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無限МP

МPが切れなくなるチート。

無制限に魔法などを使用できるようになるこのチートは、魔法という強力な能力をМPという制限をもって成り立たせているゲームにおいてそのバランスを容易く崩壊させる。

 とある村にある教会の扉が開き、中から黒い戦闘装束に身を包んだ男が現れる。その凛とした佇まいと無骨な防具、そして何とも形容し難い恐々とした雰囲気が、彼こそが『チートスレイヤー』その人であることを証明している。


 教会は、このゲームにおけるチェックポイントや休憩地点のような物だ。死んだら最後に訪れた教会にリスポーン地点になったり、アイテムの預け入れなどが出来る、このゲームには無くてはならない存在なのだ。


 昨晩この教会でゲームを終了したチートスレイヤーは、今日もログインを済ませて自身のステータスに異常がない事を確認する。

 連日フィールド中を駆け回り、人間のクズ(チーター)を探し回っている彼。今日も今日とて、そのターゲット探しの旅が始まろうとしているのだ。



「よし」


 準備が完了し、歩き出そうとしたその時、


「・・・・・?」


 視界の端に妙な物が映り込んだことを察知する。


 ここから走って数分程度で到着するほどの地点にある森。そこから立ち昇っている黒い煙だ。それも少し焚き火をしたりした時に出る量ではない。森上空を覆い尽くさんとする程の量だ。


「・・・・・猛者プレイヤー同士の戦闘か?」


 高い実力を持つプレイヤー同士が打つかり合い、炎系の技を出し合って戦闘をくり広げているのであればあり得なくもない光景だ。

 だが、ここはゲーム開始から1時間もプレイすれば到達するような、初期フィールドだ。そんな猛者が集って戦っているとは思えない。


 そんな風に考えていると、


――バタンッ!――


 チートスレイヤーの後方で、教会の扉が開かれた。

 振り返るとそこには、死んで全てをロストした時に与えられる初期装備以下の衣服を身に着けた男プレイヤー。

 どうやら近くで倒され、ここでリスポーンしたらしい。しかし、様子が変だ。


「っクソが!何なんだよマジで!!運営は寝てんのかよッ!」


 かなり憤っている。そしてその発言からして、チートスレイヤーは一つの可能性を考える。


「Cか?」


 そうつまり、彼はチーターに殺されたのではないかという事だ。


「ぁあ?」


 未だ怒りが収まらぬようで、荒い声が返された。


「チーターにヤラれたか、と聞いている」


「ッ・・・」


 しかし、そんな彼もチートスレイヤーの狂気的なチーターへの憎悪に気圧され、逆立てていた気を収めた。


「そうだよッ!あの野郎炎の球をボカボカ撃って来やがって!絶対Cだ!あんな戦法できるなら皆やってる!!」


「そうか。どこだ?」


「え?お前会いに行くのか?ああいう奴は説教とか聞いてくれねえぞ?」


「説法など説くつもりはない。そういう馬鹿は一度でも二度でも殴り付けて教えるものだ」


「そ、そうかよ・・・・・チーターがいたのはあそこだよ」


 男が指差した先は、黒煙をモクモクと上げる例の森だった。


「そうか。・・・分かった、向かうとしよう」


 本日一発目の粛清だ。

 チートスレイヤーは脚を踏み出した!








「んー!気分爽快ッ!」


 黒煙を上げる森の中。燃え盛る木々を眺めながらそう呟き、地面に転がるアイテムを収集する者が1人。

 このアイテムは恐らく、先ほどチーターに倒された男の所持品だろう。


 つまりコイツこそ、森を焼いたチーター張本人だ。


「ここは、ビギナーのプレイヤーがレベル上げやアイテム採取の為、頻繁に訪れる森だ」


「あ?」


 突如声が響き、チーターが振り返る。

 そこに立つのは『チートスレイヤー』その人だ。


「この森を焼けば、多くの新規勢が苦労する事になる。それを分かっての事か?」


「ハハッ、知らないねそんな事。それに、どうせすぐにやめるかも分からん初心者なんぞより、長年このゲームをやって来た俺の幸福の方が、このゲームその物にとっても何倍も価値があるだろ?」


「・・・・・長年プレイしておきながら、チートなんぞに手を出したか・・・貴様のような性根の腐った奴に楽しまれる程度なら、サ終してしまえとゲームその物も思っている事だろうさ」


 チートスレイヤーはそう断言し、チーター目掛けて駆け出した!


「バカが!〈火炎球(ファイアボール)〉!」


 チーターは着弾点で爆発する火炎の球を撃ち放った! この魔法はそこそこ魔法系にステータスを振っていないと使用できない。どうやらコイツは魔法特化らしい。


「フッ!!」


 しかし、それでも下級の魔法。最高レベルのプレイヤーであるチートスレイヤーからすれば回避など造作もない。

 火球を避ければ、後方で爆音と閃光が広がった。


 両者の距離は凡そあと100メートル! チートスレイヤーの脚力ならばあと数秒で詰められる!

 しかし、スレイヤーは油断をしない。相手はチーター。どんな手を繰り出すか未知数だ。


 そしてその過剰なまでの警戒は報われる事となる。


「〈炎放(フレイム)〉!」


 チーターの手から火炎が噴き出される!

 しかしこれは火炎系魔法の代表とも言えるシンプルな魔法。効果はМPを消費し火炎を放つ。それだけだ。


「フンッ!!」


 チートスレイヤーはまるで猫のような俊敏さで進行方向を変える!

 全力疾走していたスレイヤーは、カクンッと音が鳴りそうなほど直角に軌道を変え火炎を回避する。


 再び軌道を修正し、チーターに接近しようとするスレイヤーだったが、


「燃えろぉ!!」


「!!」


 チーターの放った火炎は止まること無く、スレイヤーへと放たれ続けた!


 手から火炎を放出し続ける相手に接近するなど、自ら燃え滾る焚き木に羽虫が飛び込もうとするようなもの! 無謀!


 スレイヤーもそれを理解している。故に跳び退き、一旦〈炎放〉の射程外へと跳び出た。


「・・・・・〈炎放〉はボタンを押すと発動し、ボタンを押し続けている限り、МPが切れるまで火炎を放出し続ける魔法のはず・・・しかしМPの消費速度が早く、一般プレイヤーならば1〜3秒程度しか火炎は放てない・・・」


 それが、長年『ブレイブハンターズ』をプレイしているチートスレイヤーの知識。

 つまりその法則を無視している相手のチートは、


「無限МPか」


 МP切れを起こす事がなくなるのチート。

 それがあれば、МPの消費を気にせず〈炎放〉を放ち続けられる。


 そして調子に乗ったチーターは、すぐに答え合わせをしてくれた。


「その通りだ。俺のМPは底を尽きる事がない。つまりこんな事だって―――」


 そう言ってニヤリと笑ったチーターの周囲に、無数の魔法陣が描かれる。魔法の多重発動か。

 相当な腕前のプレイヤーでなければ出せぬ量だ。このプレイヤーにそんな力量があるとは思えない。当然チートの力だ。


「―――でるのさ!!〈火炎球〉!!」


 チーターはその魔法を、まるで自分自身の力だと言わんばかりに撃ち放った!!

 幾つもの炎の球がスレイヤーへと迫る!


「ヌんッ!!」


 スレイヤーは駆け出し、それらを全て回避する!

 しかしチーターは止まらず、ボカボカと〈火炎球〉を撃ち続けて来る!! まるで絨毯爆撃!!


 スレイヤーはその爆撃を何とか避けつつ、チーター本体へと接近を試みるが、


「〈炎放〉ッ!!」


 接近しようとすると、チーターから火炎放射がお見舞いされる!

 無限に放たれた続ける火炎を前にスレイヤーでさえ近付くことは出来ない!!


 そして!!


「ヌゥっ!!」


 離れれば爆撃、近寄れば火炎放射の二段構え戦法を前に、ついにスレイヤーを火炎が捉えた!!


 スレイヤーの体に火が着き、解除されるまで持続ダメージを食らう『炎上』の異常状態へと追い込まれる!!


「チッ!」


 スレイヤーは腰のポーチに手を突っ込み、中から小瓶のようなアイテムを取り出す。

 そしてそれを自分の体に叩き付けて砕いた。すると中から液体が飛び散り、スレイヤーの体に着いた炎を消火した。

 使われたプレイヤーを『水濡れ』の状態へと変化させるアイテム、『水入り瓶』だ。水濡れ状態となれば炎上状態は解除される。


「シッ!!」


 スレイヤーは跳躍し、近くにあった岩の裏に隠れて一旦チーターの攻撃をやり過ごしながら息を整える。


「隠れても無駄だぞぉ!!」


 チーターは至極楽しそうに言葉を発し、岩陰に隠れるスレイヤーを狙えるように回り込む。


 そしてスレイヤーの姿が見えた! 〈火炎球〉を放とうとした、その時!!


 スレイヤーが何かを投擲!!


「うっ!」


――パリンッ!!―― 


 チーターの体に当たった投擲物は砕ける。

 どうやら今のは・・・・・


「水入り瓶?」


 先程もスレイヤーが使った、水濡れ状態を引き起こすアイテムだ。


「・・・確かに、水濡れ状態では炎系の技の効果が少し下がる・・・が、それは微々たる物だ!!」


 チーターはそんな程度の事は気にしないとばかりに、再び〈火炎球〉を乱れ撃つ!!


「ハッッ!!」


 スレイヤーは岩陰を飛び出し、更に瓶を投擲!!


 2個目3個目の瓶がチーターに当たるが、瓶が当たる事によるダメージは無いし、水濡れの異常状態は重複したりしない。

 つまりこれは、単なる悪足掻きだと捉えるのが普通だ。チーターもそう判断した。


「小癪な!煩わしいぞ!大人しく焼けろ!!」


 そう叫び、再び〈炎放〉を撃とうとした!その時!!

 チョンッと一瞬、足元で燃える草にチーターの足が触れた。


 次の瞬間ッ!!


――ゴォォッ!!――


「ギャッ!??」


 突如!チーターの体に火が広がり、『炎上』の異常状態がついた!! 


 

 しかしあり得ない事だ! 確かに、足元に生える草花は炎系の攻撃を受けると炎上し、それに触れると炎上状態となってしまう。

 しかしそれは、同じ火元に最低でも5秒以上触れた場合に発生する現象だ! 一瞬足先が触れた程度でなったりはしない!

 ・・・普通ならば。



「なんだ!?どういう事だ!!何が起きた!!」


「馬鹿め」


 慌てるチーターを見て、スレイヤーはさも当然の事かのように呟いた。


「き、貴様ぁ!!何をした!!」


「まだ気付かないのか?」


「気付かない?・・・―――ッ!!」


 チーターが自身のHPを確認する。

 するとHPバーの上に、火のマークと、黒い雫のマークが着いていることに気が付いた。

 火のマークは、今コイツが炎上状態にあることを示している。ならば黒い雫のマークはというと・・・



「油濡れ状態!?」


「気付くのが遅過ぎるな」


 『油濡れ』の異常状態。それは、可燃性の液体に触れた際発生する異常状態であり、炎上状態の発生速度短縮、持続ダメージ増加、発生時間増加、その3つの効果を齎す異常状態だ。


「い、いつの間に!!」


「俺がさっき投げた瓶。全てが水入り瓶だと思ったか?」


「なに!?」


「まあ瓶の外見は同じだし、違いは液体の色程度故に気付き難いが・・・小まめなHPМPのチェックを行わないチーターでなければ、もっと早く気付いていただろうな」


「くっ!!おのれぇ!!」


 チーターは突如、その場でローリング回避を連発!!

 地面に身体を擦り付ける事によるに消火行動だ! 実際これによって炎上状態は素早く解除される。


 が、そんな事を許すチートスレイヤーではない!!


 すぐ傍に落ちていた『木の枝』を拾い上げる!

 このゲーム最弱とも呼ばれる武器アイテムだ。だがこれは当然なかがら木製ッ! 炎が飛び交っていた森に落ちていた故、既に燃えている!


 それを、


「フンんッッ!!!」


 投擲ッ!!


 消火を終えたチーターの体に直撃!!

 ローリング回避を繰り返しても『油濡れ』の状態は解除されない!!

 つまり、再び炎上ッ!!


「なっ!?」


「諦めるんだなクズ野郎」


「くっ!!クソがぁぁぁああああッ!!!」


 チーター! 執念のローリング回避ッッ!!

 転がる!転がる!! 地面をゴロゴロゴロゴロと! 敵前でありながら惨めに地へ身体を擦り付ける!!


 その甲斐あって、何とか消火!!

 顔を上げる! そこには、


「ヌゥんんッッ!!!」


 チートスレイヤーの膝が、眼前に!!


――ドゴォッ!!!――


「がっ!!」


 スレイヤーの膝蹴りが、顔面に直撃ッ!!

 生身の打撃ゆえ殺傷力が低く、何とか生還ッ!!


 しかし!! 頭に強烈な打撃を受けた事により『脳震盪』の異常状態が発症!!


「ぐぅうっ!?!」


 視界が万華鏡の如く歪み、足元は覚束ない!!

 あらゆる行動は不可!!


「ぬぁぁぁああああ!!!!」


 しかしチーターはまだ足掻く!!

 脳震盪を解くべく、執念のッ! ボタン連打ッ!!!



 しかし、



「醜い悪足掻きだ。チートなんぞに手を染めておきながら、よくそんな醜態を晒せるものだな…!」


 チーターの連打よりもスレイヤーが速いッ!!


 手をまるで弓矢のように引き絞るッ!!


 そして繰り出したるは―――


「チーターは、皆殺しッ!!」


 ―――強烈強力な、掌打のスキル!!


「〈壊牙(かいが)〉ァ!!!」


 チーターの胴体へと、それが叩き込まれるッ!!


「ぐぉぉおおおおおっッ!!!」


 チーターはまるで蹴られたサッカーボールが如く吹っ飛ぶ!!


 そして勢いよく炎上する大樹へ、激突ッッ!! その身が再び炎上ッ!!


 『炎上』『油濡れ』『脳震盪』、これらの異常状態が重なり動けないチーターの身体を、ジリジリと炎が焼き焦がす!


 チーターは無惨にも、自ら放った炎により、HPをジワジワと削られるッ、そして!


 体が完全に黒く焦げ、崩れる!!



 無事、消滅ッッッ!!!



「チーター共は・・・皆殺しッ…!」


 そうもう一度呟き、チートスレイヤーは拳を強く握り締めたのであったッ!!





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