帯のプレイヤーが場繋ぎ的に使う武器だ。だがしかし、ただエモートを繰り返し続ける今の2人にとっては驚異過ぎるッ!
「エモート16番ッ!!」
「え?」
スレイヤーが叫ぶッ! その意図が説明されるより先に矢が放たれ、爆弾矢が迫るッ!!
「ぇええッ!?」
青年はようやく敵の存在に気付き、スレイヤーの指示に従って我武者羅にエモートの16番目を選択したッ
そしてスレイヤーと青年が同時にエモート16番を発動させるッ!
すると、2人は同時にムーンウォークを繰り出したッ!!
――ボガンッ!!――
爆弾矢が着弾ッ! 爆発ッ!!
ギリギリ爆破範囲から逃れた2人が、爆煙を突き破って滑るような後ろ歩きをしながら現れるッ!
「おっ!避けやがった!?クヘヘッ!いいじゃねぇか!楽しませろやッ!!」
チーターが再び爆弾矢を番えるッ! それも3本同時ッ!! 同時に複数の矢を放つ場合は、水平もしくは直列に並べて放つ。つまり効果範囲は本数に比例して増加するッ! これはマズイッ!
「ヤバッ!!どどど、どうしますかッ!?」
「チートの効果範囲はそこまで広くないッ! 取り敢えずこのまま離れろッ! 俺が引き付けるッ!」
青年を逃がし、スレイヤーはムーンウォークの方向を変えてチーターへと向かっていくッ!
「クハッ!いいだろうお前から爆死しろやッ!!」
チーターが爆弾矢が放たれ、スレイヤーへと迫るッ!!
「スレイヤーさんッ!!」
ムーンウォークで後退する青年の声が届く中、スレイヤーはッ――――
「何ッ!?」
チーターの口からそんな声が漏れるッ!
このチーターは生粋の爆弾魔で弓使いッ!チートを使う前からこうして敵を爆撃して来た。矢の扱いには慣れている。
勿論偏差撃ちだって習得済みだ。移動速度の遅いムーンウォーク中の相手だなんて百発百中・・・のはずなのにッ
爆煙の中から、依然ムーンウォークを続けるチートスレイヤー氏が現れたッ!!
「はっ、当たると思ったか」
「あり得ないッ俺がこの距離、あの動きの敵を外すだとッ!?」
チーターは驚愕。しかしスレイヤーはズルなんかをしたんじゃない。相手を分析し、その動きを予測し、対応したのだッ!
まず、チーターが放った初弾の矢。あれはスレイヤーと青年、両者に爆発のダメージが入るように放たれていた。つまり両者の間へと矢が放たれたのだ。
この時点でチーターがオートエイムの類を着けていない事が分かる。
しかしオートエイム等を着けていないのであれば、弓矢なんていうエイム力依存の武器を使う必要性は薄い。矢を持参しなくても、MPさえあれば何時でも撃てて効果範囲も広い魔法を使った方が合理的だ。
だが奴は弓矢を使っている。つまりはそれだけエイム力、弓術に自信があるのだ。となると当然偏差撃ちだって出来るだろう。
『相手は偏差撃ちをしてくる』この情報を得たスレイヤーは、逆にそれを利用したのだ。
矢が放たれる直前、直後、着弾して爆発する寸前、この3つのタイミングで一瞬ムーンウォークを中断させたッ!
勿論チートの効果によって再びムーンウォークが始まるが、中断からの再発動までには僅かながらラグがあるッ! そのラグが3回も重なれば、偏差撃ちされた矢が着弾する地点とはだいぶ誤差が出るのだ。
その誤差さえあれば、あとは爆発後にムーンウォークの方向さえちょっと変えれば爆破のダメージを避けられるッ!
チートスレイヤーの観察眼と、相手が矢を放つタイミングを予測する分析力が成した技だッ!
が、これが通用するのは一度だけ。
「チッ!避けるってならよぉ」
当然ながら、弓矢の扱いに長けるチーターは次なる手を打って来た。
「後ろ歩きじゃ避け切れねぇだけブチ込んでやるよぉッ!!」
スキル『矢連射ち』だッ! 矢を何本も指に挟み、スタミナが切れるまでそれを連射してくるつもりだッ! 爆弾矢ではない通常矢だが、連射となれば爆弾矢よりも驚異的ッ!
「流石にマズイんじゃッ!」
青年がムーンウォークの方向を変え、助けに向かおうとするが、
「来るなッ!!」
ムーンウォークしながらスレイヤーがそれを制するッ!
「そこだぁッ!!」
そしてチーターは、矢をマシンガンの如く連射したッ!!
迫り来る矢の雨ッ!! タイミングをズラした程度で対象できるモノではないッ!!
そんな猛攻を前に、スレイヤーはエモート選択ッ!!
「5番ッ16番ッ9番ッ!」
バク宙!ムーンウォーク!一回転ッ!!
「!?」
流れるようなエモートの連携ッ!!
回りッ!下がりッ!また回るッ!
その3つのエモートの動きが、ホースから射出される流水のような矢の連撃を躱したッ!
「ケッ!いつまでそうしてられるかなッ!」
しかしまだ連射は終わっていないッ! 再びチーターの照準がスレイヤーへと合わされ、矢の雨が向かってくるッ!!
「フッ!!」
それに対してスレイヤーのエモート回避ッ!!
バク宙ッ!バク宙ッ!側転ッ!ムーンウォークッ!一回転ッ!ムーンウォークッ!側転ッ側転ッ!偶に小刻みステップッ!!またバク宙ッ!!
「くぅッ!!クソがッ!!」
結果、矢がスレイヤーを捉える前にチーターのスタミナが底を尽きたッ!!
肩で息をするチーターを横目に、スレイヤーはムーンウォークで彼から離れていく。
「チッ!逃さねぇぞッこの野郎ッ!!」
「こっちのセリフだなカス野郎」
お互いが睨みを効かせながら、100メートル程離れただろうか? チートの効果範囲を出たようで、スレイヤーはようやく何時もの動きに戻る。
「スレイヤーさんッこっちこっち!」
見ると、青年が1人岩の裏に隠れている。スレイヤーも今は一旦落ち着くべきと考え、岩裏に周る。
「スレイヤーさんヤバ過ぎっす!何すかあの動きッエモート繋げただけとは思えないっすよッ!」
「御託はいい。とにかく今はアイツを殺す・・・チートの効果範囲は100メートルってとこか・・・俺の攻撃手段じゃ届かないな・・・お前はどうだ?」
「いや〜飛距離100メートル超えの技は使えないっすねぇ」
「・・・そもそもお前は魔術士ってことでいいんだよな?」
「はいっ、魔力と知識にステ振りしてるっす。あとまぁスタミナとかにも」
「・・・・・覚えてる魔法は?」
「攻撃魔法は初級のヤツが殆どですね・・・あとは回復とか」
「バフは?」
「使えないっす…ガチ勢のプレイヤーってダメージ数とか気にしたりする人もいるじゃないですか? 今まで野良の人捕まえてクエスト同行させて貰ったりしてポイント稼いでたんで、下手にバフとか使うと逆に迷惑になったり・・・だからせめて回復だけでもと思ってそれぐらいしか・・・」
「ふぅむ・・・」
やはりあまり役には立たなさそうだ。まあ、1人で戦うなんてスレイヤーにとってはいつもの事だ。
「・・・・・」
岩陰から顔を出し、チーターを確認する。
スタミナが回復し、コチラへと歩いて来ている。直にここもチートの効果範囲に入ってしまうだろう。
「お前、初級の魔法は使えると言ったな?」
「お前じゃなくて、タクマです!僕の名前はタクマ!」
「そうか。じゃあタクマ、〈魔突射〉は使えるか?」
「はい、使えます・・・けど、あれの射程って100メートルもないんじゃ?」
〈魔突射〉は初級の魔法でありながら、中級上位並の威力と貫通性能を誇る魔法だ。
しかしその利点を打ち消してしまう程に、発動には長い溜めを要しMPの消費も大きい。結果あまり使われない魔法だ。一般的には序盤のロマン砲といった扱いだろう。
それに射程も100メートルに満たず、あのチーターに当てることは難しいだろう。はてさてかのチートスレイヤー氏はどうするつもりなのか・・・。
「クククッ! 隠れたって無駄だぜぇッ!」
岩の裏でコソコソと話し合う2人に痺れを切らしたチーターは、爆弾矢を弓に番えて照準を上空へと向ける。
「ッ! ここから離れろッ!あとは今伝えた通りにやれッ!」
チーターの動作を見たスレイヤーは会話を中断し、2人は岩陰から飛び出したッ!
それとほぼ同時に、チーターは空へと爆弾矢を放つッ! 勢い良く打ち上がった矢は徐々に推進力を失って失速し、今度は重力に引かれて落下! 落ちる先は先程まで2人が隠れていた岩の裏だ! 爆弾矢が地面に激突し、岩ごとその周囲を吹っ飛ばすッ!
「あっぶなッ! ってうわッ!またエモートがッ」
その隙にチーターが2人の方へと接近。スレイヤーよりチーターに近かったタクマが、再びチートの効果範囲に入ってしまいムーンウォークをし始める。
「タクマ!お前は下がってろッ!」
タクマを引かせ、入れ替わるようにスレイヤーがチーターへと駆けるッ!
「〈武装・1〉ッ!」
スレイヤーはスキルを使い、金棒を取り出す。次にポーチから投げナイフを取り出し、
「フんッ!!」
それを投擲ッ! が、
「馬鹿め、投擲のスキルも使わず100メートルも届くかよ」
チーターが言った通り、スレイヤーの投擲ではナイフの飛距離が足りず、5〜60メートル程の地点でナイフは地面に落下した。
しかしスレイヤーは気にせず、そのままチートの効果範囲に踏み込むッ!
チートの効果により、スレイヤーの行動はムーンウォークによる移動に制限される!
「クハハッ!逃げればいいものを!」
「逃げはせん。そして逃がしもせんッ お前のような連中をッ!!」
「ぬかせやッ!!」
チーターは爆弾矢を番え、スレイヤーを狙うッ!
「来いよ」
後ろ歩きでチーターへゆっくり接近しつつ、スレイヤーはチーターの動きに目を凝らす。
――バシュンッ!!――
そしてチーターの弓から爆弾矢が放たれたッ!
スレイヤーはそれを、仰向けに寝っ転がるエモートで回避ッ! 爆弾矢が地面に激突し爆発ッ!!
「いつまでそうしてられるかなッ!」
チーターも、スレイヤーに矢を当てるのは簡単ではないと既に理解していた。冷静に次の爆発矢を番えて、放とうとした――――その時ッ!!
スレイヤーの頭上から彼に向かって、何かが落下していることに気が付いたッ!
(あれは・・・さっき奴が投げたナイフか!?)
その正体はスレイヤーが投擲したが、飛距離が足りず地面に落ちたナイフだッ!
そんな物がなぜ空中に? 答えは単純ッ!
(俺の爆弾矢かッ!)
チーターの放った矢の爆発により、ちょうどその位置に落ちていたナイフが爆風によって上空へと打ち上げられたのだッ!
当然偶然ではない、スレイヤーが矢の軌道を予測し、爆弾矢がナイフに当たるよう誘導したのだッ! 何という予測力ッ! そしてその予測を実現させる正確な判断力ッ行動力ッ!!
「だが、それで何が出来ると――――」
スレイヤーは強制エモートの影響下ッ! ナイフが近くにあろうとも、出来ることはの何も無いッ!
と、チーターは次の矢を番えた。しかし、その判断は迂闊と言わざるを得なかったッ!!
「エモート13番ッ!」
ナイフの落下を確認したスレイヤーが、新たなエモートを発動させるッ!!
ムーンウォークが終わり、繰り出されたりは『ヘッドスピン』ッ!!
頭を地に着け逆立ちしたスレイヤーが、コマの如くの高速で回転し始めたのだッ!!
「あ?」
その突然の行動に、思わずそんな声が漏れた。次の瞬間ッ!
――ガキンッ!!――
スレイヤーが持っていた金棒。持ち主が回転しているので、当然彼の手に握られている金棒も高速で振り回されている。そしてそんな彼へと落下するナイフ。
点と点がビタリと重なり、ナイフはバットに打たれる野球ボールのように弾き飛ばされたのだッ!!
「ッ!?」
打ち飛ばされたナイフがチーターへと迫り、奴の左脚へと突き刺さったッ!!
「タクマがチートの影響を受けた時、手に持ってた大杖はそのままだったんでな。本来エモート中なら、装備中の武器は消える。チートで無理矢理エモートさせられてるならもしかしてと思ったが、ビンゴだッ!」
「チッ!」
『脚部負傷』状態になったチーターは左膝を地に付く! これでチーターの移動速度は格段に落ちた。その速度はムーンウォークで移動するスレイヤー以下だッ!
しかし!
「機動力を奪った程度で、俺に勝てると思ったのか?」
チーターは弓矢を構え、矢を放つッ! 爆弾矢ではなく通常の矢だが、
「〈念力矢〉ッ!」
突如、スレイヤーへと向かっていた矢がビタリと空中で静止したッ!!
「!」
「クハハハハッ!」
そしてチーターが指をクイッと動かした瞬間、それと動機したように矢が動き出すッ! その軌道はまるで飛行するトンボのようで、空中で急加速、急停止、ホバリングを繰り返しながらスレイヤーへと襲い掛かったッ!
「くっ!」
スレイヤーはバク宙や側転などのエモートを駆使しこれを回避ッ! しかしこのスキルは本体が無防備になる変わりに、矢が何かにぶつかるか破壊か、使用者のスタミナが切れるまでスレイヤーを襲い続けるッ!
そしてエモートしか使えないスレイヤーの動きは単調であり、徐々に矢がスレイヤーを捕らえ始め、回避が追い付かなくなってくる!
「ヌゥッ!」
「死にやがれやッ!!」
そしてチーターはスタミナを一気に消費し、矢の弾速を上げるッ!! そして矢はまるで吸い込まれるようにしてスレイヤーの頭部へと迫ったッ! そして!
「今だッ!!」
スレイヤーが声を張り上げるッ!
「ッ!?」
スレイヤーの発言に嫌な予感を覚えたチーターは顔を上げ、周囲の状況を確認。そして視界に入ったのは、
「〈魔突射〉ッ!!」
チートの効果範囲外で、初級魔法最大の火力を持つ〈魔突射〉を放つ準備を完了させたタクマの姿だったッ!!
(避けッ・・・いや落ち着け、この距離じゃあの魔法が俺に届くことは―――)
「〈武装・6〉ッ!!」
チーターが目を離している隙に、スレイヤーはエモート終了と再発動の合間を縫ってスキルを発動ッ! 彼の手に大盾が現れるッ!
「発射ァアアッ!!!」
その直後、タクマが〈魔突射〉を撃ち放ったッ!! その魔法が向かう先はッ!!
「ッ!? なぜ奴をッ!?」
〈魔突射〉が突き進む先にいるのは、チートスレイヤーその人であるッ!!
「来ぉおいッ!!!」
そして高い貫通力を持つその魔法を、チートスレイヤーは踊るエモートをしながら盾で受け止めたッ!!
しかし盾に防御判定はあるものの、盾を持つ本体は踊っていて防御体勢ではない。そこに貫通に特化した魔法がブチ当たる事によりッ!!!
――ドガァッ!!!――
チートスレイヤーは、盾ごと〈魔突射〉によって突き飛ばされ、吹っ飛ばされたッ!!
「なにッ!?」
吹っ飛んだ先にいるのは、チーターだッ! 吹っ飛び中は攻撃を受けた判定により、強制エモートチートも無効化されたのだッ! ムーンウォークより圧倒的に速い移動ッ!!
「攻撃受ければ、エモートは解除されるからなッ!!」
「くぅッ!!」
迫り来るチートスレイヤーッ! それに恐怖を覚えたチーターは逃げようとするが、ナイフの突き刺さった脚ではそれもままならないッ!!
「再度お前のチートが俺に適用されるのは俺のダメージモーションが終わった時! つまり俺が地面に着地するまで、俺は自由に動けるッ!!」
スレイヤーを盾と共に押し出していた〈魔突射〉がその効力を失い消滅、だが吹っ飛ばされた事による推進力はまだ消えないッ!
遂にスレイヤーはチーターへと追い付いたッ!!
そしてその大盾を扇ぐかのよくに振り上げるッ!!
「チィッ!!」
チーターが爆弾矢を番えて、チートスレイヤーを狙うッ!!
「死ねクズめぇッ!!!」
チートスレイヤーは壁のような大盾を全力を込めて振り下ろしたッ!!!
――ボガアッ!!!――
巨大な盾と爆弾矢が激突し、チーターとスレイヤーは爆炎に飲み込まれたッ!!
「スレイヤーさんッ!?」
接近しないよう命じられていたが、スレイヤーを巻き込んだ爆発を見てタクマは思わずモクモクと立ち込める爆煙へと駆け寄った。
そしてそこでようやく気が付いた。エモートが強制発動されていない!
「ッ! スレイヤーさん!!」
「ああ、終わったぞ」
そして爆発の黒煙を振り払い、スレイヤーが姿を現したッ!!
「うっわ!!流石っすスレイヤーさんッ!!」
「いや、お前のお陰だ。助かったよ」
「・・・ならぁ〜・・・弟子入りッ!させて貰えますか!」
「・・・・・・そんな良いもんじゃないぞ?」
「いいんっよぉ、スレイヤーさんの戦い方、是非見せてほしいんっすよッ!」
「そうかい・・・・・・分かったよ、フレンド申請してやるから気が向いたら会いに来い」
「ホントっすか!! よっしゃぁ!!」
おもちゃを得た子供のようにはしゃぐタクマを見て、スレイヤーは一つ溜息を付いた。しかしそれは、いつもチーターに向けているようなモノではなく、何とも穏やかなモノだったという。