禁止事項
「AAAAAAAAAAAAAAAッッッッッ!!!!!」
獣の咆哮のような叫ぶ声に、鼓膜がビリビリと痛む。
「ちょ...何アレ!?」
「俺に聞いても分かる訳あるかっ!」
いつの間にか黒い鎧を見に纏い、剣も先程までとは違うものを手にしているゼルベルが、ずるりと姿勢を崩す。
「うわぁ...何その殺気...」
異様な雰囲気に動揺し、刀を滴る血を振り払うこともしていなかったザンセツの背後に、突如として黒い影が揺れる。咄嗟に姿勢を低くしたザンセツのすぐ上を、黒い閃光が一線を引いた。
「速ッ...!?」
「Guu……!!!」
振り払ったザンセツの刀が、刀身を濡らしていた鮮血を散らす。そのまま構えを取るより先に、怒涛の剣撃がザンセツを襲う。
「UAAAAAAAAAAAAッッッ!!!!!」
「ぐ...くっ...重...い...!」
切先を添え、斬り下ろす方向をずらそうとしても、刃を絡め取り、剣を取り上げようとしても、一切が通用しない。一見、力に任せて剣を振り続けているだけのようだが、ザンセツの【剣術SS+】でも捌ききれない程の技術が込められた攻撃である。
「に、忍ッ!!」
勢いを増していくゼルベルの連打を受け止め続けていたザンセツが、吹き上がった煙と共に姿を消す。
「AA...?」
暫く黒い剣を空に斬らせていたゼルベルが、相手がいなくなっている事に気付き、辺りを見回す。
「国の術はあんまり使いたくなかったんだけど...ま、しょうがないか」
ザンセツの声が幾重にも重なって響く。ゼルベルを中心として、数十人にもなる同じ立ち姿の人物が立ち塞がっていた。
「みみみみ見ろエイトッ!忍術!!いや忍法!?」
「どっちでもいいけど凄ッ!!」
所謂分身の術、前の世界の漫画やアニメで散々目にしてきた伝説のような技。分身がただの幻なのか、攻撃性を持っているのかで大分強さに差が出るものと思われるが...そもそもこの技を出した時点で...
「さあ隊長さん!本物を見極める事ができ」
「UAAAAAAAAAAAAAAAッッッ!!!!!!!」
ザンセツの決め台詞の最中、咆哮と共に振り抜くゼルベルの斬撃。右脚を軸に勢いよく続けられる背面への一振り。
それぞれの斬撃は鋭く黒い波動を放ち、ゼルベルの周囲360度を斬り裂いていく。
「オワーーッ!!こっちにも来たーーッ!!」
「避けろ元女神ーーーーーッ!!」
バスバスバスと小切れの良い音を立てながら、取り囲んでいたザンセツ達の体が血飛沫やいろいろなものを吹き出しながら、上下に切り裂かれていく。
「グ...グローーーーーッ!!!」
「分身は煙とか木とかになれッッ!!」
地獄絵図の最中、ゼルベルの背後に飛びかかる影が一つ。陽の光に照らされ、その手に持つ刃が光を放った。
「死に損ないの癖に...随分と手こずら」
「GYUAAッッ!!!」
「アレッ」
ぐりんと不規則な動きで振り向いたゼルベルが、空中のザンセツに向かって渾身の一撃を振り下ろす。最後の一撃の衝撃は大地を切り裂き、魔王城全体を揺らし、台風顔負けの風を吹き荒らし、空に浮かぶ雲を全て斬り落とす程であったという。
「最後の方...ボコボコだったけど」
「負けフラグ...凄かったしな」
今にも斬り落とされそうな快晴の下、たとえ分身の術を覚えたとしても、ちょっと立つのが億劫な時くらいにしか使うまいなどと考えるのであった。