異世界屋
研究所までの廊下を歩いていると、ふと見慣れないものが視界の片隅に映った。壁の一部がくり抜かれ、出店...?のようになっている。
「...へぇ」
急ぐ用事でも無し、寄って品揃えを見てみると、見た事もない物ばかり。素材の検討すら付かないものも大量に積まれている。
「いらっしゃいませー...あっ」
カウンターの奥から顔を出したのは、先日出会った召喚者の...エイトだったか。
「この前は巻き込んで悪かった。怪我は無かった...んだよな?」
「俺と元女神は伊香保が守ってくれたから一応大丈夫...えーと」
「カイ」
「カイは?」
「アタシも所長が庇ってくれたからノーダメ。残念ながらね。ところでコレ...なんだい?」
「チート能力の練習してたら物が貯まって...魔王に相談したら、ここで店でもやってみろって言うからさ」
「異世界の品物かぁ...通りで」
「良ければ見てってくれ。あとコレお菓子」
「...コレこの前所長が食ってたヤバそうなヤツじゃなかったか?」
「コレは大丈夫な方!!ちゃんとお菓子!チョコレート!」
「うん...うん、美味しい」
かつてなく甘いお菓子をつまみながら、商品にざっと目を通す。なるほど、面白そうなものが沢山ある。
「...コイツは?」
「それは竹トンボ。こうやって回すと...なんか凄い飛ぶ」
「何というか...古代人のオモチャだな。この武器っぽいヤツは?」
「服の毛玉とか取ってくれるヤツ」
「...それ要るか?」
蓋を開けてみれば大した事無さそうだと落胆していると、ふと店の奥に目を引くものを発見する。細い棒状の持ち手の先から、何本もの細い針金の様な物が飛び出し、瓜状に形作っている。
「...その、変なヤツは?」
「ああ、コレ。めっっっっちゃ気持ちいいヤツ」
「き...気持ちいいヤツ...!?」
その極めて細いタコの様な形状からは想像もできなかった言葉に、思わず背筋が震える。
気持ちいい...あの形状で気持ちよくなるにはどうするんだ!?あの様に巨大な物をこう...まさか、ああする訳にはいくまい...!?
「そうそう。頭に使うんだけどさ」
「あ...頭!?」
頭にアレを!?という事はなんだその...刺すのかッ!?あの無数に別れた針金の様な物を脳に直接刺して気持ちよく...とかそういうのか!?駄目じゃん、その場はイイけどその後の人生がダメになるじゃん!
「元女神に使ってみたんだけどさぁ...」
「つつつ使った!?」
こいつ人畜無害そうな唯の人間のフリして、実はとんでもなく猟奇的な...いやまさか、流石に他人の脳を破壊する様な悪人では...
「そしたらアイツ、変な声出してひっくり返っちゃってさ」
「聞いてる方が倒れそうだ...」
だがしかし......欲しい。何としてでも手に入れたい、ひっくり返るほどの心地良さ。とはいえ、淫魔である事を隠している以上、この場で商品を買う事はできない。替え玉を用意する訳にもいかないし...というかこんな道端でヘンな物を売る方が悪いだろ!
「...」
「...カイ?」
だったら...アレをするしかない。多少副作用があるものの、アレを使えばどうとでもなるだろう...よし、イケル!待ってろ超快感!
カイの奥底で眠る淫魔の血が、ドンドコドンと騒ぎ始めた。