魔術探求者の絶技
「や...やったーー!!やっぱりオレ強い!!」
メタルゴーレムをいとも簡単に破壊してしまった青年は、再び自らの力に歓喜し、調子に乗り始めてしまった。
「伊香保!なんか!なんか他の魔法!!」
「ゆゆゆゆゆゆらさないでででででで」
気持ちは分かるが元女神よ、それ以上肩を揺すると伊香保が脳震盪かなんかになるぞ。
「ぶ...物理的な硬さがダメなら...これで!!」
伊香保が再び両腕を振り上げると、地面に巨大な魔法陣が出現し、眩い光と共に巨大な何かを召喚し始めた。半透明のぷるぷるしたピンク一色の巨大な塊を目の前にしても、最早青年は少しも怯える様子はない。
「今度はスライムか!オレが知ってる色じゃねーけど余裕だぜ!」
「ハ、ハードスライムです!魔力で強化したから物理攻撃では絶対に倒せませんよ!」
「おい、絶対だってよ」
「うむ、我らは逃げておこう」
伊香保の言動に一抹の不安を覚えた俺と元女神は、足早にその場を離れ、少し離れた倒壊した民家の影に隠れた。
「さ...さあ、降伏して下さい!従わない場合はハードスライムに取り込んで窒息させることも辞さ」
「おらッ」
パンッ、と綺麗な音を立て、巨大なハードスライムが弾け飛ぶ。ピンク色のドロドロネバネバの液体の波が伊香保を飲み込んだ。
「やんっ」
俺と元女神は急いで瓦礫の上に駆け上がり難を逃れた。しかし、あたり一面ピンク色のぐしゃぐしゃになった一面に立っていた伊香保は、全身ピンク色のスライムに塗れ、ヌルヌルテカテカの肢体を、乱れたローブの隙間から曝け出していた。
「う...うえ〜ん...」
「い、伊香保ーッ!!」
「ウオアー隠せッ!!隠さないと我の世界の青少年の健全な心の成長に悪影響を及ぼすッ!!」
ぐすぐすと泣き始める伊香保に急いで駆け寄る。途中、スライムの塊で滑って元女神がすっ転んだ。
「よぉーし!次はお前らだ!」
「やっべアイツこっち見てる!おいエイト!なんか描けッ!」
「え?えー...あ、そっか!」
すっかり忘れていた小脇に抱えたままのスケッチブックとペンを取り出し、適当に目一杯の大きな四角形を描く。
次の瞬間、ポンっと軽い音と少しの煙を出しながら、お手頃なサイズのブランケットが目の前に現れ、ふわりと地面に落ちた。
「...何描いたの?」
「...か、壁」
「下手!!絵ェめっちゃ下手じゃんお前!」
「よし、とりあえずこれを伊香保に...」
「羽織らせてる場合かァーーーーッ!!!」