シンクロ
「好き、貴方が好きよ…」
ギュッと抱締められ、耳元でそう囁かれたら、抵抗を失ってしまう。別嬪さんな、見知らぬ女の子。僕は、思わず「僕も…」と答えた。
女の子は嬉しそうな反応を示し、「じゃあ、一緒に居ようね」と意味深げな言葉を残し、其処で目が覚めた。日が僕を照らし、今日も朝を告げる。
「……なんだぁ夢かァ…」
肩を竦ませ、何気無く天井に視線を移すと、さっきの女の子が居た。…え?浮いてる。しかも、影が無いし、まさか…。女の子はゆっくりと瞼を開け、「お早う」と挨拶してきた。
巴戸中学校に通う浅倉楓斗は、特異体質になってしまった。理由は、上記に出てきた女の子、蘭子のせいである。
蘭子は既に亡くなっており、現在は幽霊である。其の彼女が見える様になってからというもの、楓斗は幽霊が見える様になった。勿論、霊から話掛けられる事もよくある。
其の御蔭で、楓斗の目には隈がくっきりと浮かんでいた。授業にもついていけず、よく保健室でサボる日々。そんな彼に、蘭子は「義務教育だからって、甘えちゃダメよ!」と注意したが、無視された。蘭子はムッとした顔で楓斗を見る。
「…誰のせいで、寝不足だと思ってんだよ?」
「何それ!?私のせいだって言うの?だったら、あんな奴等(蘭子以外の霊)無視すれば好いじゃん!」
「……其れが出来たら苦労しねぇーよ」
蘭子に背を向ける様に寝返りを打ち、楓斗は窓越しに映る外の風景を見た。同学年の男子達が、下心丸出しで女子達に一緒に遊ぼうと誘っている。其の中に、楓斗が密かに思いを寄せている天蔵彩愛も居た。
「…彩愛ちゃん……っ」
蘭子に聞えない様に呟いたつもりだったが、彼女にはまる聞えだったらしく、「サイッテー!」と罵声を浴びせられた。楓斗は、今迄溜っていた怒りが爆発し、上体を起すと蘭子の方へ向直る。
「あのなぁ…、僕は、君よりもずっと前から、好きな子が居るんだよっ!君みたいな幽霊なんかじゃない!ちゃんと生きた女の子だ!…もう、付き纏わないでくれっ!」
「な、何よ!貴方が、私の告白をオッケーしてくれたんじゃない!!そんなの勝手過ぎるわッ!」
「だ・か・らぁ、其れは誤解なんだよ!まさか、其れが現実になるなんて思いもしなかったし、其れに、ノリでオッケーする事だってあるだろ」
「じゃあ何?私の告白も、ノリでオッケー出したの?あんなに必死で言ったのに、全てがノリ?」
「あぁそうだよ」楓斗がチラッと蘭子の方を見ると、蘭子は今にも泣出しそうな顔で俯いていた。楓斗の中で罪悪感で胸が痛んだが、直ぐに其の感情を振り払った。
「…分ったら、もう僕の目の前に現れるな。迷惑だ」突放す様に言った後、鼻を啜る音が聞えた。「御免ね…」と言う声が聞えてから、蘭子の気配がしなくなった。
「蘭子…?」
振返ったが、彼女は既に居なかった。楓斗は腰を上げると、保健室を飛出し、蘭子を捜す。だが、幾ら校舎の中や外を捜しても見付らない。――と、すると、校内から出て行った事になる。自分から突放したくせに、彼女が見えなくなると捜す己に、楓斗は何故か可笑しくなった。失ってから気付く事があると、誰かが言った。多分、今の彼みたいな状況に立った瞬間、初めて其の物の大切さを身を以て知る事だろう。
「…浅倉君?こんな所で何してるの?」
今は、丁度昼休み。彩愛は不思議そうな顔で、楓斗の事を見ている。楓斗は「いやぁ~ハハッ…」と笑って誤魔化したが、彩愛はワザとらしく溜息を吐き、「何、笑ってるの?」と怒ってしまった。
「幾ら義務教育だからって、授業に出ないのは如何かと思うけど?」其の台詞は、さっきも似た様な事で注意された気がする。楓斗は少し考え、蘭子の顔が過った。
「……蘭子!?」
「えっ?」
「天蔵っ!アンタが、蘭子なのか?」
乱暴に彩愛の肩を掴み、楓斗は何度も「蘭子なのか?」と同じ事を聞く。普通、彩愛の立場だったら此の場合、楓斗を突飛ばし此の場を逃げる様に去るのだが、何故か彩愛は拒まなかった。其れ処か彩愛は涙を流し、楓斗を自身の胸の中に収め、彼の背に腕を回した。
―――――どの位の時間が経ったのだろう。授業が始まるチャイムが鳴り、校内は静けさに包まれる。
楓斗がハッと我に返り、彩愛から離れようとしたが「ダメ!…まだ、此の侭で居させて…」と言われ、動きを止めた。ふと、彩愛に対し疑問を思った。
「…何で、“蘭子”って名前に、泣いたの?」
何だか聞いてはならないとは分っていたが、如何しても気になってしまい、つい口を滑らす。すると、彩愛はゆっくりと顔を上げ、「私の、双子のお姉ちゃん、だった人だから…」と答えてくれた。
――「だった」詰り、過去形。三年前、蘭子が亡くなった。理由は居眠り運転中の車と衝突し、即死だったそうだ。仲が良かった双子の姉妹である片割れ、彩愛はショックの余り感情を表に出さなくなった。
そんな彼女を面白半分で虐める輩も現れた。彩愛は不登校になり、外出もしなくなった。そんなある日、何時もの様に遅い時間に起き、テレビを見ようとリモコンに触れた瞬間、ブラウン管に蘭子が映ったのだ。しかも、生前の頃と変らない笑顔で「何って顔してるのよ!」と言ってきた。
当然驚いた彩愛だったが、一歩ずつテレビに近付き、不思議と冷静に此の状況を受入れた。蘭子に縋る様にテレビに抱き付き、声を押し殺して涙を流す。
蘭子はこう言ったそうだ。「もし、辛い事や悲しい事、恐い事があったら私が貴女を守ってあげる」と。其れっきり、彩愛は蘭子に会っていない。
「……でも、今日お姉ちゃんに会えたの…。浅倉君、貴方の御蔭よ」
「……………」
無邪気に、そして何処か切なげに笑う彩愛。初めて見た表情に、楓斗はギュッと心臓を掴まれる感覚に陥った。そして、心の奥底から彼女を守りたいと思った。
「天蔵」
「…なぁに浅倉君?」
「僕は君を守りたい。もし宜しければ、三年後、僕と結婚して下さい」
晴天の中、突然雪が降った。一組の男女を包み込む様に。少年は真直ぐ少女を見詰め、少女は茹蛸状態。そんな二人を遠くで微笑みながら見詰る優しい光。
「彩愛を宜しくね、楓斗」
終
後書き
切な系を書きたかったのですが、話がグダグダに…(>_<)
初出【2011年2月16日】をほんの少しだけ加執筆修正する際に読み直して、、、
当時、恋愛系をめちゃくちゃ上手く描ける様になりたい‼️と書いた作品だと思います。(u_u)
そして玉砕…。。




