責任
「私が...隊長に、ですか?」
思わず伏していた顔を上げ、目の前で玉座に座る魔王様の顔を見つめる。
「うむ。人間との争いも収束した今、防衛隊の強化もしなければならぬ」
「それであれば...私以外にも適任はいます」
「ほう...適任、とは?」
「それは...私より戦闘で役立てる者も、周りの者と統率が取れている者も大勢います。私などではなく、彼らに任せるのが良いかと...」
そう、私は強くない。ただでさえ戦闘力の高くない防衛隊の中でも、上層にいるかどうかさえ微妙だ。その上、隊を統率する指揮力もそれ程高くはないだろう。
だから、隊長などという地位、私には相応しくないのだ。
「知っている」
「...は?」
「ゼルベル。其方の戦闘力が高くないのも、指揮の経験が無いことも知っている」
「魔王様...」
「その上で、我は其方を信用し、隊長に推薦した。魔王軍皆の期待に応えられると考えたからだ。その責任...共に背負ってはくれぬか」
全く、いい上司を持ったものだと、思わず笑みが漏れる。魔王様は、私の事を分かった上でこう言ってくれている。そんな風に頼まれてしまっては、断ることなどできるものか。
「...はい。謹んで、お受けさせて頂きます」
私はこの時、魔王様と軍の皆を守るという責任を負う事になった。強くなる、皆を守れる力を身に付ける事を誓ったのだ。
*****
「ぐ...」
破壊された壁面にめり込んだ体に、パラパラと小さな瓦礫が落ちる。霞む視界の中、ヤツとアーマーガイストが交戦している様子が遠くに見えた。
動け。動かなくては。
しかし、体が言う事を聞かない。何とか地面に手を着けても、震えるばかりで力を込める事ができず、転んでしまう。離れた場所まで飛ばされてしまった剣の元まで這って近付き、それを支えに何とか立ち上がる。
「私が...守る...!」
激しい剣撃がぶつかり合う戦いの場へ、小さく、強い足取りで、戻っていく。
*****
「よっしゃー!やったれ五反田ーッ!!」
「が...頑張れ五反田ー!」
元女神と共に、ザンセツと戦闘を繰り広げる五反田に声援を送る。ゼルベルと戦った時と同様の、全方向から来る見えない斬撃が止めどなく繰り返されているが、五反田は攻撃の合間を縫ってカウンターに転じたり、あまつさえ受け止めた刃を素手で掴んで引き寄せ、その体を蹴り飛ばしたりしている。
魔王軍防衛隊隊長を務めるゼルベルを圧倒的に凌ぐその戦いぶりに惚れ惚れしながら、本当にアイツ強かったんだなぁ、などと思い耽るのであった。