6、反乱です。
「父は次第に母が亡くなったのはこの国のせいだと思うようになりました。仮に父が母の傍にいたとしても母が亡くなる事実は変わらなかったかもしれません。」
「しかし父はそう思うしかなかったのです。やり切れない思いをどこかにぶつけるしかなかったんです。」
どこの世界でも人は人だ。
自分に起きた不幸は誰かのせいだと考えるほかなかったのだろう。サナリーの父親の場合はそれが国そのものだったのだ。
「父は反乱軍を結成したんです。最初は少人数でしたが国に対して不満を持つ人は多かったですから、そう時間はかからずに反乱軍は大きくなっていきました。」
「そういった人たちが集まった結果、反乱軍は良からぬ方向に進んでいきます。きっかけは父の演説でした。真実は分かりませんが国の上層の人たちの行いを話したのです。」
「彼らは人を殺し合わせて賭け事をしているとか、本来国民に使うはずの金を私利私欲に使っているだとかです。」
「反乱軍の人達はそれを信じました。それくらい国に対する不信感は強かったんです。すべての責任が国にあるわけではありませんが国が実施する政策の影響で悲惨な過去を持つ人は大勢いたんです。」
「そして父は言いました。」
「醜い人類は俺たちの命を掛けて滅ぼすべきだ!」
「俺たちの手で世界を正そう!!」
……俺はこの時女神さまのあの言葉がよぎった。
『人類を滅亡若しくは更生させなさい』
まさにこの国は滅亡するか更生するかしか未来がない
「そして彼らは自分たちを含むこの国全ての人を殺す計画を立て始めました。」
「始めは偶然でした。衝撃を与えると爆発を起こす鉱石を発見したんです。それをもとに計画は進みました。国の各地でその鉱石を持った反乱軍が一斉に爆発させるというものです。」
俺はとてつもない恐怖を覚える。人とは狂うとそんなことまで実行してしまうものなのか。
「私はその計画を知った時に止めないとと思い数日ぶりに父と話したのです。ですが、父は私が何を言っているのか理解できない様子でした。そして父は私にこう言ったんです。」
「安心しろ。サナリーの鉱石も用意する。ようやく世界が生まれ変わるんだ。と。」
「その父の言葉にまわりの人も歓声を上げていました」
私は考えれば考えるほどわからなくなりました。
なんでこの人達は歓喜しているの?自分たちも死んじゃうんだよ?大勢死んじゃうんだよ?私がおかしいの?そんなことしても母は戻らないのに。気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い
「気がついたら私は全てを投げ出して走り出してました。走って走ってとにかく遠くへ。嫌なことも全部考えないようにしてとにかく走り続けました。」
……おそらく過度なストレスからサナリーは無意識に自分の記憶にフタをしたんだろう。初めて会った時の彼女はなにか嫌なことから逃げてきた程度の記憶しかなかったんだ。
だが、あの爆発をきっかけにフタが外れてしまった。
「私はすべてを見捨てたんです。父親も、知り合いも、罪のない人たちもすべて。」
「こんな人間、消えた方がいいですよ。」
なんと声をかけたらいいかわからなかった。
だが、サナリーが過去を話してくれた。少なからずサナリーにはこの過去を聞き、俺ならどうしていたか、どうするのが正しかったのか教えて欲しい気持ちがあるはずだ。
少し考えたあと、俺は口を開く。
「サナリー、これは俺の考え方なんだが……
この世に正しいことも間違っていることもないんだ。それは人類が勝手に決めたことだ。例えば殺人を犯した人を殺すことは正しいか?」
「……正しいんじゃないですか。その人がもっと多くの人を殺すかもしれない。」
サナリーが答える。
「じゃあ、そいつを殺した人も殺すべきか?」
「いや、それはおかしいです。これ以上被害が出ないように殺したんですから。」
「ちゃんとした理由があったら殺しもやむを得ない場合があるってことだよな。じゃあ、その線引きはなにか。愛する人を奪われたから。自分が殺されそうになったから。誰かを殺しそうだったから。人によって様々だ。」
サナリーは少し苛立ち声を荒らげる。
「何が言いたいんですか!?」
「人によって正しさは違うってことだ。少数派が間違いにされるだけで。」
「国の上級民たちは自分やその周りさえ裕福に高貴に暮らせればそれ以外はどうでもよかった。そりゃそうだ。自分とは関係の無い人がどうなろうと何もかんじない。」
「君の父親と反乱軍は人間の醜い部分に触れこんな生物は存在するべきではないと感じ行動した。自分たちに酷い行いをした人を憎みそんなヤツらと自分も同じ生物であることを嫌いすべて消すべきだと考えた。」
「サナリーは自分も死にたくないし周りにも死んでほしくない。でも今回は周りの人間を救うのが不可能と感じ自分の命を優先した。」
「すべて理解できるし、その人の正しさに従った結果だと思う。俺はすべて間違ってないと感じる。」
「……」
「だが、サナリーが今自分を殺そうとしたのは間違っていると言いきれる。君の正しさは自分を含めた多くの人を救いたいというものではないのか?」
「サナリーの自傷行為はそれに反する。ただ逃げているだけだ。すべてから。」
「自分の思う正しさを貫いてほしい。」
少しは納得してくれたのだろうか。ショボンとした様子でサナリーは口を開く。
「でも……もうこの国に救う人なんて……」
「この世界には後2つ国があるだろう。」