売り切れ御免
「ハァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜...」
「あの...カイ殿?そんなに落ち込まなくても...」
ガシャガシャと脱ぎ捨てている最中の鎧が口を開く。変身ポーションが切れた今、修復前の彼を身に纏って正体を隠す、という手段は良かったのだが...
「というかこのやり方、雑すぎではござらんか?途中カイ殿が力を抜くから、首がもげかけたでござるし...」
「...うるさい」
ともかく、まさかあの早さで買いに戻ったと言うのに、無くなっているとは思わなんだ。手に入らないとなると、あのアイテムで得られたであろう快感がどんどん恋しくなっていく。このフラストレーション、何か新薬の開発にでも使うか、などと考えていると、部屋の扉が開く音が耳に届いた。
「ただいま帰リました」
「お、お帰りなさい所長っ!」
「いやぁ〜、着られるのなんて何百年振りでござったかねぇ〜...」
「...もしかして、お取り込み中でしたか?その...彼と」
「そそそそんなんじゃないデスッッッ!!」
「ですヨね。これ、面白いものを手に入れたので、貴女に」
「これ...って」
所長が懐から取り出したのは、喉から手が出るほど欲しかった例のアレ。まさか、所長が先に買っていたとは...
だが諦めていた物が不意に手に入るほど嬉しい事もない。研究に支障が出ない程度に、今夜早速試して...
「使い方も彼ニ教わってきましたよ。やってあげましょう」
「...えっ!?い、今!?所長が!?」
「えエ、是非遠慮せず」
「いやちょ...鎧君もいるんですよ!!そういう事は夜...あ、ああーーーーーッッ!!!!」
*****
「.........」
「どうですか?ワタシはあまり分カりませんでしたが、気持ち良いでしょう?」
「...キモチイイデス」
後ろに立つ所長が道具を動かすと共に、頭皮の上を優しく撫でるような感覚が繰り返される。気持ちいい...気持ちよくはあるのだが...
「...すみません、いかんせん生物の感覚には疎い物デ。カイさんの求める気持ちよさでは無かったですか?」
「アッ!?い、いや気持ちいいです!アーキモチイイナァ!」
「それはそれは。貴女が夜な夜な自室で作成している薬と同じ効果が有れば良か」
積み上がった鎧の山は、安らかに寝息を立てている。咄嗟に所長の顔面を砕いた裏拳も、所長の言葉も、彼には届いていないハズ。
「...あっ」
文字通り潰れた所長の顔面を見ていると、ある事を思い出した。
「伊香保ちゃん、ごめん...」
「いやぁ、感覚に疎くて良かっタです、ホント」
「ふやぁあぁあ...やぁ...エイトさぁん...何ですかこれぇ...」
「お前が欲しがってたヤツだろ〜?ほれほれ、好きなだけやってやるぞ〜」
「あぁ...これ...だめぇ...」