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ベルーゼは残りの業務を終わらせると、

昼食の時間より少し早めにアリスのいる研究所へと向かった。



研究所には植物を育てるための畑と、育てた薬草を研究する研究室がある。

畑にはアリスが丹精を込めて育てた様々な種類の植物が所狭しと生い茂っている。

研究室では新種や新しい効能を持つ植物を研究し、薬の開発を行っている。



畑を通って研究室に向かう途中で、

研究室の窓から試験管と睨めっこしているアリスを見つけた。



アリスはしばらく試験管をくるくると混ぜていたが、次第に険しい表情になる。

試験管をラックに戻し、目を閉じ頬に手を当て、

考え込むような仕草で眉には皺が寄っている。


ベルーゼは透かさず水晶に姿を映し、記録を残した。


(新薬草の研究で悩んでいる真剣な姿も愛おしい。これはきっと、

帰宅してからも目を盗んで徹夜で研究を続けるだろうな。止めよう。)



ベルーゼは研究補助をしない日は、研究の邪魔にならないように

こっそりとアリスの様子を観察し、記録し、愛でている。

先程までの憂鬱は吹き飛び、心が穏やかで温かい気持ちになる。



(そろそろ時間だな。キリの良さそうなところでお呼びしよう。)



ベルーゼは研究室のドアをノックし、アリスに声を掛けた。



「―――お疲れ様です、お嬢様。昼食のお時間です。

本日の昼食は、デミグラスオムライスをご用意いたしました。」



声を掛けられたアリスは先程までの真剣な表情から一変し、

柔らかい表情で嬉しそうに笑った。



「ベルーゼ!お疲れ様。ちょうど一区切りついたところでしたの。

今日はデミグラスオムライスですのね!楽しみですわ~。」



アリスは実験道具を手早く片付けると、

部屋から出てベルーゼのもとへ駆け寄った。



「ベルーゼも一緒に食べましょうね~。」

「承知いたしました。」


「あら?今日は早くに了承してくれて嬉しいわ。

いつも従者といえど殿方と2人っきりで食事なんてってお小言付きなのに。」



アリスは屋敷に戻る足を進めながら、

斜め後ろを歩くベルーゼの顔を不思議そうに見た。



「本日はお疲れの様子ですので。」


ベルーゼは慈しむようにアリスを見て優しく微笑んだ。



「・・・うふふ、ベルーゼにはお見通しなのね。

実験があまり上手くいかなくて、ちょっとね~。」



アリスはスキップしながらおどけて見せたが、

その横顔には少し疲れが見えるようだった。



「本日は街へ行く予定でしたが、海岸レストランにも行きますし、

街へ行く予定は別日にいたしますか?」


「えぇっ!今日はベルーゼとデー・・・!!!」


「デー?」



アリスはハッとして目を開き、だんだんと顔が熱くなる。

そして慌てながら手を横に振った。



「な、なんでもないですの!!ベルーゼとデ・・・

デミグラスオムライス、早く食べたいですわぁ!」


「そんなに楽しみにしていただけて、とても嬉しいです。」



ベルーゼとしてはアリスを心配しての提案だったが、

アリスはふうっと息を吐き、口を尖らせながら静かに答えた。



「先に約束していたのはベルーゼと街に行くことですわ。

今日はせっかく研究所を離れても良いように前々から進めたんですの。

だから街へは行きますの。海岸レストランはついでですわ。」


「ですが今日は徹夜なさるおつもりですよね?

いけませんよ。また無理して倒れてしまったらと、

私は心配で夜も眠れません。」


「・・・ベルーゼがまた一緒に暮らしてくれれば、

徹夜で研究なんてしませんわ。

執事じゃなくても、住み込み研究補助でもいいですのよ。」



「お嬢様・・・。申し訳ございませんが、それは出来かねます。」



ベルーゼは困ったような表情でアリスを見た。

もちろん一緒に暮らすことが嫌な訳ではなく、

執事の業務終了後には魔界に戻って仕事をしているベルーゼには不可能だ。



「ふふ。断られるって、分かってて言いましたの。」



アリスはどこか寂しそうに、ぷいっとそっぽを向いた。






屋敷へ戻るとベルーゼは手際よく昼食の盛り付けを行う。

自身の昼食も盛り付けるとサッと席に着いた。



「「いただきます」」



アーモンド形のライスの上に乗った薄黄色のオムレツをナイフで切ると、

デミグラスソースに良く映えるトロトロの半熟卵が出てくる。

アリスは目を輝かせてオムライスを食べ始めた。


「とっっっても美味しいですわ!毎日このオムライスが食べたいですの!

ベルーゼのオムライスは、私の世界で1番好きな大好物だわぁ~。」



ベルーゼはとても満足そうに微笑んだ。



「お口に合って良かったです。お嬢様が喜んでくださることが、

私の世界で1番幸せなことでございます。」


「・・・ずるいですわ、ベルーゼ・・・。」


ベルーゼの直球過ぎる言葉に、アリスは顔を赤らめ小さな声で呟いた。



「どうかされましたか?」


「いいえ、それより今日は街に遊びに行きましょう!」


アリスはニコニコとしながら、

ポケットから2枚の紙を取り出すと、誇らしげにベルーゼに見せた。


「ベルーゼを驚かせたくて黙っていたのだけれども、

先日から街に来ているミュージカルのチケットを入手したのですわ!!」


「えっ!あの入手困難のチケットですか!すごいです。

・・・だから研究の予定を空けたのですね。」


「ええ、そうですの。いつもお仕事をしてくれているベルーゼに

プレゼントを贈りたくて。だから、今日は一緒に楽しみましょう!」


思いもよらなかったサプライズに、ベルーゼは目頭が熱くなった。


「ありがとうございます。ただ、ご無理だけはしないでくださいね。

私の大切なお嬢様なのですから。」


「もう!分かったですの~!」



アリスはまた顔を赤らめて、こくりと頷いた。




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