来店、退店
「...暇だな」
せっかく魔王に店を作るスペースを作って貰ったというのに、あまりに暇だ。というかここ立地が悪すぎる。かなり人員がいる魔王城のくせに、ここじゃ人が通る事すら稀である。まあ、今日は珍しく二人も客があったが...
頭の中で愚痴っていると、廊下の奥から足音が聞こえてきた。
「いらっしゃ...なんだ五反田か」
「ご...ござ」
見慣れた顔を前に、少し落胆する。だが、先日の爆発でまたバラバラになった体が治ったようで安心だ。
「...まだ本調子じゃないんじゃないか?歩き方...変だし」
「そ、そんな事ないでござる!それよりその...アレ、あるでござるか?」
「...アレ?」
「えーと...あのー.........え、ああ、頭に使う...」
「頭に使う...?」
...いや、そもそも五反田がここに来るのは初めての筈だ。ここの商品を知ってる訳が無い、という前提が、どんどん答えを分からなくさせていく。
「......え?き、気持ちいい??」
「...ああ、アレか!」
正直俺も名前を知らない、頭に使うなんかよく分からない壊れた泡立て器みたいなヤツ。どこから噂を聞きつけたのだろうか...
「すまん、アレさっきちょうど売れちゃったんだよな」
「やや、それはそれ...」
そう言いかけていた五反田の首が、上を見上げるようにもげた。
「わーーーーーーーーーーッッッ!!!!」
「失ッ敬ッッ!!!!」
自分の頭を引っ掴み、ガッションと首元に戻す五反田。
「おおお前そんなに取れやすかったっけ!?」
「き...今日は天気が悪いでござるから...」
「偏頭痛かよ...しかも具が出てなかったか!?お前中身空っぽの筈だろ!?なんか、こう...死んだ魚みたいな顔があった気がするんだけど!」
「き...気分でいたりいなかったりするんでござるぅ!」
「お前...まあいいや...なんか怖かったし...」
そんな気分屋なおぞましいものに呪われたりするのも御免だしな。
「ともかく...お前その鎧の頭じゃアレだって使えないだろ?」
「そうなんでござるか?......いや、それはあまりにも...」
「...五反田?」
「あの...い、伊香保殿が...欲しがってたらしい...で、ござる...」
「へー、伊香保が...」
「フグッ」
「えっ」
突然五反田の首が九十度、捻じ曲がる様に回転する。壊れた玩具の様な挙動に若干ビビる。
「えっと...し、失礼したでござる!また後ほどにござる〜ッ!」
余程ショックだったのか、ぎこちなく歩き去っていく五反田を見送る。再び客の来ない静寂に辺りが包まれ始めると、どこからともなくザンセツが目の前に姿を現した。
「うわびっくりしたぁ!!」
「いい加減慣れてよ...それより、気付かなかったの?」
「...え?」
「はあ...じゃあ余計な事言うのはやめておこうかな...」
ザンセツが何を言っているのかよく分からなかったが、ともかくスケッチの練習を続ける。またアレが作れたら、伊香保に持っていってやるか...
「そういえばお前、透明人間騒ぎの時は手伝ってくれなかったよな?」
「え、あ...いや...流石に全裸の男を相手にするのは...」
「お前そのカッコで何言ってグボァ!!??」