ビバ科学世界
部屋のデスクに座り、パソコンで通販サイトを見て回る。後ろでは、元女神がベッドに寝転び、かれこれ一時間ほど漫画を読み耽っている。
ここは、現女神によって魔王城の一角に生成された、前の世界で俺が暮らしていた部屋の再現だ。本やパソコンなど、そこにあった物はそっくりそのまま再現されている。電気やインターネットが通っている訳ではないが、大手通販サイトと、某イラスト投稿サイトだけは閲覧する事ができるらしい。月五千円までの買い物と、俺が能力を使いこなすための参考にとの事だ。
謎技術も謎技術だが、今はそれよりも気になる事がある。
「...なあ、女神」
「ん......なに?」
「お前、本当は俺らの世界のこと好きだろ」
「うん.........あ待て違う!!!」
返事からかなりの時間の後、勢いよく顔をあげた元女神がこちらを向いた。
「マジで違うからな!!我は科学世界の下劣なコンテンツなど...」
『めっちゃ好きィ...』
「アッ」
『一応成功してる世界だから勉強しとこうと思って...調べてる間にハマっちゃったんだよぉ...』
「いやっ、違う...これは...」
『何アレズルいじゃん!絵とか動かして映像にしちゃうし!印刷技術も物凄いから漫画もいっぱい作れるし!こっちの世界の本ほぼ字だからな字!汚ったない文字と汚ったない印刷だけ!!いいなーそっちの世界ー!科学めっちゃ面白いじゃーーーん!!』
「あ...あぁあ〜...」
元女神の思考がひとしきり解放された頃、当の本人はベッドの上で完全に伸び切っていた。
「まあ...スパイダーマンの時からおかしいと思ってたが...」
「いいじゃん...」
「え?」
「いいじゃーーーん!!」
元女神が手足を放り出し、持っていた漫画をぶん投げる。顔面に向かって飛んできた漫画を、首を反らせて間一髪で回避。A5判だったら喰らっていた...
「ハマったっていいじゃんだってめっちゃ面白いんだもん!!映画とかアニメとか漫画とか一個見たら止まんなくなっちゃうし!でもこっちの世界の管理で全部見る時間も無いし!悔しかったのーーーッ!!!」
ベッドの上で手足をじたばたさせながら、烈火の如く叫び続ける。集合住宅であれば間違いなく壁ドン床ドン天井ドンのコンボを喰らう喧しさだ。
「あとゲーム!!ゲームとかもめっちゃ面白そうだし!!でもそっちの世界の住人ですら手に入らないとかで神の世界には絶対に流通しないし!!」
「ゲームなら押し入れに...」
「あるの!?ほんと!?」
「う...うん」
ベッドから転げ落ちそうになる程身を乗り出す元女神の切り替えと勢いに押され、すぐに椅子から立ち上がり、服やダンボールが雑多に詰め込まれたクローゼットを漁る。
「っと...あったあった」
少し埃っぽくなった箱を引き摺り出す。現行の型よりは一つ前の物だが、十分現役で使えるハードだ。
「凄い...これが本物!は、早く!早く遊びたい!」
「まあまあ待て待て。えーと...HDMIケーブルと...本体の電源は...」
親戚から貰ってきた無駄に大きなテレビにケーブルを繋ぐ。背後では、元女神がぴょんぴょんと飛び跳ねている。
「...よし!これでオーケー!」
「やったー!早速遊」
元女神がコントローラーに飛びかかったその瞬間、部屋のドアが勢いよく開かれ、元気そうな五反田が姿を現した。
「エイト殿ー!魔王様がお呼びでござるー!」
「分かった、すぐ行く」
「やや!女神殿もここでしたか!ご一緒にとの事なので、今すぐご同行お願いするでござる!」
「えーーーーーーーーーーッッッ!!!???」