騒動、静まり
結局、ザンセツの傷がぱっくり開いて大出血し、召喚者と元女神が大騒ぎしていたその頃、魔王軍はちょうど定時。皆が引き去ったオフィスの玉座で、魔王が事務仕事で凝った肩を回していた。
「むぅ...年か」
「あと何百年寿命が残ってるとお思いですか。後継者もいないと言うのに...」
シィルがお茶を出しながらため息を吐く。
「それに...彼女、久し振りに目覚めたようですよ」
「うむ。防衛隊隊長としての責任、全うしたようであるな」
「彼女があの力を自覚してくれれば、防衛隊の訓練プログラムに妙な内容を組み込まなくて良いのですが...」
感情が昂った際、限定的に解除される収納魔法により、異常なまでの防御性能を誇る防具と、未知数の魔力を保有する剣を装備。更に常時身体機能を向上する魔法が掛かり、眼前の敵勢力を徹底的なまでに蹂躙し、粉砕する。
終戦間近に発覚した、ゼルベルの保有する謎の能力である。
「その分には及ぶまい。然るべき時には、然るべき仕事をしておる」
「確かにそうではありますが...記憶にも残らないのであれば話になりません...」
「良いではないか。確かに、隊長としての技量は一向に足りぬ。だが、己が仲間を想い、あれだけ怒れるのであれば、その心意気や十分、強すぎる程であろう」
「強すぎる...ですか」
魔王とシィルが定時のティータイムを過ごしている頃、医務室では、懸命な看病を受けたゼルベルが、仲間達に囲まれながら目を覚ましていた。