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異常状態付与

体が燃えたり毒になったりなどの異常状態を相手に付与するチート。このゲームでは全ての異常状態に完全な耐性を得ることは不可能であり、否応無しにHPを削られる事となるだろう。いったいどんな仕組みで作動しているのか。

「何?2人殺られた?チーター狩りにか?」


 とある夜。非戦闘エリアである教会の中でとあるプレイヤーが誰かと通話をしていた。


「全員集める?……おいおいビビってんのかよ」


 プレイヤーは座っていた長椅子から立ち上がり、教会の出入り口へと歩きながら通話を続ける。


「俺達は最強じゃなきゃならない。そうだろ?……安心しな」


 出口へ近付くと、ステンドガラスから教会内へと差し込む月明かりがプレイヤーを照らした。


「俺が殺してやるからよ」


 そう言って「パチン」と指を鳴らした瞬間、非戦闘エリアであるはずの教会は突如として炎に包まれたッ!


 燃え盛る教会をバックにニヤリと笑うそのプレイヤーの首には、豹柄のスカーフが巻かれていた。







 猟豹六人衆を名乗るチーター集団を探し始めて3日が過ぎた頃、とある情報がチートスレイヤー御一行の耳に入った。


「あのジャングルが燃えただと?」


「はい、この前透明な魔物を従えてたチーターを倒したあのジャングルです!」


 街の酒場でバフ効果のある食事を食べていたスレイヤー御一行。

 タクマが自身のチャンネルに送られてきたその情報を嬉々としてスレイヤーに伝えていた。


「燃えるって…ジャングル全体がってこと?確かに炎系の魔法とかを使えば木々は燃やせるけど……全体を燃やし尽くすなんて無理でしょ?MP足りないし、時間経過で木も草も再生するし」


 サラは信じられないとようだが、スレイヤーは違ったらしい。


「……普通は無理だ…が、相手がチーターならば別だ。確か猟豹六人衆に襲われたプレイヤー達の証言に『突然異常状態になった』というのがあったな」


「……森全体を炎上状態にしたってこと?」


「そうだとしたら、どんだけ高額なチートっすか!」


「まぁ、あの広大な森全体が効果範囲だとは思えないが、かなりの広範囲に作用するチートなのは事実だろう。……調べるぞ」


 スレイヤーはすぐに食事を取り、席を立ち上がった。







 数十分後、スレイヤー、タクマ、サラの3人は再びあのジャンクルに到着したのだが、


「………ここ本当にジャングルがあったっけ?」


 サラの発言を誰も否定しない。

 なぜなら、全長100メートル近い巨木が乱立していたはずのジャングルが、すっかり焼け焦げた荒野になっていたのだから。


「これは想定以上だな。俺も耐火の防具を着てくるべきだったか……」


 そう言いながらスレイヤーはチラリとタクマを見た。


「あ!これ返しましょうか!?」


「いやいい。その防具は耐火に優れるが、それ以外の性能ははこの防具の方が良いからな。相手が炎以外の攻撃法を心得ていた場合その装備だとまずい」


「な、なるほど」


 現在タクマは、いつも着ている魔術士用の軽量防具ではなく濃い橙色をしたまるで防火服のような全身鎧を身に着けている。これはスレイヤーがタクマに貸した物で、高い炎耐性を持つという。


「じゃあ、耐火装備も着ていることだし、さきがけは任せたよタクマ君〜!」


「りょ、了解っす…」


 この前とは違いタクマが先頭を歩き、残りの2人が彼に続く隊列で一行は燃え尽きたジャングルの中へと入って行った。


「ひぇー……来るなぁ来るなよぉ……」


「タクマ君ちゃっちゃと歩いてよ〜」


「こっちの気も知らないで!!」


「ゆっくりでいいから真っすぐ歩いてくれ…」


 そんな会話をしながらしばらく歩を進めた3人は、地平線の端に陣取る何かを捉えた。


「?」


「なにか……いますかアレ?」


「何かに座っているようだな………豹柄のスカーフが見える」


 視力のいいスレイヤーは、かなり先にいる存在の首に豹柄スカーフが巻かれていることを見抜いた。


「え!? チーター!?」


「……こっちを見ていやがる…誘っているな」


「ど、どうするのよ!」


「行くしかないだろ。録画するなら始めておけ」


「は、はい!」


 3人は覚悟を決め、タクマを先頭にしてチーターへと接近する。


 スレイヤーが先制攻撃を仕掛けるべきか否かを考えながら近付くと、チーターの方から口を開いた。


「よぉチーターハンター御一行。俺の仲間が世話になったようだな」


 首に豹柄スカーフを巻くこの男プレイヤー。両腕には盾を装備し、なんと四つん這いになったプレイヤーの背に腰を下ろしていた。


「……そいつは仲間か?」


「まさか。こんなプライドも恥もないような奴を仲間にするわけねえだろ」


 そういうとチーターは椅子にしているプレイヤーの頭をビシビシ叩くが、椅子にされているプレイヤーは何も言わずに俯いている。


 するとチーターは立ち上がり、再び口を開いた。


「さて、俺はお前等を倒す必要があるんでな。殺させてもらうぞ」


「馬鹿め。こんな大胆に暴れておいて自分がBANされないと思っているのか?」


「そうよ。プレイヤーの監視をAIに一任してる運営でも流石に気付くわ。アンタは明日にでも消される」


「そ、そうだそうだ!」


「別に俺はそれでも構わねぇ。生憎高レベル帯のアカウントはサブで幾つも持ってるんでね。このアカウントも本垢じゃねぇし、BANされたところで大した問題じゃねえんだよ。……それに、アカウント一つ消されるリスクを負ってでも、お前は殺せと言われてる」


「……言われてる?……誰からだ」


「……喋りすぎたな………おい、もう行っていいぞ」


 そう言ってチーターが椅子にしていたプレイヤーを蹴ると、そのプレイヤーはすぐに立ち上がって一目散に逃げ出した!


 が、


「さっさと死ね」



――パチン――



 チーターがプレイヤーに手を向けて指を鳴らした瞬間、



――ボォッ!!――



 突如プレイヤーの身体を炎が包み込んだッ!!


「うぁ!?が、うぁあああ!!!」


 プレイヤーはゴロゴロと地面を転がるも火が消える気配はなく、僅か中秒ほど経つとそのプレイヤーは黒焦げになって死んでしまった。


「!」


「さて、やろうかぁ?」


 チーターは焼き殺したプレイヤーの事などいなかったかのように振り返り、スレイヤー達へと手を向ける!


「タクマッ!」


「はい!!」


 奴が指を鳴らすより速くタクマがチーターの前に立ち塞がり、スレイヤーとサラを守る体勢に入ったッ!!



――パチンッ――



 そして指が鳴る。次の瞬間ッ!!



――ボォッ!!――



 タクマとスレイヤーの身体を炎が包み込んだッ!!


「チッ!」


 スレイヤーは素早くポーチから水入り瓶を取り出して中の水を自分に掛ける!

 しかしッ!



――ジュウウウウゥゥ!!――



「なにッ?」


 身体に掛けられた水はすぐさま蒸発し、スレイヤーの炎上状態は維持されたッ!


「くッ!!」


 スレイヤーは急いでその場から跳び退くッ!!


「スレイヤー!!」


 10メートルほど後退したスレイヤーへとサラが水入り瓶を投げ付け、スレイヤーが水濡れ状態になることで彼の身体に着いた火は掻き消えた。


「大丈夫!?なんでアンタの瓶の水消えたの!?」


「……………」


 一方タクマは、


「うぉお!全然熱くない!!」


 身体に火が着いていながら、耐火の防具の効果で炎上によるダメージを無効化していた!!


「耐火の装備か……」


「へへッ!これなら怖い物無しだ!!」


 タクマは手の先に魔法陣を展開し、攻撃魔法を放ったッ!!


「〈魔矢(マジックアロー)〉ッ!!」


 魔力で作られた矢がチーターへと迫るが、


「低位魔法…チーターだからと舐められたもんだなッ!!」


 チーターは容易くその魔法を盾で弾き返すッ!


「うぐッ、こんな魔法じゃ流石にダメか…」


「それに、火が効かないなら別のやりようがあるんだよ!」


 チーターは再び手をタクマに向けて指を鳴らしたッ!!


――パチンッ――


 すると、


「ん?………痛!?痛たたたッ!!毒!毒ドクどくッ!!」


 突如タクマは毒状態に陥り、HPがジワジワと減り始めたッ!!


「げ、解毒解毒!!」


 タクマはポーチから解毒薬を取り出して使おうとするが、


「待てッ!!」


 スレイヤーが彼を呼び止め、スキルを発動するッ!!


「〈武装・(フォース)〉」


 スレイヤーは手元に金属製の鞭を召喚した!!本来鞭は技巧のステータスが高くなければ使えない武器種であり、筋力などに特化しているスレイヤーでは扱えない。が、この鞭は重たい代わりに筋力で使用が可能なレア武器ッ!!


「フンッ!」


 スレイヤーが腕を大きく振るうと、鞭はまるで獲物を捕らえるヘビの如くタクマの脚に巻き付いたッ!!


「セェイッ!!!」


 そしてスレイヤーが思い切り鞭を引っ張ると、その先端が脚に絡みつくタクマも一緒に引っ張られて宙を舞ったッ!


「うわぁあああ!!?」


「サラ!受け止めろ!!」


「ぇえ!?」


 タクマのプレイスキルで上手く着地できるはずもなく、顔から地面へと落下して来る!


「どりゃぁあ!!」

「ぐぇッ!?」


 咄嗟にサラがクッションとなる事で落下ダメージを軽減した!!

 間髪入れずにスレイヤーが解毒薬を取り出してタクマに掛け、彼に付与された毒状態を解除する!


「ひゃぁぁ、ありがとうございますスレイヤーさん!」


「私にも感謝しろや!」


 一先ず危機を乗り越えたが、


「おいどこ見てんだよ!!」


 チーターは未だ健在! スレイヤー達へと向かって来たッ!!


「シッ!」


――ヒュンッ!!――


 スレイヤーがナイフを投擲ッ! チーターは両手の盾でそれを防ぐ!

 スレイヤーの扱っている「性能は低いが沢山所持できる」ことが特徴の低レアなナイフで奴の動きを止めることは難しそうだ。

 だがそうならば別の手を使うまで。


「サラ! 撃ちまくれッ!」


「!! 了解ッ!!」


 スレイヤーの指示を聞いて、魔導弓使いのサラは魔法の矢を生成して弓に番える。


 魔導弓とは、通常の弓と異なり射撃時に消費アイテムである矢を必要としないことが特徴的な武器種。その代わりに射撃にはMPを消費する。

 またある程度敵を自動追尾するためエイム力をあまり必要としないが、通常の弓矢より威力が低い。

 このゲームに置いては初心者にオススメとされる武器である。


「撃ちまくるよぉ!!」


 サラは魔法の矢を引き絞り、魔導弓のスキルを発動させる!!


「〈ラピッドアロー〉!!」



――シュドドドドドドドドドッ!!――



 青い矢型の光が無数に放たれ、チーターへと襲い掛かるッ!! サラの習得しているスキルの中で、最も連射性能に優れた技!!

 だが、


「遠距離攻撃。まぁ近付けないとなるとそう来るだろう。…俺が対策してないと思ったかッ!!」


 そう言うとチーターは地面を殴るッ!


「〈反射球光壁はんしゃきゅうこうへき〉ッ!!」


 チーターの周りをドーム状の半透明な壁が包み込む!! 飛んで来た遠距離攻撃を反射して相手に撃ち返すカウンタースキルを発動させたのだッ!!



――ドガガガガガガガガガッッ!!!――



「うっそぉ!?」


 サラが放った魔法の矢の群れが全てサラへと返って来たッ!!


「〈武装・(シクスス)〉ッ!」


 しかしギリギリのところでスレイヤーがサラの前に飛び出し、大盾をズシンと地面に置いて構えたッ!!



――ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴオォォッッ!!!――



 無数の魔法矢がスレイヤーの盾とその周囲に激突し、燃やされたジャンクルの地面に堆積していた煤が舞い上がって黒い煙がスレイヤー達の周辺を包み込む。


「すげぇ煙だなこりゃ………なにも見えねぇぜ………」


 煙に紛れての不意打ちを警戒したチーターは煙が晴れるかスレイヤー達が仕掛けてくるまで煙の外で待機を決断。その場にしゃがみ込んでジッと煙を見つめ出した。


 その頃煙の中では、


「………サラ、撃ちまくれとは言ったがスキルを使えとは言ってないぞ」


「いや使うなとも言われてないわよ!」


「チーターだって腐ってもプレイヤーだ。弱点を補うスキルの1つや2つ習得しているものだぞ」


「知らないわよ!」


「スレイヤーさん!毒と落下で受けたダメージ回復できました!」


「よし、じゃあ情報整理だ」


 3人はスレイヤーの盾の後ろにスッポリと隠れつつ集まって話し合いを始めた。


「まず、奴のチートの発動条件は恐らく手を翳すことだ。指を鳴らす必要があるかは不明。次に効果範囲だが、最初タクマと俺は炎上したが、俺より後ろにいたサラは燃えなかった。大凡10〜15メートルが効果範囲だろう。そして奴の扱える異常状態だが、恐らく毒、炎上、熱暑、凍寒、この4つだけだ」


「? なんでそんな事が分かるのよ」


「理由は2つ。まず他の異常状態も扱えるならとっくに使っているはずだ。相手の脚を使えなくにする『脚部負傷』や敵を毒殺できる『猛毒状態』、視界を潰す『視認阻害』なんかを使えばもっと手早く俺達を始末できるはずだ。あれだけ俺を殺したいと思っていながらこれらを使わないのは、使えないからだと判断していいだろう…本当は使えるとしたらどっちにしろお手上げだ」


「……マジっすか」


「2つ目の理由。…奴の炎上の効果範囲にいた時、水による消火が出来なかった」


「確かにあれは変だと思ったけど、なんでそれが理由になるのよ」


「炎上状態になっても水で消火できない状況がこのゲーム内にはある。どんな時か分かるか?」


「え?…う〜ん………バグ?」


 タクマが自信なさ気に応えるが、はやり間違いらしくスレイヤーが訂正する。


「特殊な環境フィールドにいる時だ」


「あ! そういえば、火山の中にいる時とかは水を使っても蒸発して使えないんだっけ?」


「そうだ。恐らくアイツの使うチートは、指定した範囲に特殊環境の効果を付与するチート。『環境変化チート』だ。そしてこのゲームにある環境によって掛かる異常状態は、毒と炎上と熱暑、そして凍寒の4つだけだ」


 毒は毒草だけらの森などに行った際に付与され、炎上は火山地帯、熱暑は砂漠などで付与される。この3つはいずれも時間経過でHPを削る効果がある。そして凍寒は雪山などで付与され、プレイヤーの移動速度を低下させる効果を持つ異常状態だ。

 ちなみに炎上と熱暑と凍寒は、いずれも同時に付与されることはない。


「なるほど!流石っすスレイヤーさん!」


「……で、どうやって倒すのアイツ?」


 サラの一言に、少しの間静寂が流れる。


「……確かに、遠距離攻撃が返されるんじゃどっちにしろ攻撃のしようがないっすよね」


「…………もうすぐ煙が晴れそうだな」


 少し考えた後、スレイヤーは立ち上がって大盾を持ち上げ、


「サラ、さっきのスキルはまだ使えるか?」


「え?えぇまあ……」


「よし。煙が晴れたらアレをまた撃て」


「は!? また跳ね返されて終わりだって!」


「とにかく俺が仕掛けるまで撃ち続けろ」


 周囲の煙が薄くなって来ているのを悟ったスレイヤーは、2人に手早く行動を指示する。


「タクマ」


「は、はい!」


「この盾を貸す。サラを守れ」


「え…えぇ?!」


 そう言うとスレイヤーは大盾をタクマに押し付け、煙の中を走って去って行ってしまった!


「えぇ……どうすんのよ…」


「……信じるしかないでしょ!…重ッ!」


 大盾を持ち上げたタクマだったが、スレイヤーのように軽々とは扱えそうにない。が、スレイヤーよ言葉を信じるしかないとタクマは覚悟を決めたッ!


 かくして周囲を包んでいた煙が霧散し、チーターとサラ達、お互いがお互いを視認した。


 次の瞬間ッ! チーターが2人に接近しようと駆け出す前に、サラのスキルが発動されたッ!!


「〈ラピッドアロー〉ッ!!」



――シュドドドドドドドドドッ!!!――



 再び魔法の矢が無数に放たれるッ!


「またそれかッ?」


 魔法の矢が雨のようにチーターへと飛来するが、チーターの周囲には先程展開した〈反射球光壁〉が未だに奴を守っている!



――ドガガガガガガガッッ!!――



 勿論サラの魔法矢は全て反射し、サラ達を襲うッ!


「ぎゃぁあああー!!!」



――ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴォオオッ!!!――



 タクマが大盾を構えてサラを何とか守り、彼の裏に隠れながら魔法の矢を撃ち続けるサラ。

 しかし防御性能の高い大盾でも、タクマのステータスでこの跳ね返ってくる矢の猛攻を防ぐには限界かある!


「くぅううう!!」


――ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!――


「あ、スタミナ切れそう!」


 タクマのスタミナがもう限界だ! スタミナが0になれば、盾を構えることが出来なくなってしまう!


「やっぱダメじゃん!撃つの一端止めるよ!」


「いや!スレイヤーさんを信じます!撃ち続けてくださいッ!!」


「はぁ!? ……あーもう!〈ラピッドアロー〉ッ!!」


 サラは半ば投げやりになって矢を連射し続けるッ!!


 周囲を爆煙が包み込んで相手が見えなくなっても、一心不乱に矢を撃ち続けたッ!!


 そんな様を球体のバリアの中から眺めるチーター。


「俺のスキルが切れるのを待ってるのか?……残念だが、このスキルは一度張れば5分はそのまま。あの女のMPが保つとは思えねぇがなぁ?」


 クックックッと笑いながらバリアの内側に陣取って反射される魔法矢を眺めながらそう呟くチーター。

 しかしその態度とは裏腹に、頭の中では色々と思考を巡らせていた。


|(……舞い上がった土煙のせいでアイツ等の姿が目視できないのは不安だな……こっちから仕掛けるべきか?……いや、相手はあのチートスレイヤー。強力なチートを使えるとはいえ過信は禁物。ここは我慢比べだな)


 サラのMP切れを待つことにしたチーターはバリアの中で腰を下ろし、煙の方を警戒していた。


 しかしその時、


――ザッザッザッザッ――


 と、足音が背後から迫って来ることに気が付いたッ!


「ッ!!」


 チーターが振り返ると、


「チートスレイヤーッ!!……か?」


 そこにはチーターに向かって走って来る1人のプレイヤーの姿ッ!

 しかし、その鎧の色はスレイヤーがいつも着ている鎧の色違いのようで、黒ではなく深緑のような色合いをしている!!


「あの女を囮に使った奇襲狙いだったか?残念だったな俺は戦場で背後を警戒しないようなド素人じゃねぇ!!」


 チーターは振り返り、スレイヤーへ指を鳴らすッ!


――パチンッ!――


 瞬間、スレイヤーの身体から緑色の泡がポコポコッと立ち昇り、彼が毒状態になったことを示した。が、


 スレイヤーは止まらず接近してくるッ!


「! さてはその鎧、毒耐性の防具か!」



 このゲームでは魔法やスキルの使用以外で戦闘中に装備の切り替えを行う事は不可能。スレイヤーのスキル〈変武〉の効果は所持している武器を切り替えることであって防具の切り替えはできない。

 ゆえにスレイヤーは一端戦場から離れ、戦闘状態を解除した上で防具を変更して来たのだッ!

 


「毒が効かねえならコッチだ!!」


 そう言ってチーターが再び指を鳴らす!


――シュボッ!――


 するとその瞬間スレイヤーの体が燃えだし、彼のHPをジワジワと削り始めたッ!


「ぬぁああッ!!」


 しかしそれでもスレイヤーの歩みは止まらず、チーターへと接近して奴の張ったドーム状のバリアの中へと踏み込んだッ!!

 チーターの張った〈反射球光壁〉は遠距離攻撃を弾き返すが、プレイヤーの接近を妨害する効果はない! チーターは目と鼻の先だッ!


 そしてスレイヤーはバリア内に踏み入ると同時にポーチから水入り瓶を取り出して水を自身に掛けるッ! すると身体を燃やしていた炎は消え去り、炎上状態は解除されたッ!!


「やはり、自身の近くにはチートを展開していないようだなッ!!」


「チッ!バレてたか!」


 指定範囲の環境を変化させるチート。つまり、チーター本人もその環境によるダメージは受けてしまう。ゆえにチーター本人の周囲には、チートによる異常状態付与の効果が発生しない!!


「〈壊牙〉ッ!!」


 そしてお得意の掌底打撃を繰り出すッ! が、


「〈鉄壁〉ッ!!」


 チーターは盾でスレイヤーの掌底を防ぐッ! 更に自身の防御力を瞬間的に上昇させるスキルを使用して、受けるダメージも消費スタミナも0にして見せたッ!!


「くッ!」


「残念だったな。俺はお調子者のそこらのチーターとは違う。近距離戦も、対策済みだぁッ!!」


 チーターは盾打撃を繰り出すッ!

 スレイヤーはこれを回避し、チーターの頭へと回し蹴りを叩き込むッ!


「〈鉄壁〉ぃッ!!」


――ガンッ!――


 再びチーターの防御スキル発動ッ! スレイヤーの回し蹴りを無効化してしまうッ!


|(スキル〈鉄壁〉の効果時間は一瞬だ。だがその一瞬だけは驚異的な防御力を有する。これを打破するにはもっと高い破壊力を誇る攻撃が必須だが……盾の防御と〈鉄壁〉の合わせ技だとその高火力な一撃すら無力化される可能性が高い……)


 スレイヤーは接近時に炎上の付与でかなり削られた自身のHPを見ながら、チャンスは一度だと確信するッ!


|(最高火力の攻撃……〈螺旋・壊牙〉を撃つべきか?いや、HPが減っている現状で更にHPを消費する攻撃を撃つにはリスクが高い……ならばその次に火力の高い〈鱗砕脚〉で……倒し切れるか?)


 チーターと攻防を繰り返しながらスレイヤーは思考を巡らせるが、確信的な答えには到達できない。


「チッ!」


 スレイヤーは舌打ちを1つした後、賭けに出たッ!!


「オラァッ!!」


「〈武装・(セカンド)〉ッ」


 スレイヤーがスキルを発動ッ! 瞬時に小振りな盾がスレイヤーの腕に装着され、


「フンッ!!」


――ガキィンッ!!――


「ぐぅッ!?」


 チーターの放った盾打撃を、見事にジャストガードで弾いて見せたッ!!


 そしてガラ空きになったチーターの腹部へと、


「〈鱗砕脚(りんさいきゃく)〉ッ!!」


 クルリと身体を回転させ、強烈な後ろ蹴りを打ち放ったッ!!


「〈鉄壁〉ッ!!」


 チーターもすぐさまに防御スキルを発動ッ!!



――ドッゴォオオオッ!!!――



 スレイヤーの蹴りが、防御体勢のチーターへと叩き込まれたッ!!


 そしてッ!!


「いってぇなぁ!!」


 チーターのHPを、全て削り切るには至らなかったッ!!


「死ねぇえええッ!!」


「くッ!!」


 炎上によってHPが残り少ないスレイヤーへ、チーターの両盾の打撃が繰り出されたッ!!

 スレイヤーは咄嗟に小盾の防御を取るが、この盾は単純な防御性能が低い! 今のHPとスタミナの量を加味すると、十中八九、受け切ることは不可能ッ!!


 が、その時であるッ!!


「〈魔守盾(マジックシールド)〉ッ!!」



――ガキィンッ!!!――



「ぁあッ!?」


「!?」


 チーターの繰り出した攻撃は、半透明な光の板によって防がれた。


「スレイヤーさん!!」


「タクマッ!」


 振り返ると、タクマが背後に立っていた!


「なんだ雑魚が!!」


「よくやったタクマッ!!」


 スレイヤーはタクマを賞賛し、チーターへと拳を叩き込むッ!!


――ドガッ!!――


「ぐッ!!舐めんじゃねぇぞ燃えカスがぁ!!」


 チーターが再びスレイヤーへ殴り掛かるが、


「〈魔守盾〉ッ!!」


――ガキンッ!!――


 再びタクマの張った魔法によってその攻撃が防がれるッ!!


「くッ!邪魔すんじゃねぇぞ雑魚がぁ!!」



――パチンッ!――



 チーターが指を鳴らしたッ!


「ぁあー!!毒毒毒ッ!!!」


「タクマ!」


 スレイヤーがタクマを掴み、


「フンンッ!!」


「ぇえええええ!?」


 チーターへと彼を投げ付けたッ!!


「〈鉄壁〉ぃッ!!」



――ドガァッ!!――



「ぐぇッ!?」


 鉄のように身体を硬くしたチーターに激突したタクマはそのまま地面に弾き落とされる!


「まずはテメェから―――」


 チーターはタクマを潰そうと盾を振り上げたッ!


――ヒュンッ!!――ドスゥッ!!!――


「ぐッ!?」


 しかしスレイヤーがナイフを投擲ッ!! チーターの振り上げていた腕に深々と突き刺さり、体勢を崩すッ!

 その結果チーターの一撃タクマから外れて地面に打ち込まれ、タクマは急いでチーターから離れたッ!


「ヤバッ!毒毒毒毒!!」


 テンパリながら解毒薬を使おうとするタクマへ、スレイヤーが自分の解毒薬を掛けて毒状態を解除させる。


「あ、ありがとうございますスレイヤーさん!」


「いや、俺も感謝する。…さて、奴のチートは奴の近くでは発動できないらしい。だからここからは接近戦だ」


「…俺魔法使いなんで近距離戦は……」


「下手でも構わん。アイツの接近戦は防御主体。少しでも崩せれば俺が仕留める」


「りょ、了解っす!!」


「なにをゴチャゴチャ話してやがる……俺が目の前にいるんだぞッ!!」


 腕部負傷が回復したチーターは、地を蹴りスレイヤー達へと迫って来る!


「タクマ!シールドだ!」


「〈魔守盾(マジックシールド)〉ッ!!」



――ガツンッ!!――



 真っすぐ接近して来たチーターは、タクマが張った〈魔守盾〉に激突して怯むッ!


「〈鱗砕脚〉ッ!!」


 その隙を逃さずスレイヤーの後ろ蹴りッ!!


「ッ!! 〈鉄壁〉ッ!!」



――バキンッ!!――ドゴォオオッ!!!――



 スレイヤーの蹴りはタクマの〈魔守盾〉を砕き、その奥にいたチーターへと叩き込まれるッ!!


 チーターは盾とスキルで防御し、ダメージを最小限に留めたッ!


「離れるな!距離を詰めるぞッ!!」


「はいッ!!」


「鬱陶しいなぁテメェ等ぁッ!!」


 スレイヤーとタクマはチーターに0距離まで接近し、攻撃を仕掛けるッ!!

 チーターも負けじと攻撃するが、


「フンッ!!」


――ガキィンッ!!――


「〈魔守盾(シールド)〉ッ!!」


――ガギンッ!!――


 スレイヤーはジャストガードで、タクマは防御魔法でチーターの攻撃を失敗させるッ!!


「〈壊牙〉ッ!!」


「〈魔散弾(マジックショット)〉ッ!!」


「〈鉄壁〉ぃいいッ!!」


 そしてスレイヤーとタクマの攻撃も、チーターの盾と防御スキルによって失敗させられるッ!!


 お互いがお互いの攻撃を無効化し、距離を取ることもなく我武者羅に攻防を繰り返す3人。


 しかし、スレイヤーの盾がタクマを守り、スレイヤーの攻撃時にはタクマが防御魔法を使う。この連携が取れるスレイヤーとタクマは、1人で攻撃も防御も行わなければならないチーターをジワジワと追い詰め始めていた。


 そして何より、


「ぐぁあああああクソがぁああ!!!」


 自身が気持ち良くなるためだけにゲームをプレイするチーターは、自身の攻撃が失敗する度にスレイヤー達とは比較にならない程のフラストレーションが溜まる!!

 チーターという存在は、このような状況に耐えられない性分なのだッ!!


「洒落臭いぞクソ雑魚共がぁああッ!!!」


 するとチーターは両腕を振り上げ、地面を強く打ち叩いたッ!!


「〈行妨地震(こうぼうちしん)〉ッ!!」


 チーターがスキルを発動したのだッ!!

 次の瞬間!!



――ゴゴゴゴごゴゴゴッ!!!――



「!!」

「うわッ!?」


 地面が大きく揺れ、スレイヤーとタクマは立っていられなくなって地面に膝をついてしまうッ!


「クハハーッ!!」


 それを確認したチーターは笑いながら後ろに跳び退き、スレイヤー達と距離を取ったッ!!


「移動妨害のスキルだッ!残念だったなチートスレイヤーッ!!」


 そして手をスレイヤーの方へと向け、


「燃え尽きやがれぇッ!!」


 指を鳴らすッ! その瞬間――――


「〈ペネトレイトアロー〉ッ!」



――ドボォオオオッ!!!――



 突如光の線がチーターに飛来し、奴の身体を貫いたッ!!!


「がッ!?」


 チーターが光の飛んで来た方向へと振り向くッ! そこにはッ!!


「やっと当ててやったわ」


 魔導弓を構えた、サラの姿ッ!!


「残念だが、そこは〈反射球光壁〉の外だぞ」


「―――ッ!!!」


 冷静さを失ったチーターはサラの存在を忘れ、自ら遠距離攻撃を反射する結界の外へと飛び出してしまったのだッ!!


「ぐ、が、がぁああ!!」


 胸部を大きく貫かれたチーターは重度の出血状態に陥りながら地面にドサリと倒れ込んだ。


「ぐぬッ!!うがぁぁあああッ!!」


 血の噴き出す胸部の穴を必死に押さえて悶え苦しむチーターの前に、スレイヤーが立ち塞がる。


「す、スレイヤー…!!」


「教えろ。そのプレイ技術、戦術、スキル構成、どれも真剣なプレイヤーじゃないと到達しない域だ。……なぜチートなんぞに手を出した」


「このゲームのチートは………特別だ………2年前の………あの事件以来…! このゲームは変わった! このゲームのチーターは……特別なんだよ……」


「………………もういい分かった。さっさと死ね」


 スレイヤーはチーターの頭を踏み潰し、死んだチーターはボロボロと消滅していった。そんなチーターを静かに眺めていたスレイヤーに、タクマが声を掛ける。


「………スレイヤーさん…2年前の事件って、なんですか?」


「……………そうだな。お前のような新規勢は知らないかもな」


 スレイヤーはゆっくりと振り返り、タクマの目を見据えて言った。


「教えてやろう。2年前の事件。『チーター大騒動』について」



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