女神解任
「せ...世界神!?」
「ふ...ふっふっふ!」
広い部屋に集まった様々な魔物達が響めき出す。なにせ光の柱の出力を完全に間違えてしまい、ド派手な破壊行為を伴う降臨になってしまったのだから仕方がない。本来ならばふわりきらりと神々しさ満点で降臨する予定だったというのに...
「...いや待て!襲撃者かもしれんぞ!」
「確かに...登場は凄かったが城がボロボロだ!神様がそんな事する訳ねえ!」
「そうだそうだ!みんな、奴を捕えろ!」
次第に魔物達はこちらに対して敵意を向け始めた。うむ、やらかしたなコレ。どうやって静めたものか...
「相手は子供だ!一捻りだぜ!」
「...子供ぉ?」
怒声飛び交う中、気になる一言が耳に届く。
「黙れ、動くな」
右手を翳し、周囲の生物に対して権能を行使した。
「...!?」
「...!!」
少々大人気無かったかもしれないが、こうでもしなければ今の状態を落ち着かせることはできなかっただろう。世界神としての権能である絶対的な力。これでここからかなりの距離にいる生物は一切の発声と動作を許されなくなる。
「よし、これでよ...」
「ぶえっくしょん!」
「え?」
誰も声を出せず、誰も動けないはずの空間で、何故かくしゃみが響き渡る。それも結構な声量で。
「.........失礼」
「え?うん?あ、あれ...?」
おかしい。権能は相当な距離まで影響を及ぼせる。少なくともこの城にいる者はその影響下に置かれるはずだが...もしや久しぶりの権能行使だったから失敗してしまったのか?いや、それしかない。
「だ...黙れ、動くな!」
豪華な玉座に座った魔王を中心とし、再度権能を行使する。右手を翳し、権能の影響下に置かれた魔王は、キョロキョロと周りを見回した後、周りの様子と自身の状況を理解した様子で、
「う...うー、動けんー...」
「動いてんじゃーーーーーん!!めっちゃ喋ってるしぃ!!!」
この世界作って、内部調整とか1000年続けてきた神様の権能が効かない民とかいる?いやそんなわけない、でも現に効いてなさそうだったし?勇者と魔王は確かに大分強い設定にしておいたけど...
「ま...まあいいや。システムのバグかなんかでしょ。どうせすぐ帰るんだし...ごほん」
気を取り直し、指を鳴らして権能を解除する。魔物達は動揺した様子であるが、すっかりこちらの話を聞く姿勢になったようだ。
「よいか民共!先刻に降り注いだ星の雨は神よりの試練である!この城を中心として世界に散らばった神の結晶を全て集めよ!さすれば、世界神である我がその実力を認め、なんでも望みを叶えてやろう!!」
「力の結晶...?」
「あの流星群か...!」
「なんでもって...凄えぞ!」
魔物達は互いに顔を見合わせ、今の与太話を信じきっているようだ。うーむ、それにしてもよくこんなホラ話を即興で考えついたものだ。我ながら何というペテン、恐ろしささえ感じてしまうが、こんな話をすぐに信じるこいつらも大概バカの集まりだな...
『ルヴィルフィール様、嘘ついちゃって大丈夫なんですか?』
思考通信でオフィスから見守っているスノアの声が頭の中に響く。
『大丈夫大丈夫、もう帰るし。我の帰還準備と例の転送の準備だけよろしくー』
『は、はい。わかりました』
通信を切り、再び差し込み始めた光の柱を確認し、バカな民共に別れを告げる。
「じゃ、我はここらへんで。なるべく早く集めるであるぞ...ぶあッ!!?」
光に包まれ、帰還のために再び浮き始めていた体が、突然地面に叩きつけられた。痛む尻を抑えながら、思考通信を繋げる。
『スノア!どうなってんのこれ!?』
『あっ、ルヴィルフィール様ダメです!局長にバレちゃいました!とりあえず通信を切らないとシステムが...!!』
『えっ、バレたって...スノア!?おーーーい!?』
慌てたスノアの声が途中で途切れ、そのまま通信が切断されてしまった。
「えーと...神様?大丈夫ですか?」
「だ...大丈夫なんだけど...あれー?」
『地上の皆様、聞こえますでしょうか?』
「うわ!なんだ!?」
「今度は声が頭に!?」
スノアの声が再び聞こえたが、それは周りの者達も同じようだ。
「スノア!これどういう事!?」
『えーと...今回の事が局長にバレちゃいまして...』
「マジ!?局長って...うわー最悪...」
『ルヴィルフィール様は世界神を解任、私が臨時で穴を埋める事に...』
「えっ」
『あと、そちらの時間で一年以内にチートを回収し切らなければ、この世界にリセットがかけられるそうです...」
「えっ、えっ」
『それと...言いづらいんですが、思考通信を途中で切断したせいでシステムがバグっちゃったみたいで...ルヴィルフィール様の考えた事が全て周りの皆さんに聞こえるようになってしまったみたいです...」
「エーーーーーーーーーーーッ!!!???」