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勇者一行は、ルメーデの領地に入っているようだった。
使役したカラスの瞳が捉えた映像が小さく映し出される。
どうやら勇者たちは揉めているようだ。
「・・・―ド―――もう―――らない!ポンコツ!!」
ノイズが入らないように、チャンネルを合わせるようにして音声も拾う。
ついでにステータスを確認を行うことにした。
「ドロシー、ごめんって。」
必死になって小さな娘に謝っている人物が映し出された。
(―――こいつは、勇者。光属性、レベル15。名はエドワード。16歳。)
「エドワードはいつもそう!!可愛い女の子に鼻の下を伸ばして!すぐ騙される!!
可愛い子に声掛けられて油断して、お財布を盗られるなんて・・・。
取り返したけどお財布の中身は空っぽ!今日も宿なし野宿!!本当ありえないわ!!」
勇者に向かってそっぽを向く背丈の小さな娘。
(―――武闘家か。風属性、レベル15、名はドロシー。同じく16歳。)
「まあまあ、痴話喧嘩はその辺にして、
早いところルメーデに向かいましょう。エドワード君も反省しているし。」
2人を宥めるように間に入るスタイルの良い娘。
(―――魔法使い。水属性、レベル18。名はエマ。18歳。)
「ちちち、痴話喧嘩ってなによ!だいたい、エマは甘いの!!
このポンコツは何度反省しても同じように騙されるんだから!今日こそ徹底的に・・・」
「やきもち焼くのは分かるけど、
そんなにカリカリしていたら、ますます貧乳になっちゃうわよ~。」
「なんですって~!!!この淫乱ボイン!!」
「こら!お前たちまで喧嘩をするな!」
3人を宥める落ち着いた雰囲気の男。
(―――僧侶か。土属性、レベル20。名はロバート。23歳。)
「あらあら、ロバートに怒られちゃったわ。」
「街に到着したら事情を説明して、魔物狩りでも皿洗いでも、
出来る事をやらせてもらって泊まれるところを紹介してもらおう。
エドワードはしっかり反省して、可愛い女性にも油断しないようにな。」
「うん・・・。僕のせいで、ごめんね。みんな・・・。」
「起こってしまったことは仕方ないさ。そもそも人のお金を盗む奴らが悪いんだ。
それより、ルトワレの中でも随一の緑溢れる美しい街に行くんだ。
せっかくだから道中も楽しもうじゃないか。」
「ロバートの言う通りね!ルメーデの領地に入ってから、
なんだか植物が生き生きとして、たくさんお花も咲いていて綺麗な場所だわ。」
「そうね・・・。私も怒りすぎちゃった・・・。ごめんなさい。
前からルメーデの街に一度は行ってみたかったのよね。」
「ふふっ、素直なドロシーはやっぱり可愛いわねえ。」
「みんな、ありがとう。気を取り直して、ルメーデに向かおう!!!
魔界のゲートを通るために、街で作られている改良魔力回復草を手に入れるんだ!
そして、この世界を混乱させている魔王を討ち倒して、
世界中の可愛い女の子から感謝されてモテモテになるんだ!!!!!」
「「「・・・・はあ・・・。」」」
見ていられず、カラスとの通信を切った。
・・・このお子ちゃま達が勇者一行。王族は正気か?
こんなお遊戯会レベルの集まりでは、
束になっても俺どころか魔族一人にすら敵わないだろう。
いつ頃からか王族は光属性を持つステータスの高い者を、
勇者として管理・教育し、魔王を討伐するように命じるようになった。
魔王は闇属性を持つと考え、光属性は闇に対抗できると考えたようだ。
全属性の俺には全く無意味なことだが。
闇を打ち倒す者として、いかに魔王が危険であるかを学び、
剣を、武術を、魔法を鍛え、教会で勇者という称号を与えられて、
王族の命に従って旅をする。
実際には、王都に希少な花を咲かせる外観整備や、
王族に資金援助している者の魔物討伐依頼など、
都合のいい便利な小間使いとして使われているのだが。
『勇者(便利屋)』という称号に変えた方がいいのではないかと思う。
何年か前にも魔界へ来ようとしていた別の勇者一行はいたが、
ゲートを渡り切る前に魔力が尽きて空間から出られず倒れていたところを、
魔界に戻る途中で発見して救助した。
治療が必要な状態だったので、仕方なく魔王城に連れて行ったが、
勇者は目が覚めるなり仮面を付けた俺を見て泡を吹いて失神してしまった。
圧倒的な力の差に驚いてしまったのだろう。
面倒なので魔界で眠りの魔法を掛けた状態にして、
さくっと治療を済ませて出社のついでに人間界に送り返した。
やはり行きと同じく途中で魔力が尽きてしまうので、
眠らせながら魔力の受け渡しをしつつゲートを渡るという非常に面倒な送迎だった。
人間は本当に繊細で手の掛かる種族だと思ったものだ。
勇者という称号は世界で1人のみに付与されるが、
教会で多額のお金を払うことにより、称号を変更することが出来るようで、
その勇者一行が魔界に来ることは二度と無かった。
今はこのお子ちゃまが勇者か。
お嬢様の改良した魔力回復草を求めているということは、
ゲートを通るには非常に多くの魔力を消費することは前任勇者から学んだようだ。
前回の勇者よりはステータスを上げてきたようだが、それでも脆弱過ぎて話にならない。
魔力回復草があったところでギリギリ、ゲートを通り切れるかどうかってところだ。
また途中で倒れられて送り返すのは、本当に面倒で気が重い。
なんとか魔界にくること自体を止められないものかと思考を巡らせつつ、
すべての昼食を完成させた。