オトナの事情
「...うむ、皆よく集まってくれた」
透明人間事件から数日後、早朝からの魔王からの呼び出しを受け、俺と元女神、五反田に伊香保、そしてゼルベルが一堂に会した。
「先ほ」
『朝早いーまだ寝たいぃ〜』
「こらっ」
「いや違...我が言ったわけじゃ...ああごめんなさいナイフ出さないでっ!!」
「...先程、チート保有者を発見したとの情報が入った」
懐からナイフを取り出すシィルさんを一瞥して静止した魔王が、再び言葉を紡ぎ始める。
「魔王軍領の僻地にある村で、移動には相応の時間を要するが...皆にはこれを早急に対処しにいって貰いたい」
いままでに相対してきたチート達の多くが襲撃してくる側だったとはいえ、魔王が直々の指令、それも早急にとなると、一抹の不安を覚える。元女神も違和感を感じたのか、こちらの服の裾を引っ張り、耳打ちしてくる。
「おいっ...もしかして今回のチート、めちゃめちゃ強いんじゃ無いかっ?」
「俺に聞くなよ...ゼ、ゼルベル?」
隣で跪いているゼルベルの硬い鎧をこつこつと叩く。
「えっ、あ...はい...魔王様、対象の保有する能力の詳細などは分からないのでしょうか」
「うむ。報告では『農作物を魔法のように次々と生産している』らしい」
それは大変だ。農作物を次々と生産できれば、その村が飢えることは無いし、よもすれば世界中にその食材を売って大儲けする事だって...あれ?
「別に悪い事は何一つないんじゃあ...」
「でござるな...魔王様、ここはまだ様子見をしていても良いのでは...」
「いや、それは不味い」
「な...なんで?我の仕事も減るしいいじゃん!あ、今はスノアの仕事か...」
「むぅ...」
魔王の表情が曇る。兜で見えないが、まあ声色からして神妙な面持ちをしているのだろう。
「この事態に早く収集を付けておかねばだな...」
「付けておかねば...?」
その場にいた全員が固唾を飲み、魔王の言葉を待った。
作物を生産するチートを放置していると起きる弊害...まさか、世界中の大地が枯れて滅亡するとか、作物の神が怒って全ての畑を焼き尽くしにくるとか...!?
「農作物の価格が急落し...他の農業従事者が軒並み死ぬ」
「お...大人の事情...!」