透明人間カーニバル
「チ...チートだーッ!!!!!」
所長を除く全員が慌てて席を立ち、散らかった部屋の中を見回す。
「へっへっへ...今度はこの部屋を荒らしてやるゼぇ...!」
何処からか透明人間の声が聞こえるが、反響で何処から聞こえてくるのか分からない。
「ど...どこにいるでござるかァ!!」
「五反田危ないッ!剣!剣振り回すなッ!!」
混乱して無闇矢鱈に剣をぶん回す五反田を押さえる。元女神が適当なシャドーボクシングを空間に打ちまくっていると、再び透明人間が話し始める。
「よし...じゃあまずは大量にあるポーションをぶん巻いてやるゼ!!」
「一定の衝撃で大爆発すル物もあるので、やめておいた方がよろしいかと」
「...じゃあ大事そうな資料とか本をぐしゃぐしゃにしてやるゼ!」
「生物が見タだけで狂ってしまう古代文字もありますのでお気をつけて」
「.........その熱々のティーポットをお前らにかけて...」
「もウ空ですよ」
「クソーーーーーーーッッ!!!!!」
透明人間の怒声と、足音こそ聞こえないが何かが空間を動く気配。再び剣を引き抜こうとした五反田を押さえながら、部屋を見回していると...
「きゃあっ!?」
近くでオロオロしていた伊香保が、突然甲高い悲鳴を上げた。
「ど...どうした伊香保!?」
「お...お尻、触られ...」
「こッ...このクソボケがァーーーーッッッ!!!!」
低俗な悪戯にシフトし始めた野郎への怒りに、咄嗟に手を挙げて五反田を解放する。勢い良く抜刀した五反田は、なんやかんやと叫びながらそこら中で剣を振り回し始めた。
「ござーッ!!!」
「あっぶねぇ室内だぞ!!クソ...こんな事で退散すると思ったら...」
五反田の暴走を止める者と、伊香保を慰める者で、誰も透明人間を追跡できていない。声が聞こえる方向を手掛かりにそこら中を見回していると、カイの背後にあるガラス瓶が、誰も触れていないのに少し揺れ動いた。
「う...後ろだーーッ!!」
「大間違いだゼーーッ!!!」
カイが振り向くより早く、羽織った白衣が揺れ動いたかと思うと、体のラインにピッタリと張り付き、微かに手形に沈む。
「頂きィーッ!!」
透明人間の大声と同時に、カイの白衣がバサリと捲り上がり、新鮮な尻肉が千切れんばかりに弾けた。
「う...あぁんっ!」
白衣の下に黒い翼をちらつかせながら、部屋中に響き渡る艶かしい悲鳴。尻撫でられただけでそんなになる?という考えは全員一致だったようで、五反田や伊香保、元女神はともかく、透明人間までも
「うえ...え、あれ...?」
などと狼狽しまくっている。というか、狼狽しすぎて白衣の裾が振り上げた手にひっかっかているのにすら気付いていないようだ。
「この...童貞人間がァーーーーッッ!!!!」
「オヴアーーーーーーーッッ!!!」
見えない敵に向かって、元女神全力のドロップキックがぶちかまされる。勢い良く吹き飛んだであろう透明人間は本棚にぶち当たり、衝撃で降り注いだ辞典のように分厚い本の下敷きになった。
元女神は息を切らしながら、倒れた透明人間の元に歩み寄り、腕を組んで大きく息を吸い、叫ぶ。
「慣れてないなら.........やるなッッッ!!!!!」
珍しい、正論である。正論ではある、のだが...
元女神とカイ、伊香保にすら、段ボールを畳むときのように全力でストンプを繰り返される透明人間を横目に、何だか少し可哀想な気持ちを抱きつつ。テーブルに置かれたお茶は、すっかり冷め切っていた。