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「行ってらっしゃいませ。」



アランは魔法局へ、アリスは屋敷の敷地内にある研究所へと向かった。

ベルーゼは2人を見送り、魔法を使って瞬時に片付けを終わらせると、考えを巡らせた。




勇者がこの街に来る。使い魔から報告があった、お嬢様と同じ年齢の勇者か。

お嬢様が改良された、魔力回復草を欲しがっているということは、ゲートを通る?

今度はどんな方法で穏便に帰そうかな。


「あー。ほんと、めんどくさい・・・。」



ベルーゼは考えるのが億劫になり、思い出に耽った。





俺はこの世界の人間ではなく、魔界出身だ。

先代の魔王と妾の間から生まれ、

類稀なる全魔法属性と強大な魔力を持っており、ほどなくして魔界の王とされた。


妾の子を魔王とすることに反対する者もいたが、

王としての教養を学び、責務を知り、気弱で力の弱かった正妻の子は、

自身が魔王となることを全く望まなかった。

陰で王を操りたい者にとっては、強大な力を持つ俺が邪魔だっただろう。




人間界と同じように、魔界でもおかしな気候や天災が各地で起こっていた。

原因を調べるために10年前、人間界で調査をすることになった。


魔界と人間界は簡単に行き来できるものではなく、魔力が大量に必要となる。

また、魔族が人間界に行くと、魔力の消費は激しく回復に時間が掛かる。

人間は過度に魔族を恐れ、魔族はむやみな争いを避けるため、

お互いの世界には干渉しないことが当たり前となっていた。


今回の調査は人間に気付かれることが無いようにということだ。



俺が同行することによって調査チームの負担軽減と安全確保を図った。

様々な思惑が絡み合う中、人間界に赴くことになったのだ。



魔族はこの世界の人間よりも優れた身体能力と魔力を持って生まれる。

姿形は同じだが、人間と異なるのは黒い翼と尻尾を持っていること。



翼と尻尾を隠してゲートを通った瞬間、油断していたんだ。

仕掛けられていた大掛かりな罠が作動し、あっという間に魔力を封じられた。

人間界で騒ぎにならないようにと少数精鋭で向かったことも仇となり、

裏切られて1人で人間界に飛ばされた。

俺を魔王とすることが面白くない連中に、まんまとしてやられたのだ。



幸いにもこちらの世界にいた見張りにゲートを通ったことを気付かれることは無かったが、

魔力の封印解除までには相当な時間が掛かる厄介な罠だった。



慣れない土地で魔法を封じられたことはとても痛手で、

帰ろうにも魔力が必要になるため、途方に暮れてこの世界を彷徨う羽目になった。



旅人を装ってこの国の王都に着いた頃には、すっかり疲れ果ててしまっていた。


生まれて114年経つが、人間とは成長のスピードが異なり14歳くらいの青年と間違われた。

人間にとって、俺の顔立ちはとても好ましいものだったのだろう。

行く先々で女性に囲まれ、付きまとわれ、誘われて。

時にはガキのくせに調子に乗るなと理不尽な暴力を振るわれたこともあった。

人間の力なんて痛くも痒くも無かったが、とても嫌な気持ちになった。



魔法さえ使えればと何度も試したが、解除まではやはり時間が掛かるようだった。




旅をする中で人間界でも魔界と同じ異変が起きていること、

そして魔界のイメージが想像以上にとても悪いものだと知るのは早かった。

街の情報紙や偶然にも王都で魔王討伐演説をしていた王族の話を聞いて充分理解した。



弱い者が強い力を持つものを恐れ、疑心暗鬼になるのは仕方のないこと。

しかし、根も葉もないような情報で討伐される筋合いはない。



やり切れない思いを抱えながら泊まった宿で事件は起こった。

夜中に気配を感じて目を覚ますと、武器を持った人攫いに囲まれていた。


宿屋の亭主の舐めまわすような視線は気になっていたが、

まさか攫われるとは思っていなかった。



目立たないように王都では素直に従い、

移送途中の洞窟で人攫いの集団を壊滅させたが、場所が悪かった。

洞窟には魔物が巣くっていたのだ。

この世界に来て初めて見る魔物に、瀕死の重傷を負わされてしまった。



かろうじて逃げることは出来たが、心身ともにボロボロになっていた。

どれほど遠くへ来たか分からないが、どこかの街に辿り着いたようで、小さな屋敷が見えた。

そこでついに限界を迎えて、屋敷の敷地で倒れてしまった。



次から次へと問題ばかり。もういい、心底うんざりだ。

魔界も人間界も、何もかもグシャグシャにぶっ壊してやりたい気分だ。

すべてを諦めかけたとき、薄紫色の宝石のような目を持つ少女に覗き込まれた。



「・・・・・・・天使?」


「すごいけが!!だいじょうぶ???おとうさまー!おかあさまー!!!」



そこで俺の意識は途切れた。





目を覚ますと、ふかふかのベットにいた。

ぼんやりとしていると、目の前にかなり顔立ちの整った男が現れた。



「あ、目が覚めたかい?すごい怪我だったね。大丈夫?

 三日間、ずっと眠っていたんだよ。」



「助けていただき、ありがとうございます。ここはいったい・・・?」



「ここはルメーデ。この国の最北端にある街だよ。

 君はどうしてそんな怪我を負ってしまったんだい?」



「僕は、攫われて、魔物に襲われて・・・。」



「そうか・・・、それは大変だったね。

 どこから来たんだい??ご家族に連絡を取るよ。」



「帰る、ところ・・・は・・・。」



怪しまれてしまってはまずいと、

考えれば考えるほど焦ってしまい、何も言えなくなってしまった。



「・・・ま、色々とあるよね、人生!話したくないことは話さなくていいよ。

 僕の名前はアラン・グレイス。君の名前は?」



「・・・僕の名前は、ベルーゼ、です。」



「ベルーゼ君、よろしくね。好きなだけここにいてくれて構わないから。

 ここの領民の多くは魔物の被害を受けて住む場所を失ったり、

 食べるものに困って貧しい思いをしていた人たちなんだ。

 もし、君が困っている状況なら、僕を頼ってくれて構わないからね。」



「なん、で・・・。」



「人は助け合うものだよ。困った時は、お互い様。

 君も困っている人がいたら、助けてね。そうやって、連鎖していくんだ。」



何もかも心底うんざりしていた俺に、アラン様は眩しすぎた。

プツンと糸が切れたように、溢れるものを堪えきれなくなった。



「あーーーーーー!!!おとうさまがいじめたーーー!!」




意識が途切れる前に聞いた声が聞こえて、

顔をあげると天使のような可愛い女の子が元気よく部屋に入ってきた。

女の子は勢いよくベットに飛び乗ると、小さな手で俺の頭を撫でた。



「いいこ、いいこ、かっこいいおにいちゃん。

 アリスがおとうさまに、メッしておくからだいじょうぶよ。」



「ちがうよ!!アリー!!誤解だよ!!」



アラン様の慌てふためく姿と先ほどの頼もしい姿との差に、思わず笑ってしまった。

虐められたわけではないと理解したのか、女の子もニコニコと笑顔になった。


氷のように冷たくなった心が、優しさに触れて温かくなるのを感じた。





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