秘密のポーション
奥の部屋で作業している所長に聞こえないように、ゆっくりと研究所の扉を開き、中に入る。先日の爆発で荒れ果てたはずの部屋はすっかり修繕され、床や壁、机などは新品同様に。そして、ものの数日で書類や実験途中のポーションで溢れ、散らかりまくっている。
書類を踏まないよう、なるべく音を立てないよう、そろりそろりと自室に向かう。確か、つい最近作った変身できるポーションがあった筈だ。所長にもまだ見せていないとっておきのポーション、アレさえあれば、すぐにでもあの商品を買いに...
「おや、おかえリなさい」
「ウワーーーーーッッッ!!!」
突如掛けられた声に驚き見ると、所長がお気に入りのカップに入れた紅茶を揺らしながら、すぐ横に立っていた。
「どうしまシた?」
「い...いえ何でも!そ、それより今日使う資料忘れてきちゃったんで、一旦部屋に荷物置いて取ってきます!」
「ああ、それなら大丈夫ですよ。今日は、昨日ノポーションについて、詳しく聞きたいだけですので」
「...昨日の...ポーション?」
おかしい。昨日、何か個人的にポーションを調合したわけでもないし、ましてや錬金術なんてここ最近使ってもいない。昨日は、部屋の整理して書類まとめてご飯食べて酒飲んで寝て...あんまり記憶が無いな...
「昨日、夜中に貴女が見せてくれた変身ポーションですヨ。いやあ、あれには中々関心させられまシた」
「...もしかしてアタシ、酔って...?」
「はイ。ベロベロでしたね」
「うおああああああ...!!」
とんだ馬鹿野郎だ、まさか一本しかない変身ポーションを酒の勢いで使うなんて...!あああもっとちゃんとした場で発表しなきゃいけなかったのに...しかも何も覚えてないってなんだ!?記録も何も取ってないし...!せめて、せめて情報だけでも!
「...ちなみにアタシ、誰になってました?」
「...さあ、誰デしょうねえ」
おああ所長が分かるヤツに変身しろアタシいいいッ!もしかして一晩中スベリ倒してたのかアタシ!?
「...はっ」
しまった、今はそんな事を考えている場合ではない。あんな合法かどうかもわからない商品、すぐにでも売れてしまうだろう。ただポーションの調合には時間が掛かる...何か他に手は...
「...アイツだ」
「...カイさン?」
「所長!この後どっか行きますか!?」
「え、ええ。休憩がてラ散歩にでもと...」
「じゃあ今行ってください!すぐです!!」
「あっ、えっ、ああ、はイ...」
困惑する所長を部屋から押し出し、扉を閉める。誰もいなくなった部屋を横切り、実験室の奥に掛かっているカーテンを開き、そこに転がっているバラバラに積み重なった鎧を見下ろした。
「えーと...物凄くイヤな目をしてるでござるな...?」