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夢の中だけでも、  作者: 万結ななの
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始まり

「というわけで方丈記のこの部分を誰かに音読してもらいたいと思います。えー、じゃあ、今日は3月10日だから3×10で30番、松野さん」

「え、あっ、はい!」

親友が当てられてるななんて思いながら、盗撮してやろうかとこっそり机の下でスマホの画面を開く。

え、なんかめっちゃ通知溜まってる。

赤い数字の中に63と書かれていて、なにこれ怖いんですけどー、と心の中で呟きながら開くとそこには、Sui Kawaseの文字があった。

川瀬垂。隣の隣の隣の家に住んでいる同い年の男の子。垂が中学受験するまで幼稚園も小学校も一緒でいつも一緒に登校したり、長期休暇は家族ぐるみでキャンプに行くのがお決まりだった。正直、初恋だったと思う。多分お互いに。バレンタインは必ずあげてお返しももらっていたし、夏休みの宿題は何かと理由をつけては垂の家に転がり込んで一緒にやった。花火大会には毎年、一緒に行ったり、同じ塾に通いたくて入塾テストを受けたら一番下のクラスで1ヶ月でやめたり、しまいには、合格祈願のお守りまで名前入りで作った始末で今考えるとなんだかとても積極的な女だったなと恥ずかしくなる。でも、それも小学校卒業までの話。垂の合格した中学校は名門私立で東京のど真ん中。要は神奈川の端っこから通うには遠すぎた。気づいたら隣の隣の隣には全く知らない家族が住むようになってもう5年目に突入しようとしている。

最後のLINEは緑の枠の中にいる「東京行っても頑張ってね」で終わっているはずだったのに。

何回も会いにいきたいと思った。

それか、ある日急に訪ねてきてくれるとか。

でも、わかっていた。そんな日は来ないと。垂はなにも言わずに私の前から消え去ってしまったから。

スマホを持つ手が震える。

垂を失った時の悲しみと再び話せることの喜びがごちゃごちゃになる。多分相当酷い顔をしていると思う。周りが寝ている古文の授業途中で本当に良かった。

垂が消えてからずっと、本当はLINEもしたかったし、インスタも交換したかった。


だけどそんなことは無理だってずっと思っていた。

だって、


4年前のあの日、川瀬垂は死んでいる。






少し落ち着いた私は、意を決してというにはそこまで重いわけでもなく、気づいたらメッセージを開いていた。


「りのー!元気ー?」

「おーい」

「りの?」

「あ、もしかして授業中?」

「今日平日だもんね。」

「りのってもう高校生?」

「うわー」

「まじ早いなー」

「ねねねねね」

「おーい」

「授業長くね?」

「こんなもんだっけ?」

「あ、もしかしてスマホ禁止?」


そこからはひたすらに大量の連投スタンプでおやすみモードにしてて良かったと思わざるを得なかった。うっかり設定をし忘れた暁には、先生にばれるどころじゃなかったはずだ。

スタンプをスクロールしていくと、垂が好きだったアニメキャラのやつを見つけて嬉しくなる。


ピコンッ

新着メッセージが届きました、とご丁寧に案内してくださるのでスクロール途中なのを少し気にしながらも最新メッセージへ飛ぶと、

「あ!!!!」

「既読ついたーーー!!!!」

「お久しぶりです!」


「本当に垂なの?」

無意識に手が文字を打っていた。


「うん。俺もびっくり。」

「死んだと思ってたのに。」


「えまってまって状況把握できない笑」

なんでこういう時までちゃんと、笑、とか打っちゃうかな。え、てかこの状況なに。初恋相手兼死人とLINEしてるんですけど。あと、すごいハイテンション。元々こんな感じだったけどさぁ、もし本人だったとして4年も経つんだから、死人らしくちょっとは悲壮感漂わせたりしないもんなのかな。


「いきなりになちゃって申し訳ないんだけど」


「うん」


「一つだけ思い残したことがあって」

「それを、どうしてもしたくて」


あ、もしかしてこれは少女漫画によくあるパターンじゃないですか。


「手伝おうか?」




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