アシッド・シャワー
「カッコイイーッ!!」
「言ってる場合ですかっ!絶対出てきちゃ駄目ですからね!」
ゼルベルがそう叫んで荷台から飛び出すのに続き、伊香保もよいこらせと地面に降りた。
「いっ...いでで!!何コレ!?どういう状況ッ!?」
座席から滑り落ち、神社の地図記号のような体制で目覚めた元女神も大騒ぎし始める。どうやら手綱を握っていた五反田も、ゼルベル達と共に行ってしまったようだ。
「いたた...ちょっと!何で誰もいないの!?」
「ん」
目覚めの悪い元女神の怒りを受け流すように、黙って荷台の外を指差す。
「一体なにがうおおおおおおでっっか!!!ナニアレ!?」
「ドラゴンだって。カッコイイよなぁ」
「...何でそんなに余裕そうなの?死なない?普通に死なない?我たち」
「いやまあ...あの三人がいるし...」
「そっか...でもあのドラゴン、こっちに向かって口開けてるけど」
「...え?」
「なんか光ってるけど!?」
「え!?」
「なんか飛ばしてきたけどーーーッ!!??」
「えーーーーーーーッッ!?」
*****
馬車に向かって吐き出された液体に向かって飛び上がり、剣を振るって吹き飛ばす。
「召喚者様、手綱を!とにかく遠くに逃げて下さい!!」
踵を返して離れていく馬車を見届けると、飛び散った液体に触れた剣や鎧から、焼けるような音と細い煙が上がっている事に気がつく。
「これは...!」
着地と同時に急いで剣を振り、黄緑色の奇妙な液体を払い飛ばす。
「ゼルベル殿ーッ!無事でござるかッ!」
「大丈夫です!皆様、アイツの吐く液体には絶対に触れないでください!強力な酸です!」
「了解でござアッ」
こちらを振り向き、グッとアピールしてきた五反田の上に、大量の酸がこぼれ落ちた。
「アーーーーーッッッ!!!!」
「ちょ...えっ、えーーーーーッッ!!!」
その姿が見えなくなる程に酸に埋もれてしまった五反田を前に、触る事もできず慌てていると、突如大量の水が浴びせ掛けられた。
「伊香保さん!」
「と...とりあえず洗い流せばいいんですよね!?」
「ええ!お願いします!」
暫く水を掛けられた五反田は、徐々にその姿を現し始める。が、地面に倒れ、全身から煙を上げる彼の姿は、どう見ても無事ではない。
「オ...オアアアアア...」
「だ、大丈夫ですか!?伊香保さん、回復魔法を!」
口ではそう聞くものの、あれ程に強力な酸を全身に浴びるほど喰らってしまったとなれば、助かる見込みも期待は...
「で...で...」
「何ですか!?で?」
「デトーーーーーックス!!!」
「...え?」
半ば諦め掛けていたその時、豪快な金属音を鳴らしながら、五反田が勢いよく飛び起きた。
「いやぁ、鎧の錆やら汚れやら、すっかり溶けてピッカピカにござる!!」
「そ...そうですか...」