雑食
「ほう...ホう、ほう!大変興味深い!!」
俺のスケッチブックとペンをまじまじと見つめ、大興奮している様子の所長。元女神の機嫌はマシになった気がするが、黙って菓子を喰らい続けているので本心は分からない。
「それで...どのように物質の現実化を?」
「どうって...普通に描くだけだぞ。例えば...何を描くか...」
「お菓子!!甘いの!!」
「ああ、はいはい...」
机を叩いて催促する元女神を傍目に、何を描くか考える。お菓子で甘いの...小枝でいいか。みんなでつまめるし。
「えーと...確かこんな風に...よし」
ポンポンポンと音を立てて小枝がスケッチブックから実体化し、空になった皿の上に積み上がっていく。黒くて、鋭い棘があって、金属質で...あれ?
「これまきび...」
「こレが貴方の世界の食べ物ですか。では一つ頂きマす」
俺と元女神が声を上げる間もなく、所長が重たそうな撒菱を皿の上から一つ取り、裂け目のように現れた口に放り込んでしまった。
「ちょっとま」
俺の制止の声を掻き消すように、ボリボリバキバキと激しく金属を破壊する音が響き渡る。平然と撒菱を噛み砕く所長に呆然と見ていると、そのうちに呑み込む音が聞こえた。
「鉄分は豊富に含まれてイますが...食物としての栄養素は皆無ですね。普段からこのような物をお食べに?」
「い、いや...そういう訳では...」
「緊急通信〜!緊急通信です〜!!」
突如として、何者かの叫び声が響き渡る。その場にいた全員が声のした方を向くと、積み上がった書類の山や散らかった実験器具しか目に入らない。
「......ばぁっ!」
と、書類の山が内側から弾け飛び、中から小汚い連絡天使が姿を現す。
「おヤ隊長さん。最近見ないと思ったらソんな所にいらっしゃったのですか」
汚れたベルを擦る連絡天使の頭を撫でる所長。満足そうに頭を委ねていた連絡天使は、そのうちにハッと思い出したように、再び叫び始める。
「はっ...ち、違うのです!緊急通信です!城内に何者かが侵入、各所で多数の盗難や迷惑行為に及んでいる模様です!」
「侵入者でござるかっ!?この魔王城内に!?」
「フむ...侵入者の特徴は?」
「それが...」
その時、連絡天使の言葉を遮るようにして、部屋の扉が勢いよく開き、大きな音を立てて閉まった。扉には誰も触れず、風も吹いていないのに、だ。
「なに今の...わッ!?」
静まり返る部屋に、元女神が持つネックレスのアラーム音がけたたましく鳴り響いた。
「侵入者は...透明人間です!」