目覚め
「ッ...ハァ、中々...手練れでござるな...!」
「ふぅ...僕も舐めてかかってたよ、ごめんね。てっきり三下かと」
「はは...低級魔族は大変でござるな...」
ザンセツがゆっくりと刀を構えるのに合わせ、五反田も再び剣を構えた。
「次は...ちゃんとやるよ」
「こっちは...始めからちゃんとやってるでござるッ!」
斬り下ろし、去なし、斬り上げ、躱し、払い、弾き。広い訓練場に、ただ刃のぶつかる音が響く。
幾重かに繰り返される攻防の最中、ザンセツの薙いだ忍刀を捕えた五反田が、それを弾きあげる勢いそのままに、大きく振りかぶった。
「うわっ!?」
「取ったッ!」
五反田が素早く剣を振り切った。
その鋒が空を斬ると同時に、彼の体を鈍く光る忍刀が貫く。
「悪いけど、僕の得物は突き刺す方のが得意なんだ」
剣を振り切った五反田の懐に滑り込み、最も容易くその鉄製の体を貫いてみせたザンセツが、不敵に微笑んだ。
「不覚...!」
刃が引き抜かれると、五反田の体は力無く地面に倒れ伏した。ザンセツは転がった甲冑を踏みつけ、さらに刀を突きつける。
「アーマーガイストは復活が面倒だったな...一応、ちゃんととどめを...」
「待ちなさいッ!!」
背後から放たれた声に、突き立てた刀から力を抜き、ゆっくりと振り返るザンセツ。そこには、頭から血を流し、今にも倒れそうになりながら歩む、ゼルベルの姿があった。
「...生きてたんだ」
「貴方を止めるまで、死ぬ訳にはいきません...!」
ふらふらとおぼつかない足取りで構えを取るゼルベルに対し、ザンセツも納めた刀の柄に手を伸ばす。
「ぐっ...!?」
「無理でしょ、その体じゃ」
忍刀を抜いたザンセツが、幻のように姿を朧げにさせながら、ゼルベルに向かって歩き始める。多量の出血により意識が朦朧とし、ゼルベルが膝をついたタイミングで、ザンセツが勢いよく地面を蹴り、姿を消した。
「今度は、仕留める」
動けずにいるゼルベルの首元に、怪しく光る刃が差し迫った。
「「隊長ッ!!!」」
噴き上がる血飛沫、切り抜いたザンセツの忍刀に滴る鮮血。地面に吹き飛ばされたゼルベルは急いで顔をあげ、先程まで自分が立っていた場所を見やる。
「あ...貴方達...!!」
血溜まりの上で、二人の隊員が動かなくなっていた。
「あーあ...死んじゃったよ?隊長さんっ」
「あ...あああ...ああああああああああ」
ゼルベルが頭を抱えて項垂れる。その体に陰が差し、どす黒い瘴気に飲み込まれていく。混乱と涙で視界がぐしゃぐしゃになっていくにつれ、ゼルベルの意識は闇の中へ沈んでいく。
「な...なに?」
闇に飲まれていくゼルベルの頭を黒い兜が覆い、目の前の地面にはどす黒い赤色に染まった剣が現れる。
「aa…」
漆黒に染まった騎士は、突き立てられた血染めの剣を手に取り、張り裂けんばかりの咆哮を放った。
「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッッッ!!!!!!!」