悪役令嬢は蚊を召還していました。でも蚊はレベルアップしていきます!
悪役令嬢もの(ちょっと変わった)にチャレンジしてみました!
フィレンツェ王国は使い魔と共に繁栄していった国だ。
初代国王は聖獣を召還し敵国との戦いに勝利、国を建国した。フィレンツェ王家のエンブレムは初代国王が召還した聖獣の紋様が中心に刻印されておりその横をクロスした剣が飾ってある。
使い魔は生涯よき友人として力を奮ってくれ、街中でも馬車を引くモンスターや兵士と一緒に戦ってくれるモンスターなどがいて市井ではそういった光景は日常的だ。
子供の魔力が安定する七歳になると国の教会で使い魔召還が行われる。貴族は代々魔力量の多い者同士、魔力の質が良いもの同士で血を繋げていくため、滅多に呼び声に答えてくれない精霊や上級モンスターなどが召還されることがあった。
教会では国内有数の貴族であるマガルデア公爵家の令嬢ローゼリア・フォン・マガルデアの使い魔召還の儀が行われようとしていた。
マガルデア公爵家は代々強い闇の魔力を持っていてローゼリアの父は闇の精霊王、母は水の魔力の家系に生まれており水の精霊を使い魔にしている。その二人から生まれた息子ローゼリアの兄も類いまれなれる魔力を持って生まれ七歳の頃にダークドラゴンを召還し周囲をあっと驚かせた。
そんな親子と兄の元に生まれた娘ローゼリアはその期待もひとしお、魔力量も無尽蔵にあり、将来の期待もされている。
そのローゼリアの召還が今始まる。
(わたくしはこの召還を絶対成功させるわ……!)
周囲からの期待を一身に背負った幼い娘はプレッシャーを受けていた。だが自信もあった。沢山の魔力を持って生まれ、親や兄は強い使い魔と契約している、自分もそうなるだろうという驕りがあった。
地面に描かれた召還陣に腕をかざし魔力を流し込む
すぅっと一つ深呼吸をして
『魔の盟約を結びたもう我が使い魔よ…いでよ!』
召還陣が光輝きまばゆい光に包まれた、眩しさに目を瞑り、もう一度目を開けると……
(え……?)
ローゼリアの視線の先には何もなかった
「おや…?おかしいですな。もう一度やってみましょう」
召還を見届けていた教皇が言った。
(わたくしが失敗するわけない!こんなの可笑しいわ……!)
ローゼリアは眉間に皺を寄せ口元をきゅっと結んだ。
再び魔力を流し込む。
『魔の盟約を結びたもう我が使い魔よ…いでよ!』
召還陣は再び光輝いたがやはりその場所にはなにも居なかった
「これは……」
「どういうことだ?召還陣は呼び掛けに答えたように見えたが」
「まさか失敗か……?」
周囲にいた教会の修道士たちがざわめきだす
ローゼリアは愕然としていた
(なんでなの……?魔力を召還陣に吸いとられた感覚はあったのに)
自分の思い描いていた未来とはまったく違っていることにショックを受けていた。
本当はとびきり強い精霊を召還してお父様、お母様、お兄様にめいっぱい褒めてもらうつもりだったのに……
・ ・ ・ ・ ・
その後何度試してみても使い魔は召還できなかった
諦め帰ることになったローゼリア、帰りの馬車では父と母がずっと慰めていてくれたがその慰めも心には響かないぐらい傷心していた。
屋敷につくと世話もいらないとしょげた様子で部屋に一直線に戻っていった。
(なんでよ……なんでなのよ)
ローゼリアの目にはじんわりと涙が浮かんでいた
やりきれない思いをベッドの上で枕をぽすぽす寝具に打ち付けることで消化する
「召還紋は確かに有るのに……」
手の甲を見ると召還者と使い魔を繋ぐ召還紋が刻まれている。
召還者は手の甲に使い魔は身体の何処かに契約した証として刻まれる召還に失敗したかと思われたローゼリアの手の甲には確かに召還紋があった。
(でも、召還したパートナーが居ないんじゃ意味ないわね……)
泣き疲れたローゼリアは睡魔に襲われていった、そしてとある夢を見た。
そこでは黒髪黒目の自分が小説を読んでいるところだった。
「それにしてもローゼリアやることやるわね」
小説を一通りよんだ自分はローゼリアがいかにひどい女か呟いていた
小説の中のローゼリアはヒロインの教科書をビリビリに破いたり、階段から突き落としたり毒殺未遂を起こしたりいた。
「でもまぁ、最終的に断罪されるんだけどね」
「せいせいするわ~」
「それにしてもローゼリアは太ってるな~挿し絵のローゼリア足と腕がむっちむちじゃない、そりゃヒーローも可愛いヒロインを選ぶよね」
小説のローゼリアは持ち前の巨体でどしんどしんとヒーローの皇太子に近付いてすり寄っては無下にされていた。
「でもローゼリアは召還失敗してからやけになって周りに当たり散らかすようになるけど、実は召還失敗してないのよね、設定資料集にも書いてたし、勘違いって怖~」
そうローゼリアは召還に失敗していなかったのである、ただ見えていなかっただけで……
「でもその召還していたのが虫って嫌だな~
進化するらしいんだけどそれ以上は書いてないんだよね」
(わたくし召還出来ていたの?それも虫……?)
はっと目を開けると朝日が窓から差し込んでいたいつの間にか朝になっていたようだ。
やけにリアルな夢で自分のことを話していた黒髪黒目の女。
(……思い出したわ……私は前世でこの小説を読んだことがある……!)
この小説は身分違いの恋で揺れるヒーローとヒロインを描いた作品だった
そして自分は小説の中のヒロインを虐めた罪で断罪される悪役令嬢……!
設定が使い魔を軸とした作品だからもの珍しくて覚えていた。
ベッドから起き上がり、ドレッサーの前に走って行く
(間違えない……この真っ赤な髪に血のような真っ赤な目、紛れもなく私は悪役令嬢ローゼリアだわ……!)
そこには十年後に悪役令嬢として断罪される前の七歳の少女が写っていた。
「落ち着きなさいわたくしまだ断罪されると決まったわけではありませんのよ……そして、まだ太ってない!」
夢の中の自分はローゼリアを散々馬鹿にしていたけど自分は太ってなどいない…!
多分使い魔召還を失敗してから自暴自棄になって暴飲暴食を繰り返してあの体型になったのだと思われる。
そしてあの言葉
『ローゼリアは召還失敗していないのよね、召還したのが虫なのが嫌だけど』
「わたくしは虫を召還していた……?」
その声に反応するように一匹の蚊が手のひらにちかよってきた。そして召還紋にぴとっと止まった。
「ぎゃ~!!!なんで蚊なのよ!!!!!」
そうローゼリアは蚊を召還していたのである。
「お嬢様!?いかがなされましたか!?」
ローゼリアの叫び声を聞いてメイドが部屋に入ってきた。
このことを話そうか迷ったがやめた虫だから退治されるに決まってる。
「なんでもないわ……ただちょっと叫びたくなっただけ…」
苦しい言い訳だったが、昨日召還に失敗して傷心して帰ってきた主のことを思うとメイドは悲しそうな顔をして
「……ローゼリア様おきになさらないでくださいませ、気分転換に朝食を持って参りますので食べてくださいますか?」
「ええ食べるわ、下がっていいわよ」
ひくりとした笑みを張り付けてローゼリアは言った。
まさか自分が蚊を召還していただなんて、だから召還しても見えない探せないはずだ
蚊は手の甲に止まって此方を伺っているのか手を擦りあわせて様子を見ている
(まじまじと見ちゃった気持ち悪いわ!!)
「……あなたが私の使い魔さん?」
蚊は手を擦りあわせてなにも言わない。だが、召還紋に乗っている様子から自分がお前の使い魔だとアピールしているようだ。
ローゼリアは白目を剥きそうになっている。
だが召還に失敗していないのだということを知れてなんとか踏ん張ることができた。
召還されたのは蚊だけど。
「いいわよ……幾らでもわたくしの血を飲みなさい…!わたくしがあなたをれべるあっぷさせて見ますわ…!」
蚊は待ってました!と言わんばかりに血を吸い始めた。
・ ・ ・ ・ ・
その後何日も何日も蚊に血を与えていると、
蚊にも愛着が湧いてきたのかペットに餌をやる感覚
であげることが出来た。
ローゼリアは蚊に血をあげレベルアップさせることに奮闘して召還に失敗して屋敷に帰ってきた頃よりも明るくなっていった。
虫さされはメイドに見られて塗り薬を塗られたが…
今日も今日とて血を上げていたら
手の甲に乗った蚊は血を吸っていたが次の瞬間青白く光輝いてなんとそこには蚊ではなく黒いコウモリがいた
「れべるあっぷしたのね!!」
虫から哺乳類に進化した訳はわからないがとにかく進化は進化だ喜んでいいだろう。
「やったわ…!!この調子でどんどん血を上げていきましょう!」
するとコウモリがくりくりとした瞳で此方を向いて
パタパタと飛んできて顔にくっついてきた
「まぁ…可愛らしいわね、蚊とは大違い」
指を差し出すと上にとまって羽のけずくろいを始めた
コウモリを付き従えてるのを見た家族は驚きながらも祝ってくれた。ローゼリアは召還に失敗していなかったんだ、と。
小動物と契約を結ぶ人間は平民に多いが、ローゼリアにとっては些細なことだった。自分がちゃんと召還出来ていたのだということがなにより嬉しかった。
それからローゼリアはコウモリに吸血をしてもらうようになる。
そして吸血をして貰い一年がたった頃
「さぁたんとお飲みなさい」
首筋をさらけ出してコウモリに差し出す
コウモリはいつものように小さな口を開けてカプリと血を吸い出した。
んくんくと吸っている様子を見ると母性が湧いてくるような気がする。
するとコウモリが青白く光だした
「まさか…、れべるあっぷする時が来たのね!?」
光はどんどん大きくなっていきローゼリアを越して大きくなっていき最後にいっそうまばゆく光った
(眩しい……わたくしのコウモリはどうなったのかしら)
次に目を開けるとそこには艶々とした黒い髪に爛々と光る赤い目をした男がいた
「えっ」
男はニヤリと笑い白い牙を覗かせた。
「ようやくだようやく人形になれた」
そうしてローゼリアを抱きしめた
「きゃっ何!?」
「ご主人サマ?血をくれてくれてありがとう…ようやく完全体になれたよ」
「あなたが……私の使い魔?」
「そうだよ、ひどいな、わからない?」
そう言った男は顔の左頬を指差した、そこには確かにローゼリアと同じ形をした召還紋が刻まれていた
「虫の頃からご主人サマにお礼がいいたかったんだ、こんなに小さい俺に気づいてくれて。血まで与えてくれてありがとうってね」
そう言うと男はローゼリアの手の甲にキスを落とした
(なんて、キザなの……!)
顔を赤くさせるローゼリアに男はくくっと笑った
「名をくれるかい?ご主人サマに名付けて貰いたいんだ」
「名、名前ね……そうね、ヴラドなんてどうかしら」
「ヴラド、ヴラド……俺は今からご主人サマのヴラドだ……!」
ヴラドはローゼリアを抱きかかえながらくるくると回った
ニコッと笑った口からは牙が覗いて彼、ウラドが吸血鬼だということを示していた
(まさか吸血鬼になるなんて……!)
「ご主人サマ?これからもたんまり血を頂戴?そしたら俺はもっと強くなってご主人サマを守れるようになるから」
こうしてローゼリアの使い魔は蚊からレベルアップして吸血鬼になり、にこりと笑いローゼリアを抱き締めるのであった。
お読みいただき、ありがとうございました!