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魔法島国、『ルトワレ』。

大いに魔法が発展し、他国に負けない成長を遂げてきた。


その島国の最北端に位置するのが、

俺の仕えている領主『アラン・グレイス』様が治めている『ルメーデ』という街だ。


大きな領土ではないが緑豊かで海があり、国の食料を担うほどの豊富な資源がある。

ゆとりがあるおかげか、ここの領民たちは争いを好まず、穏やかな者が多い。

この地域だけゆったりとした時間が流れているような感覚になる。



人は3歳になると魔法属性が定まり、

通常は1つの属性を持つものだが、稀に2つ以上の魔法属性を持つものがいる。

アラン様は大地と水属性を持ち、幼いころから緑の愛し子と謳われたそうだ。


ルメーデが豊かなのは、アラン様が領地に定期的に魔法を掛けていることが大きく影響している。

もともとこの地は気候差が激しく、燃えるような暑さと凍えるような寒さが

半月ごとに入れ替わるような厳しい環境だった。

そのような環境に適応出来る生物がおらず、植物も育ちにくかった。



アラン様はこの地を治め、大地を育て、緑豊かな領地へと変えていった。

そのおかげで栽培の難しい植物などもこの土地では簡単に育つ。



近年、本来は一年中常夏の地域に雪が降るなどおかしな気候や天災が世界各地で起こり、

植物や作物が育ちにくくなっているものの、ルメーデは最小限の影響で抑えられている。



数々の実績を認められ、アラン様は国から直々にスカウトを受けて魔法局に勤めている。

本人は家で娘とゆったり植物を育てて過ごしたいと、あまり乗り気ではないが。



領民には豊かに健やかに暮らしてほしいとの願いから最小限の税収で、

街が豊かに安全に暮らせるようにと、自身の財産をほとんど街の運営費に充てている。


屋敷は綺麗だが贅沢な作りではなく、領主にしては質素すぎるだろう。

俺がここに来る前は使用人すらいなかったし、今でも執事の俺1人しか使用人はいない。

使用人がいなくとも身の回りのことは自分で出来るが、身寄りのない俺を雇ったのだ。





執事の業務は早朝から始まり、5:00には仕えている屋敷へ到着し、仕事を始める。



指を鳴らせば土魔法で作ったゴーレムたちが屋敷の掃除を初め、

汚れた食器や洗濯物は水魔法で一瞬で汚れを消し去って、風魔法で乾いて棚に勝手に戻っていく。

屋敷を彩るガーデンでは小さな雲が雨を降らせて、花は光魔法で咲き誇り、雑草は闇魔法で消滅する。

火と水と風の複合魔法で部屋の温度と湿度を調節して快適な状態に保つ。


とめどなく魔法で指示を出す指は美しく滑らかで、まるで演奏をしているかのようだ。



朝食は前日に仕込んでおいた具材を目にも止まらない手さばきで調理し、

ものの10分後にはにいい香りが立ち込めてくる。



旦那様とお嬢様は7時に起こす。


「最適化、完了っと。今日も朝の仕事は終了だ。5時15分。よし、寝よう。

 それにしても昨日は飲みすぎたな・・・。」



出勤して早々におそらく従者15人は必要であろう業務を難なくこなし、

ベルーゼはソファーに腰を掛けて、リズムよく寝息を立て始めたのだった。






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「おはようございます。旦那様。お水とタオルをお持ちいたしました。」


先程まで飲みすぎで仮眠を取っていたとは思えない程さわやかな表情で屋敷の主を起こす。



「おはよう、ベル。今日もとんでもない仕事ぶりだね、屋敷がとても過ごしやすい。

 いつもありがとう。使用人を何人も雇ったとしても君には叶わないよ。

 本当にうちの執事でいてくれるのが申し訳ないくらいだ。」


アランは穏やかな笑顔を浮かべ、身支度を進める。


「恐れ入ります、旦那様。私はグレイス家の皆様に大きな恩があります。

 こちらで働かせていただいて、少しでもお役に立てるのならば、光栄でございます。

 朝食が出来ておりますので、お待ちしております。」



アランが感謝の言葉を贈るのは毎朝の日課になっている。

屋敷の主が使用人に毎朝感謝をするのは不思議なことかもしれないが、

実際、ベルーゼは何もかもが規格外で、

同じように魔法を使ったら3秒と持たずに魔力切れを起こしてしまうだろう。

そもそも、すべての魔法属性を使いこなすということが普通の人間には到底出来る事では無い。




ベルーゼはアランの部屋を後にすると、

魔力を込めると画像を記録出来る小型の水晶を手に持ち、

どんなに飲みすぎたとしても、早朝から勤め続ける最大の理由のもとに向かう。






軽く三つ編みで束ねられた美しいプラチナブロンド色の髪。

色白で吸い付くようなきめの細かい肌。小柄で細身だが、豊満なバスト。

小さな顔にすっと通った小さな鼻、可愛らしい唇。目を閉じていても分かる長い睫毛。

すやすやと眠る可愛らしい女性は、とても整った顔立ちをしている。



ベルーゼはパシャリと水晶に寝顔を映し、記録を残した。

これも毎朝の日課で、膨大な量となっているがきちんと日付順に整理されて厳重に保存されている。



(・・・今日もアリス様は可愛すぎる。この地に舞い降りた天使。

 こんなにも素晴らしい人に出会わせてくれた神に感謝だ。

 ああ、愛おしい。愛おしい。抱きしめてしまいたい。天使。)


「・・・・・・・・・ベルーゼ。もう起きているわ~。」



恍惚した表情で穴のあくほどの視線を向けるベルーゼに、

アリスはゆっくりと目を開けて、宝石のような美しい薄い紫色の瞳を向けた。

おっとりとした喋り方に、困ったような色が浮かぶ。



「おはようございます。お嬢様。本日の朝食はお嬢様の好物、

 バナナスムージーにチョコレートを入れますよ。」



ベルーゼは悪びれる素振りもみせず、

恍惚とした表情から瞬時にさわやかな笑顔に切り替えアリスに向けた。



「おはよう、ベルーゼ。嬉しいわ。とってもいい香りがしたから、目が覚めたの。素敵な朝ね。

 魔法でも作れるでしょう、なのに貴方はいつも心を込めて手を掛けて料理を作ってくれる。

 それがとっても嬉しいわ。」


「勿論です。お嬢様には魔法ではなく、

 私自身の手で作ったものをお召し上がりいただきたいのです。」


「ありがとう。でも、先ほどの水晶は渡して頂戴ねぇ。」




ベルーゼはがっくりと肩を落として渋々水晶を渡すのだった。


(まあ、データはもう保存用水晶に転送済みだけどね。)




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