ちん
「う...」
「あ、起きた」
魔王城の個室で目を覚ました、黒髪の少年を座って見守る。
「...ここは」
「魔王城。医務室からはお前が怖いからって追い出された」
「...なんで殺さなかった」
天井を見上げたまま、ザンセツが問う。
あの後、ゼルベルも意識を失い、駆けつけた防衛隊の隊員達に運ばれていった。【剣術SS+】のチートも大したもので、バッサリ斬られたように見えたが、咄嗟の身のこなしと受け流しで、何とか致命傷は免れたようだった。しかし意識は失ったようで、残った隊員達が殺すだ何だのと激昂し、気絶したザンセツを取り囲んでいた。
ただ、俺は異世界からの召喚者、元女神はアレでも元女神だ。多少の発言権はある。
「俺の住んでた所はめちゃくちゃ平和だったんだ。私刑だの処刑だのは、あんまり見たくない」
「はは...じゃあ、僕は君に救われたのか」
「救ったって程じゃない。けど、ちゃんと償いはして貰うからな」
ゼルベルを庇って斬られた二人も医務室に運ばれて行ったが、あの出血では助かってはいないだろう。
「ううん。あの二人は生きてるよ」
「...え?」
「凄い技術だった。ギリギリで避けて斬られるフリも、その後に赤い液体を垂らしながら死んだフリするのも。君達、いつもあんな訓練をしてるの?」
「あー...ああ」
確か俺と元女神もそんな訓練をさせられた気がする。ゼルベルの事を踏まえてあの訓練が組まれているとしたら、何か魔王軍の闇を感じてしまうが...
「...あ。それに、お前のチート...過剰能力もちゃんと取り出させて貰ったからな」
「......うん、もちろん。もう、あの力はいらないからね」
「...そうか」
少し物憂げなザンセツの表情に、コイツも訳アリかと勘繰ってしまう。だが、所詮俺にはどうしようもない、関係のない事だ。
「とりあえず、誰か呼んでくるからな」
「あ、ちょっと待...痛っ..!」
立ちあがろうとする俺の腕を掴んだザンセツが、突然苦しみ出す。急に動こうとしたから傷でも開いたのだろうか。
薄い布団を捲ってみると、ザンセツの全身に巻かれた包帯には特に異常はない。大方、固まった血が剥げたり擦れたりして痛むのだろう。
「しょうがねーな...包帯変えてやるから、体起こせ」
「はっ?い、いや大丈夫!」
「何でだよ?動くとホントに傷が開くからなー」
「おいっ、やめろって...!」
「男同士だろ?何も恥ずかしがる事ねーって!」
「おいっ、おぉーーーいッ!!」
やたら抵抗するザンセツを抑え、全身ぐるぐる巻きにされた包帯を外していく。全く、思春期の子供は変に恥ずかしがるから困る。それとも何か、アソコのサイズでも気にしてい...る......
「...ない」
「ふんッッッ!!!!!」
「ぶっヘァ!!??」
顔面をぶん殴られ、俺の体が宙を舞う。いや、舞うどころか吹き飛ぶ。そのまま扉をぶち破り、石造りの廊下の壁に背中から激突した。
「うおあびっくりしたぁ!?あ、あのニンジャに何かやられたかッ!?」
「も...元女神...」
「な...何!?」
「付いてなかった...」
「...何がッッッ!!!???」